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2006年08月12日
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カテゴリ: 思想・哲学・宗教
小室直樹の中国原論

 21世紀に入り、東アジアにおいて中国との関係というのが、どういう形になるにしろ重要であり、場合によっては大問題になる可能性(すでにエネルギー関係については問題だと思っている)があると思っている。そしてここ最近、中国に関する本の出版が増えているので、ちょっと呼んで勉強してみようと思い、まずは、小室直樹先生の「中国原論」を読むことにした。

 小室直樹先生の本は、とにかく難しいことをいかにわかりやすく説いてくれるところがとてもよく。いつも読みながらとても納得させられることが多い、ここ1年くらいで一番読んでいる著者だと思う。

 この本自身の出版は10年前のものだから、すこし状況が違うところもあるが、けれども中国の、そして中国人の考え方の基本を理解することができる。

 統治機構としての特徴は、 「陽儒陰法」 という言葉に表されるように、表向きは儒教だけれども、裏は「法家思想」で国を治めることである。儒教というのは不思議なもので、宗教というと(キリスト教・イスラム教・仏教などなど)個人の救済が中心だけど、儒教は集団救済で、「よい政治をすれば世の中がよくなる」ということになる。そして法家とは、中国・戦国時代末期の思想家、韓非子が集大成させた考え方である。ただこの「法」というのは、西欧の「法」とはまったく違っていることが良く分かった。欧米の「法」は、絶対君主の王から自らを守るため、王の強大な権力から人民が不当な抑圧を受けないようにできたものである。一方、中国の法家の「法」とは、君主が臣下を支配する根本原則であり、すべての人民が従うべき基準で、「法」とは、支配者のものなんだそうだ。

 「法」の縛り方を二分法的に整理すると
西洋の「法」:下から上
   中国の「法」:上から下

となる。

 中国の「法」というのは、支配者(政府)の都合でいかようにもできるということになる。法家の大家である韓非子も、「法」の解釈は役人に任せ、それに従うことを説いているのだそうだ。日本の「法」も欧米と比べれば不十分な部分もあるかもしれないが、政府がいかようにでも解釈し、変更することはできない。仮に強引な解釈としても最終的には裁判で争うことができる。共産党一党独裁であり、言論の自由があるとは言えない中国においては、今でもこの考え方が貫徹しているのだろう。それゆえに相容れない、理解に苦しむ自体が発生するのだと分かった。

 中国人の人間関係の鍵は、「ホウ」と「宗族」の2つにあるという。
  ※「ホウ」の感じが、HTMLタグの判定を受けて表示できなくなるのでカタカナ表記
「ホウ」とは、人の横のつながり
    「宗族」とは、祖先を同じくするものたちのつながり
を表している。

 この「ホウ」は、人間関係の横のつながりの究極的なものを指しているわけだが、中国は、何事にも対人関係がかなり色濃く反映される。人間関係は以下の段階で深まりをみせ、深まりが様々なことに大きな影響を及ぼすことになるのである。

  まったく知らない人
      ↓
    知   人
      ↓
    関   係
      ↓
    情   誼
      ↓
    ホ   ウ


 日本で有名な「三国志」の「桃園の儀」の劉備-関羽-張飛の関係や、「三顧の礼」の劉備-諸葛孔明、そして、司馬遷の「史記」の「刺客列伝」で取り上げられている刺客と依頼者の関係などが、「ホウ」として例示される。この「ホウ」は、中国の対人関係では究極に当たるもので、たとえ命がなくなったとしても、約束を守るし、社会全体のルールである「法」よりも優先される人間関係の規範となるものになる絶対規範である。この深い人間関係にあると、「とても信頼できる関係」を築くことができるが、その関係にない場合、特に、「まったく知らない関係」になると、相手の事情なんて関係のないことになり、そういった状態での契約については、一方的に自らに生じた事情で、破棄もしくは内容の変更を行ってしまうという「まったく信頼できない関係」になってしまう。それゆえに、中国人に対して「とても信頼できる」とか「うそつきだ」といった相反する評価が存在することになるのだ。それは深い人間関係内の決まりは、何よりも最優先する絶対規範であると同時に、その外部の人間関係は、様々な事情で自らの都合により変更可能な相対規範であるからだ。

 また、縦の人間関係に相当するのが、「宗族」で、これは、父と子の関係を基にした父系集団で、同一姓を名乗る集団である(ただ同じ姓(たとえば劉とか)だからといって同じ宗族に属しているわけではない)。この「宗族」も、内部の決まりは、横の関係の「ホウ」と同じく絶対規範である。この集団は、祖先を集団内の子孫が祭ることを行うわけだが、子孫が絶えそうなとき、日本だと、たとえば江戸時代の大名家など見れば分かるが、養子をどこかから迎えてくるが、中国では同一宗族内で子孫を見つけなければならない。他の宗族から迎えるということは、孔子が、論語「為政第二」で述べるように、祖先とまったく関係がないゆえに、祭ることはおかしなことになってしまうのである。それだけ縦の関係が強いのである。

 このように人間関係においても、縦と横で二重規範を持つ団体が作られ、政府も建前の儒教と本音の法家というダブルスタンダードを使い分けるということが、とても良く分かった。

 今まで、三国志や水滸伝などの中国文学を親しみながら、いまひとつ違和感を感じた理由が良く分かった。


小室直樹の中国原論
著:小室直樹 発行所:徳間書店
定価:1,700円+税
1996年4月30日第1刷 2005年11月10日第4刷


こちら





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最終更新日  2006年08月12日 12時02分39秒
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