☆煩悩注意報☆

☆煩悩注意報☆

2004年02月19日
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 今、午後22時5分前。

 俺は非常に焦っていた。今日は、残業で遅くなった上に更に電車の乗り継ぎが上手く行かず、約束の時間、「午後22時」に絶対に間に合わないからだ。

 俺の子猫は非常に時間に厳しい。
 約束の時間に1分、1秒たりとも遅れることを許さない。もし、遅れでもしたら恐ろしい事が待っているのだった。

 以前、こんな事があった。
 俺は子猫と逢う約束をしていたのをすっかり忘れて、会社の同僚達と飲みに行ってしまったのだった。
 約束の時間を大幅に遅れて俺がマンションへ帰ると、部屋はもの凄い事になっていた。約束をすっぽかされて怒った子猫は、俺の部屋にあった物を手当たり次第に投げつけ、更に雑誌やら服やらをビリビリにやぶいて、そのメチャメチャになった部屋の隅で膝を抱えて俺の事を睨んでいた。
 更に俺が酔っぱらって帰ってきたと解ると、突然飛びかかってきて俺の顔を引っ掻きまわし、首にはキスマークならぬ歯形をくっきりと付けてくれたのだった。

 次の日、その傷だらけの顔で会社へ行った所、俺には「もの凄い彼女がいる」と評判になりそれ以来誰も俺を飲みに誘わなくなった。それはそれで全然構わなかったが、あの時子猫の機嫌を取り戻すのに一ヶ月以上は掛かったのだけは嫌って程身に染みていたのだった。


 本当は、甘え上手でいじらしい奴だからだ。

 俺のマンションに泊まった次の日は必ず俺より早く起きて俺の為に朝食を作ってくれる。俺が起きる時間のほんのちょっと前に出来上がるように、しかも、俺の大好物ばかりをテーブルに並べてくれるのだった。(しかも、これが凄く旨かったりする)
 それに、俺が静かに本でも読みたい気分の時は俺の膝の上に頭を乗っけて寝たふりをして俺の邪魔にならない様にして側にいてくれてたりするのだった。
 本当に俺の事を良く考えていてくれているのだった。

 俺の乗った電車が、降りるべき駅へ到着した。
 約束の時間まで、あと2分。俺のマンションまでは走って8分だった。
 俺は、駅の改札をもの凄い勢いで走って駆け抜けると、すぐ側にあるコンビニへ駆け込むのだった。そして、デザートの並んだ棚から「クリームのいっぱいのっかったプリン」を1コだけ掴むとレジへと急いだ。そしてポケットにあった小銭で代金を払うと、プリンの入った小袋を抱え込んで再び走り出すのだった。

夜の静かな街中に俺の走る足音が大きく響いていた。俺は無言で走り続けた。
 そして、とうとう約束の時間になってしまった。子猫が暴れ出す頃だ。

 交差点の信号で足止めをくらった俺は、すかさずマンションへ電話する。案の定、出ない。だけど、俺は留守電になっている俺の電話にこう叫んだ 。
「悪い!電車に乗り遅れて今駅に着いたところ。走って帰るから、もうちょっとだけ我慢しててくれ。いいコだから」

 暫く走ると俺の住んでるマンションが見えてきた。俺の部屋に明かりは無かった。だけど、俺には子猫がちゃんと居るのが解っていた。俺は嬉しくなって、走るペースが早くなったのだった。

 マンションの俺の部屋のドアを開けると、部屋の中は静まり返っていた。だけど、玄関には子猫のスニーカーがちゃんとあった。俺は足音を立てないようにそっと部屋の中へ入っていった。
 部屋の中は朝俺が部屋を出た時のままだった。
 子猫はちゃんと留守電を聞いていたようだ。
 そして、ベッドの脇を見ると子猫の服が脱ぎ散らかされていた。どうやら子猫はベッドの中に居るらしい。

 ベッドの上の掛け布団がモゾモゾ動いた。
「今、怒ってるからいらない」
 布団の中からむすっとした返事が返ってきた。ホントにカワイイ奴だ。俺は急いで着ている服を脱ぎ捨てて、ベッドの中へ飛び込んで行った。
「どうしたら許してくれる?」
 ベッドの中でふてくされて向こうを向いている裸の子猫を捕まえて、俺は耳元で囁く。
「……キスして。俺がキスして欲しいって思ってる所、全部に」
「じゃあ、何処にして欲しいのか言ってごらん」
 子猫の首筋にキスをしながら、少しだけ意地悪く子猫に囁く。
「う……ん。絶対に言わないから……」
 首筋のいちばん敏感な所にキスされて、子猫は甘ったるい声で鳴いた。
「それなら、いろんな所にキスするからして欲しい所全部にキスし終わったらちゃんと言うんだよ」
「……解ったから、早くして……」
 子猫の「おねだり」が始まった。

 こうして俺のデザートタイムは、夜が白々と明けるまで延々と続くのだった。
 そう、子猫が「もう、これ以上はダメ」って降参するまで延々と。

 俺が子猫を飼い始めて約半年。
 この頃は自分でもやっと飼い主らしくなってきたなって思えてきて、毎日が楽しくなり始めてきていた。そして俺は、このわがまま子猫が「家出」しないように立派な飼い主になってやろうじゃないかと決心したりするのだった。





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最終更新日  2004年02月19日 22時15分36秒
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