Apr 8, 2004
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それは、春先の少し冷たい風が吹いている夜だった。
一匹の若い狼が、小さな丘の上で昇り始める月を待っていた。

昨晩は、本物の満月が輝いていて、月の光で暗い森も明るく見えていた。
仲間たちとも、月の下の広い原っぱではしゃいだ。
「今夜はきれいな満月だな」
「そうだな。…高いな」
「こんなに近くにあるのに、俺たちには届かない。敵わないね」
「明日には、こんな【完璧な月】ではなくなってしまう。でも・・・」
『追いかけちまうよな!』

彼らは、そうやって月に勇気をもらうのだ。

丘の上の狼は、そわそわし始める。
――今宵の月は、いつもの月とは違う。
そう感じているのだ。
もうそろそろ月が見えてきてもいい頃。
なぜか月は現れない。
東の地平線をよく見てみると、黒い雲が地平線いっぱいに覆っているのが見えた。
風は強いものの、雨の匂いはない。
狼は気づいた。
雲に隠れてしまったのだと。
――あの雲の裏には、きっと何かがある。



遠吠えをあげると狼は走り出した。雲の裏の月に向かって一心に。
耳に風の切る音を感じながら、暗い森を抜けて行く。
また小さな丘の上に登ると、雲の裏側が少し明るくなっていた。
更に走り続ける。小さな川を越え、森の木々に足をとられそうになっても、走り続けた。
また森を抜けると、大きな崖に指しかかった。

はっと目の前の空を見ると、黒い雲が少しずつ風に流され、月が現れはじめた。
狼は息を飲む。
――! あれは!!
ついに月が現れたのだ。
それは、紅い月。気味が悪いほどの、紅い月だった。
そして、昨晩のような【完璧な月】ではなく、少し欠けて楕円になった【不完全な月】であった。
風が吹いて、雲に隠れては、また現れる。
――恥ずかしがり屋の月だな・・・。
だが、満月の銀色の輝きと違って、温かみを感じた。
こんなにも大きく、美しい色の月が、大地を森を湖や川を、そして狼を見ろ下ろしている。
狼は、初めて見る【不完全な月】の前で、また感動の遠吠えあげる。
そして、森のどこかにいる狼たちも遠吠えをあげた。
狼たちは、勇気とはまた違う、美しい心を月からもらったのだ。

―おわり―






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Last updated  Apr 9, 2004 12:56:51 AM
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