**Diary**

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手術



手術


平成15年7月22日

イガ丸朝、5時半起床。どうやらお漏らしをして起きてしまったみたい。起きたら、隣にパパがいたのでパニックになっちゃって6時に病院に着いたら、ロビーで「ママママ」と泣いていた。ごめんね。こんなことなら、家に帰るんじゃなかったな。本当にごめんね。

手術室に8時半に出発するイガ丸を見送るために、朝早くからじいこやばあこ、ブブ香、じいちゃん、ばあちゃんが7時頃から来てくれた。特に久しぶりに会ったブブ香は嬉しかったらしく、2人で走り回って大はしゃぎ。いつもは
「朝、早いから静かにしなさい。」
と言うんだけど、今日はいいよね。みなさん許してね。
だって、イガ丸は喋れるのも走れるのもこれで最後かもしれない。笑えるのもこれで最後かもしれない。ママと呼んでくれるのも最後かも。そう思いながら、ビデオや写真を撮りまくる。レンズを見ながら、涙が出そうになる。ぐっと我慢。
主治医の先生が、イガ丸を探しにロビーに来てくれた。
「イガ丸君、ここにいたの。探したよ。今日も元気そうだね。今日は頑張ろうね」
それだけを言いに来てくれた。本当に先生お願いします。

8時半、手術着に着替えてオペ室に出発。イガ丸はどこに行くのか不思議そう。右手にアバレブラックの人形を持たせて、左手はママと握る。黄色の子供用のベットに乗せられ、エレベーターで遠くまで移動。オペ室はものすごく遠かった。イガ丸は相変わらず元気いっぱい。「アバアバアバアバアバレンジャー」とお気に入りの歌を唄って、ご機嫌。きっとすれ違った誰もが今から手術に行くなんて思いもしないだろうな。

オペ室に到着。手術をする方たちがたくさんベットに横たわって、ドアの前に待機していた。順番にオペ室に入るらしい。イガ丸の番になるまでに色々なことを考えた。パパに、
「ねえ、イガ丸連れて家に帰ろう。手術受けるのやめよう。こんなに元気なんだもん。腫瘍なんてないよ、間違いだって。」
自分でもめちゃめちゃなことを言っているのはよく分かっていた。でも、イガ丸を失いたくなかった。

事前のICUの担当看護士の方からの説明時に、私も手術室に入っても良いと許可をもらっていた。麻酔をかけて意識がなくなるまで側にいてあげてくださいと言われていたので、安心していた。でも、実際は違った。オペ室に到着したイガ丸は、物々しい雰囲気に不安になったのか、
「ママ、だっこ」
と言う。迷わず抱っこしてやったものの、看護婦さんは
「じゃあ、イガ丸君行きますよ。」
と私からイガ丸を奪うようにさらっていった。もちろんイガ丸は大泣き。
「ママ~ママ~」
と叫びながら、オペ室の中に。ゆっくりと扉が閉まってしまった。
私は精神的に本当に参っていた。今まで泣きたくても泣けなかったのが、張りつめていたものが全部突然切れてしまった。突然目の前が真っ暗になってふらっと倒れてしまう。心配した私の両親がオペ室まで迎えに来てくれる。でも、ごめん。今は何も耳に入らない。

長い長い1日が始まった。

イガ丸の側にいたかったので、オペ室前で待機していたい気持ちだったが、許されておらず病室かロビーで待機して下さいと言われる。何とも落ち着かない。パパはどっしり構えて本当に偉い。
「僕は病室で鶴でも折ってるから、(パパはイガ丸のために千羽鶴を作っていた)たまご姫はブブ香たちと公園でも(病院の隣に大きな公園があるのだ)散歩しておいで」
と言ってくれる。気が紛れるかなあと思い、ブブ香と母と散歩に出かける。ブブ香も久しぶりに公園に出かけたようで大喜びだった。その笑顔を見ていると本当に救われた。私の子どもはイガ丸だけじゃないんだ、ごめんねブブ香。寂しい思いをさせちゃって。

それから、夕方まで何をしていたか正直覚えてない。お昼寝をしたブブ香は一端家に帰った。また、落ち着かなくなる。

イガ丸は、腫瘍の大きさ・場所からかなり長い時間オペにかかると言われていた。早くて夕方。遅くて真夜中と言われていた。夕方くらいからだんだんと落ち着かなくなってきた。

夕飯はのどを通らない。みんなが
「何か口に入れないと」
と口々に言ってくれるも、正直ほっといてくれと言う感じ。心配してくれているのは痛いほど分かっていたものの、正直いっぱいいっぱいだった。

9時半頃、病室に手術終了の連絡。イガ丸に見せようとアバレッドの人形を握りしめ、走って走ってICUにパパと向かう。こんなに走ったのはどれだけぶりかな。全力疾走。ICUに到着。急に不安になる。
(イガ丸、生きてるかな)
(呼吸とかできてるかな)
(大丈夫かな、大丈夫かな)
心配ばかり。足がすくんでICUに入れない。

先生に手術前こう言われていた。
「悪性ならば、少し腫瘍を残しても後の治療に任せることができます。しかし、良性ならば取りきらなければ根治の道はありません。」
だから、パパと話していた。
「悪性なら、手術は短く終わるよね。良性なら、きっと長いね。」
13時間という手術の時間は長いのか短いのかは分からない。でも、真夜中までかかると言われたことから考えると短いのかも。やっぱり悪性なのかな…。

パパに引っ張られ、ICUに入る。
入り口のソファーの所で、汗びっしょりの主治医の先生が待っていてくれた。先生は笑顔だ。なぜ??それは、思ってもいない本当に思ってもいなかった結果だった。
「良かったですね。腫瘍は良性の物でしたよ。頭を開けた瞬間、分かりました。だから正直まずいなと思ったんですが、(脳幹をさわることになるかもしれないから。障害を覚悟しないといけない)本当にぺろっときれいに取れました。手術中の水頭症もなく、輸血もしませんでした。これからは、つらい治療は(抗ガン剤、放射線治療)必要なく定期的に写真を撮るだけの治療でいいと思います。
イガ丸君、よく頑張りました。ほめてあげてくださいね。意識もしっかりしていて、ママママと呼んでいますよ。」
先生に抱きつきたい気持ちだった。本当にイガ丸の命を救ってくれてありがとう。どれだけ感謝しても感謝しきれない。

ICUに入ったら、ちょっとぼ~っとして目の焦点の合わないイガ丸が裸ん坊でベットに横たわっていた。体中に点滴をつながれ、口には酸素マスク、おしっこは管で取っている。かわいそうな姿だったが、私はブブ香の時にこんな姿は見慣れている。必死で語りかけた。
「イガ丸。よく頑張ったね。分かる?ママだよ。ママだよ。」
イガ丸はちらっとこっちを見るものの、言葉はでない。先生が
「手術が終わって、覚醒したときすごい暴れて、『お鼻の管取ってください。』『ママはどこですか』『やめてください』って話してたんだよ。全部敬語でね。麻酔科の先生たちと偉い子だねって笑ってたんだよ。」
と教えてくれる。
何度も語りかけていたら、少しづつ喋る。
「ママ?パパ?」
一語文だ。良かった。私のこと覚えていてくれた。良かった。

パパが走って、ロビーで待っているじいこたちに報告に行く。今日だけは、じいこたちも面会しても良いのだ。じいちゃん・ばあちゃん、じいこ・ばあこの順に面会。みんな泣いていた。イガ丸はぼ~っとして、うとうとしている。途中痰がからみ、それをだせず肺がゼロゼロする。喉からカテーテルを入れ吸引してもらう。それを見ていた私の母は目を背け泣いていた。
「かわいそう」
そう言っていた。でも、それが肺炎の原因になるんだ。看護士さんは
「見てるとかわいそうですけど、肺炎になったら、命取りなのでやらさしてもらいますね。」
家はブブ香も保育器に入っていた頃しょっちゅう痰の吸入をしていた。私達はもう慣れっこだ。その必要性もよく分かっている。よろしくお願いしますと言う感じだ。

イガ丸はまだ3歳なのに、こんなに小さいのに、13時間もの長い間手術に耐えたんだもんね。疲れたよね。本当によく頑張ったね。
ゆっくりお休み…とICUを後にする。

それにしてもこんな結末になるとは、本当にさっきまでは思いもよらなかった。何だか、だまされているような感じだ。




長い長い1日が終わった。




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