『子ども達に贈る12章』第7章―「生きる」とは何か
真弓定夫先生の著書『子ども達に贈る12章』、今回は第7章をご紹介します。
生きる原点は、出産のその瞬間にある
真弓先生はこう語りかけます。
「一度しかない人生を、それぞれの個性に応じた主体性を持って自主的に送ることが望ましい」
終戦(昭和20年)前まで、そうした生き方をしている人は多かった。しかし終戦後65年を経た今、年とともに自主性・主体性を持って生きる人が減ってきている――その原因を先生は、乳児期の育児の変化に見ています。
「生きる原点は出産時にある。出産において主体性を持つのは子どもの側である」
この一文が、この章全体の核心です。
「生まれる」から「産む・産ませる」へ
真弓先生は「啐啄(そったく)」という言葉でこれを説明します。鳥の雛が殻の内側をつついて孵化の合図を送り(啐)、それを受けた親が外側から殻を割る(啄)。人の出産もまったく同じで、子どもの側から「もうすぐ生まれますよ」という合図が発せられ、それを受けた母親がホルモンや自律神経のバランスを整えて産む態勢に入るのです。
終戦前、出産数は曜日を問わず一定で、時刻も明け方(午前4〜8時)がわずかに多いという自然なリズムがありました。
ところが今はどうでしょうか。病院出産が主流となった現代では、土・日・祝日の出産数が平日より明らかに少なく、午後1〜4時の出産が増えています。子どもの「生まれる」が、大人の都合による「産む・産ませる」へと変わってきているのです。
真弓先生はこう言い切ります。「子どもの生きる力が、人生のスタートから減弱させられている」と。
母乳でなく「他種の動物の乳」で育てることの問題
地球上には4000種を超える哺乳動物がいます。「同種の乳で仔を哺育する」というのが哺乳動物の鉄則であり、ネズミの子に最も合う乳はネズミの母乳、ライオンの子にはライオンの母乳です。
終戦前まで、日本人の子どもはほとんどが母乳で育てられていました。しかし終戦後、GHQの占領政策を契機に牛乳哺育が広まり、今や母乳よりも牛乳(人工・混合栄養)で育てられる子どものほうが多いという、自然の摂理に反する事態が生じています。
さらに先生が憂えるのは、断乳後も牛乳を飲ませ続けることです。ヒト以外の哺乳動物は断乳とともに二度と乳を口にしません。しかし日本の母親の多くは、断乳後も牛乳を与え続ける。それが母親からの自立を遅らせ、ひいては無気力・無関心・無感動の若者やニート族を生み出す一因になっている、と真弓先生は指摘します。
おんぶ・抱っこが「生きる力」を育む
母乳哺育から人工哺育への転換は、母子の触れ合いの機会をも大きく減らしました。
母乳を抱いて飲ませることで、子どもは胎児期から慣れ親しんできた母親の心音に触れ、心の安定が得られます。一方、寝かせたまま哺乳瓶を与える人工哺育では、この接触がほとんどありません。
終戦前、日本はおんぶ・抱っこをよくする国として世界に知られていました。来日したスウェーデンの小児科医リンド氏はその光景に感銘を受け、帰国後に「KODOMO」の商標でおぶい紐を市販したほどです。おんぶ・抱っこは心の安定だけでなく、手の力や器用さを育てる上でも重要であり、近年増えている「手の不器用な子ども」の多くが人工哺育児であることは注目すべき事実です。
吸う力に60倍の差
母乳と哺乳瓶には、吸う力の面で大きな差があります。母親の乳首は固く、孔も小さいため、飲むには相応の力が必要です。それが吸啜力を鍛え、将来の咀嚼力の土台になります。
一方、哺乳瓶の乳首は柔らかく、孔も大きく開けられています。楽に飲めるよう設計されているのです。ある小児科医によれば、母乳哺育児と人工哺育児の吸啜力の差は60対1にも達するといいます。
真弓先生はかつて看護学校で「母乳哺育と人工哺育の相違点」を卒業試験に出題していました。多くの生徒が免疫・栄養・衛生面を挙げる中、ある女子生徒はただ一言「容れ物が魅力的で優れている」とだけ書いた。当初は拍子抜けしたものの、先生は今になってこう思うといいます。「あれこそが最も大きな相違点であり、情緒面も含めて子どもの生きる力を育む礎だったのかもしれない」と。
遅すぎることはない
終戦後のアメリカ主導の育児が、日本人の心身の健康をどれほど歪めてきたか。この章を読むと、それがいかに根深い問題であるかがわかります。
すでに子どもが成長してしまった方は「もう遅い」と感じるかもしれません。しかし真弓先生はこう言い切ります。「決してそのようなことはない。思い立ったが吉日なのです」
そして、先生が外来で親御さんたちに伝え続けてきた言葉で、この章は締めくくられています。
「育児はその人が生まれる20年前から始まる。わが子を、しっかりとした孫育てができる親にするためには、20年の歳月が必要なのです」
脱薬薬剤師より
この第7章を読んで、あらためて「育てる」の起点がどこにあるかを考えさせられました。
出産の形、授乳の方法、抱き方……どれも「今どきの当たり前」として疑いなく行われていることが、実は子どもの生きる力に深く関わっているのです。
次回は第8章をご紹介します。
治療より予防。薬に頼る前に、まず健康的な生活習慣を。
子どもたちの未来のために、今できることから始めませんか。