天使の絵本

天使の絵本

魔法美少女・マジカルちくわ


んじゃ行くよ!

・ある日空から降ってきた。

有名なフレーズに「トラブルは異国から。」というのがある。
何が言いたいかと言うと、僕は今ダイエーの帰りで、かつ目的のブツが手に入った上機嫌な昼下がりである。
…つまり家路を急いでいた。
 しかし、可愛いものが目の前をよぎった気がして足を止める。
「何だ?今のは‥」
目の前を右から左に通り過ぎ、ゴミ置場に突っ込んで行く物体を見たのである。
‥‥一泊置いて、ゴミの山を見つめる。
・・・何か居る。
尻尾が見えてる。
左右にピコピコ揺れてる。
‥やっぱかわいい。
そっと手を出してそれを引っ込抜く。

ネコだ。
くろねこだ。
いや、むしろそれより遥かにディフォルメ入ってる。
もう抱き締めたい位可愛い。
背中の天使の羽もいい味出してる。

「なんじゃぁ、ワレ。」

ただし喋らなければ…。
「‥‥」
ネコが空を仰いで言う。
「時間あれへんな。」
茫然として顔にすら出ない僕。てゆーか猫のくせに日本語喋ってるし。
「あぁ~、ほんまはあいつやないとあかんねんけどなぁ。もぉええわ!!」
さっきの質問は何だったのか、勝手に独り言を口走ってキレる。
「おい、そこの眉毛!」
急にこっちを向いた猫が言った。
「これ持って叫べ。」

「‥え?‥い、いやや。」
そう言った僕にちくわを押し付けてくる。

「こっちもお前みたいな眉毛なんか嫌なんじゃ!でも仕方ないんじゃ!世界平和のためじゃ!死にた無かったら、サッサと叫べゃ!!」

「な、なんて?」
ネコの大きな態度に気押されて、思わず聞いた。
「ええか?時間無いから一回しか言わへんで!よう聞いときや!」
「は、はい。」
いつのまにか敬語になる。

「リリカルマジカルオレオレサギ。アイティーイーティーレモンティー。愛の力よ世界をすーくえ!」

‥‥‥‥‥。
「‥は?」
なんとかそれだけを口にする。遠くで大きな音がする。それを聞いたからか、猫が急に焦って言う。
「はよゆえや!」
物凄く嫌だけど。物凄く嫌だけど。仕方なく叫ぶ。
だってもう、人だって殺しそうな目をしてんだもん。
「り‥リリカルマジカルオレオレサギ。アイティーイーティーレモンティー。愛の力よ世界をすーくえ!」

渾身の力を込めて叫んだ。それはもう。
衆人環視のその下で。
もう恥も外聞もなかった。
‥‥‥ナノニ。
「あ、いまのは必殺技の時のやった。」

と来たもんだ。

猫がこっちを見る。

「そんな、血で泣かんでええがな。ほんまのはな……。」
猫の口に耳を持っていく。僕が黙る。…と
「はよゆえよ」
と念押しする。そろそろ猫の目がやばくなってきた気がするのは気のせいではあるまい。早くしなければ。

「宇宙に広がる神なる星よ。わが声を聞くがいい。蒼空より来る我の名はちくわ。その大いなる力を分け与えたまえ!」

……ちくわ?
と思った瞬間。辺りが光に包まれた。






光が消えた。
体が軽い。
建物が高い。
気分がいい。
とゆうか、
テンションが高い。
猫が鏡を持ってきた。
其処に映っているのは
可愛い女の子だ。
僕が右手を動かした。
少女も右の手を動かした。
………………。
てゆーか僕か!
これは僕か!
馬鹿か僕は!
「なんだこれは!」
声も可愛いじゃないか!
何してんだ僕は!
気分はノリノリじゃないか!
「先程の呪文のせいか!」
「その通りじゃ。」
あっさり認めんな!
「ちなみに、先程の呪文は竹輪型変身端末のパスワードなだけで。ほんまはちくわて叫ぶだけで変身できるから。」
頭を抱えて座り込んだ。今の台詞のせいもあるけど、鏡に映った自分は、可愛いフリフリのドレスを着ていて、あまりに似合い過ぎるその様に恋をしてしまいそうだったからだ。
ああ自己嫌悪自己嫌悪。
それでも気分はノリノリだ。なんか悲しい。
異様に悲しい。
そこで猫が叫ぶ。
「なにはともあれ、魔法美少女ちくわの誕生や!」
“美”?
ま、まあ、なにはともあれだ。

『ドカーン!!』

敵も来たみたいだし。
ものっそい煙上がってるし。観衆は逃げてしまったけど。まぁ変身を見られなかっただけいいや。

煙が消えてゆく。
影が見えはじめる。
魔法少女の敵だから、きっと悪の魔法少女とか、魔法の力を狙う黒ずくめとか、そんなんを想像してたんだけど。

煙の中から出てきたのは、ムキムキの鳥怪人だった。
・・・・・・。
「おい何だアレは。」
「何って、
鳥怪人トリガルガンやないけ。」
トリガルガン・・・。
何というネーミングセンス。
て言うかそれ以前に鳥怪人って魔法少女物に出て来ていいのか?
「ええねんええねん。この話適当やから。」
ちくわが白い目で猫を見る。
いや、適当とかそれ以前に、今、僕口に出さなかったよな?
猫がそれに笑って答える。
「ええとこに気ぃ付いたなぁ。これで一回でも変身した奴は、その後いつでも頭の中で相互通信可能なんや。」
僕の首から下がった竹輪のキーホルダーを指差して言う。ていうか嫌な機能だ。さっそく何か流れ込んできたし。

『ハァハァ。やっぱ人間の女の子はええわぁ。』
ていうかマジで嫌な機能だ。今すぐ何とかしてほしい。た・の・む・か・ら。
「何ゆうてんのん。お前もほんまは童顔巨乳のちくわちゃんは可愛ええ思てるくせに。」
・・・まぁ。否定はできないが。
「好き違うわ。」
「しとるやんけ。」
と二人で漫談をしていると、後ろの方から怪人の叫ぶ声がした。

「無視すんなこの野郎!」
と言って地団駄を踏む。
怪人が地団駄踏む光景というのは、もしかしたら世界初ではなかろうか。
ただ、魔女っ子にその存在を誇示する怪人と言うのも悲しい話だが‥。
それを差し引いても怪人は切実だった。

「さぁ、いざ尋常に勝負」と言って腕を構える。

僕も腕を構える。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待って?
なんかおかしくない?
『怪人VS魔法少女』で
ファイティングポーズってさぁ。
K-〇じゃないんだからさ。

猫の耳に口をあてる。
「ねぇ。」
猫がこっちを向いて言う。
「何や。」
小さな声で囁く。
「なんか無いの?」
猫の顔が突然歪んだ。
「食いもんやったらやらへんど。」
ちくわが頭を抱える。
ノリのいい奴だ。
「武器!武器!」
猫が言う。
「お前早いぞ。」

「何が!?」

「武器はピンチになってからやろがい。」

「知らないよ!!」

だんだん標準語になってきたちくわだ。

「しゃぁないのう。」

といって猫が異次元(あの黒い奴)に手を突っ込んだ。次第にちくわの期待も高まってゆく。

「これは…」

と言って何かを取り出した。

「一個だけあったで。」
「なになに?」

ちくわが覗き込む。
果たしてその手にあったのは・・・。

「マジカル☆鈍器やったら・・・・」

ちくわの顔が跳んだ。

「何よ鈍器て!何よ☆て!アホちゃうかあんた。角田かボケ!どんなスプラッタな魔法少女やねん。警察困るわアホんだらぁ!」

ひとしきり叫んで肩で息をする。

猫は猫で、ちくわの鋭いツッコミに満足気な顔をする。

そして怪人は泣いていた。それはもう激しくいじけていた。地面に「の」の字を書いてる奴なんて始めて見た。と密かに口にするちくわだった。

と、気を取り直して怪人が起き上がる。

「いい加減怒ったからなぁ!覚悟しろよぉ!!」

今度は本気だったらしい。大きく振りかぶってパンチを繰り出してくる。直線コースだ。このままだとちくわに直撃する。が、何せ直線コースだ。すぐに避けられるのだが、ちくわはそうしなかった。じゃあ何をしたのか。それは見ればわかる。まぁ見えなくてもわかる。猫を盾にしたのである。
「ぎにゃぁ!!!」
という声を残して、勢いづいた怪人と一緒に後ろのゴミ捨て場に突っ込んでいってしまった。

しばらくの間沈黙が続く。


さらに嫌な音が聞こえ始める。プチプチプチプチ聞こえる。たぶん怪人と猫のキレた音だ。
正直やばいかもしれない。だって手元には武器がないんだもの。ゴミ捨て場を軽く吹き飛ばしてしまう怪人と、怒った猫のベストコンビなんてさばけるわけがない。

「ど、どないしまひょ。」
戸惑うちくわに怪人と猫が答える。
「知~る~か~!!」

二人の声が重なる。まさに地獄の二重奏である。
さらに二人の目が同時に光る。
ちくわがその短い生涯の終わりを思いがけない姿で覚悟しかけたその時である。
ふとちくわの頭をある言葉がよぎった。

あれである。

成功するかはわからなかったが、今のちくわに選択肢はなかった。

マジカル☆鈍器を握って覚悟を決める。

それに激しく反応を示したのが猫である。
頭の中で相互通信が可能であるからして、ちくわの思考はすべてだだもれなのだ。だから猫にはちくわが何をしたいのかがわかったのである。

「あ、あかん!やめてー!!!!」
ただ、それが裏目に出るのだった。
ちくわが「ああこれでいいのか」と納得したのである。

そして深く深呼吸をする。
大きな声で叫ぶ猫を遠くに感じながら、マジカル☆鈍器を振り上げた。


「リリカルマジカルオレオレサギ。アイティーイーティーレモンティー。愛の力よ世界をすーくえ!」



ピカっと光った。
まずわかったのはそれだけだった。
ふわふわとぼんやり光る玉が世界を一瞬だけ支配して、急に下から沸き上がる力に吹き上げられて、スカートと怪人と猫がふわりと浮き上がった。
そして次の瞬間、桃色の世界がふわりと爆発した。
まるで温泉でも掘りあてたかのように、猫と怪人の足元をふわりと通り過ぎていった。
少し幻想的な光景だった。ただし猫が「ひでぶ」とか言わなければ。

そこでふと、意識が途切れた。













目が覚めると自宅の布団の上だった。横には幸せそうな笑顔の猫が寝ている。何をむさい男の隣で、と思ったらまだちくわのままだった。なんか騙された気分だった。
とりあえず猫を叩き起こす。首をガクガクと振りたくってようやく目を覚ました。
「早く元に戻して」
寝呆け眼の猫があくびをして、再び寝に掛かったので今度は往復ビンタを食らわした。
「おかしいなぁ。勝手に戻るはずやねんけどなぁ。」
ちくわがいやな予感を誤魔化しかけたときである。
「たぶんそれやと思う。」
猫が嫌な予感をはっきりと肯定した。

ちくわがはっきりと顔をしかめた。



只野平学園(最近)卒業。現在(おそらく)19才。私東たかふみは、つい昨日魔法少女になった瞬間から「元に戻れなく」なっちゃいました。


魔法美少女・マジカルちくわ‥‥‥‥完。

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