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サンダーバード2443

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2007.10.05
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テーマ: 愛の大切さ(7)
カテゴリ: カテゴリ未分類





夜空は、なぜこうも安心させてくれるのだろう?

 赤く穢れた自分の姿さえ、やさしく照らしてくれる。

 目に触れるものを、全て儚く見せる。

 夜空の光には、そんな労りがあるような気がする。

 しかし、その光さえも、自分にふさわしいのか。

 夜空が、全てを覆い尽くす闇ならば・・・…・・・・・…



「ゼルガディス殿。どうかなさいましたか?」

 ぼんやりと空を見上げているゼルガディスに、ゾルフが声をかけてきた。

 その声に、ゼルガディスが視線を向けると、どこか不安そうなゾルフと、

 ロディマスの顔が視界に入った。

「なんでもない」

 ゼルガディスは、ふっと顔を夜空からそむけると、くるりと二人の部下に背を向けた。

 白い巻頭衣の半ばまでも血に汚れ、元の色が何色かさえも分からないほどに汚れている。

 だが、ゼルガディスの容姿と、それは、恐ろしいほどによく合っていた。

 金属で出来た銀の髪。

 青黒い岩の肌。

 エルフのように尖った耳。

 無機質な印象を与えるその容姿に、赤い血が見事に命を描き出す。本人が、

 望んでいる事ではないだろうが。

「心配だな」

「ああ」

 ゼルガディスの背中を見守っていた二人の部下は、同時に頷いた。

 夜空の光の中で佇んでいた彼らの上司は、ひどく儚く,消えてしまいそうに見えた。

 それは、今に限った事ではない。

 自らの望んだ未来を閉ざされた青年は、時としてひどく消えいりそうな、

 弱いものに見える。

 いつも張り詰めていて、それが緩んだ瞬間に消えてしまうのではないかという錯覚。

 最近、それが徐々に強くなってきている。

「お辛いだろうな」

「儂らには、分からんほどに複雑だろうよ」

 報告に行く上司の背中を見つめながら、ゾルフとロディマスは苦々しく吐き捨てた。

 静かな夜空が、少し震えた。



「報告に参りました、レゾ様」

 扉の前に立ち、ゼルガディスは声をかけた。すぐに、人が動く気配と返事が返ってくる。

「それは早かったですね。お入りなさい」

 静かな、柔らかとも思えるこの声の中に、誰がその本性を見抜く事が出来るだろう。

 そう思いながら、扉を開き中へと入る。

 そこには、赤い法衣を身にまとった一人の青年の姿がある。赤法師レゾ。

 世間では『五賢者』の一人として崇められてる、聖人君子。仮面をはがせば、

 ただのエゴの塊。

 その塊に向かって、ゼルガディスは恭しく頭を下げた。

「目的のものは、あそこにはありませんでした」

 淡々とした報告のみの口調。その事に、レゾは軽く眉をひそめた。

「ゼルガディス。二人の時はそれほど、丁寧にしなくていいと言っておいたはずです」

 すっと、レゾが立ち上がる。その目は堅く閉じられているというのに、

 真っ直ぐにゼルガディスに向かって歩み寄ってくる。そして、

 労るようにその肩に手を置くと、近くの椅子に座らせ、自分もその正面に座る。

 近くにある机から、ワインの入ったグラスを手に取りゆっくりと傾ける。

「どうですか?」

「結構だ」

 硬い表情のまま、ゼルガディスは拒絶した。レゾは、気にした様子も無く

 グラスの中身をゆっくりと開ける。

 それを横目に見ながら、ゼルガディスは淡々と報告を済ませていく。

「……というわけで、恐らくすでに、他の者の手に渡ったと考えられる。以後、

 それの捜索にあたる。以上だ」

「なるほど」

 ゼルガディスの報告に、レゾは軽く頬を緩めた。何人死んだか、殺したか。

 そんな事は聞かない。彼の関心は、ただ目的の達成か否かだけだから。

 それを知っているがゆえに、ゼルガディスも,必要最低限の事しか報告しない。

 レゾが、すっとグラスをゼルガディスに向かって掲げて見せた。

「優秀な片腕のおかげで、私は煩わし思いをしなくて済む。無能な部下は、

 生きている価値すらない」

 自分の台詞が気にいったのか、レゾは小さくのどを震わせた。ゼルガディスの前に、

 一体何人の人間が殺されたのか・・・・・…。

 ゼルガディスは、何も言わず、表情を押し殺したまま、そんなレゾを見つめている。



―その強さに、憧れた事もあった。

―かつて、師と呼んだ事もあった。

―そして、裏切られた。



 自分の想いに、ゼルガディスは軽く目を閉じた。

 今はまだ、自分の感情をレゾに気取らせるわけにはいかない。まだ、彼は隙を見せない。

 わずかに波立った心を抑え、ゆっくりと目を開ける。

 そこには、レゾが可笑しそうに自分を見つめていた。

「なんだ?」

 問うゼルガディスに、レゾは軽く首を振った。

「いいえ。あなたもこの仕事に慣れたようですね」

「まあな」

 軽く答える。

 思い出される、仕事に慣れていなかった頃。

 つまり、人を殺し慣れていなかった頃。

 初めて仕事に行った時、彼はレゾにより体の自由を奪われた。そして,

 彼の命ずるままに殺戮を犯し、生ある者全てを消し去るまで止まらなかった。

 正気に戻った後、自ら浴びた返り血を見て、狂うのではないかと思った。

 だが、彼は正気を保っている。レゾへの憎悪が無ければ、狂ってしまえるのに。

 そうすれば、もっと、楽だったのかもしれない。

 あるいは,それすらもこの男は計算しているのかもしれないが。



 穏やかな微笑を保った青年の顔をじっと見つめる。

 そして、ああ、やはりと思う。

 自分が憧れていた頃の彼と、少し違和感があるように感じる。

 昔に何も知らなかったせいだと、最初は思った。

 その頃の思い込みと、今が違いすぎるためにそう感じるのだと、そう思っていた。

 しかし、自分が側にいた数年の間に、彼は少しずつ変わってきているように

 思えて仕方がない。

 どこか、その笑顔に禍禍しさが潜む。一緒の部屋にいるだけで、

 息苦しさに胸がむかついてくる。

 それがひどくならないうちに、部屋を出ようとゼルガディスは立ち上がった。

「休む」

 一言告げ、扉に向かって一歩踏み出す。

「なにか、聞きたい事は?」

 唐突に、レゾが声をかけた。

 その言葉に、ゼルガディスはゆっくりと振りかえる。

 いつの間にか、レゾも立ち上がり、彼の真後ろに立っていた。別に驚く事では無いが、

 突然の質問に、つい言葉が滑り出る。

「あんたは、…………誰だ?」

 その質問は、笑い飛ばされるものと思っていた。しかし、

 レゾは音も無くゼルガディスに近寄り、ぎりっとゼルガディスの腕を掴んだ。

 その力の強さに、ゼルガディスの顔が苦痛に歪む。

 レゾは、そんなゼルガディスの耳元に、そっと顔を近づける。

「私は、赤法師レゾ。あなたの先祖にして、その体にした者。そんな事が、

 どうかしましたか?私が誰なのか、あなたが一番知っているでしょうに」

 冷たい声。肉親では、ありえないその声に、ゼルガディスはぐっと息を飲む。

 疑惑が、また大きくなる。



 レゾの部屋を後にし、ゼルガディスはそのまま外に出た。

 まだ少し痛む腕を抑えながら、近くにあった岩に腰を下ろす。

 そして、ぼんやりと空を見上げた。

 ―あれは、一体誰なのだろう。人は、歳月と共に変わるというが、

 あれほどまでに変わるものだろうか?





 かつて、憧れていた遠い昔。 

 あれは、演技でしかなかったのだろうか。

 それとも、憧れに目隠しされていた自分が見た虚像だったのか。

 分からないままに空を見上げる。

 小さく瞬く光が、優しく全身を照らしだす。

 冷たいその光が、限りない優しさを含んでいる様で、切なくなる。

 夜空を見上げたまま、ゼルガディスは動かない。

 上を向いたまま、涙さえ流さずに慟哭する。

 変わってしまった憧れに。

 壊れてしまった自分に。

 汚してしまった、多くの者に。



 迷いと、後悔と、悔恨を包み込んで、夜空はやさしく輝いていた。








こんな詩を、読みながら、今日は、…





                        おやすみなさい









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Last updated  2007.10.05 06:37:03
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