☆煩悩注意報☆

☆煩悩注意報☆

2004年02月20日
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 激しい情事の余韻が部屋中に漂っていた。
 侑羽(ゆう)は俺の胸の上で果てたまま、目を瞑って甘えていた。
 俺達の体からはうっすらと汗が滲んできて、二人の体をより一層密着させていた。そして、侑羽の荒い息遣いと胸の鼓動が俺の中に遠慮無く入り込む。俺の体は侑羽の何もかもを吸い込んで閉じこめようとしているかの様だった。

 侑羽はふらっと飛んできて俺の指先に止まった気まぐれな渡り鳥だ。
 ある日、都会のビルの森を彷徨っていた俺に羽を休め、こうして幾日もベットの中にいる。
 侑羽の甘え慣れた仕草が、侑羽にはちゃんとした持ち主がいるのだというのを俺に解らせようとしているのが辛かった。甘えられて本当は嬉しい筈なのに俺は悲しくて仕方がなかった。
 いつの日か侑羽は、持ち主の暖かい胸の中に飛んで行くのだろうと思うと涙が出て止まらなくなった。そうすると侑羽はいつも、俺の涙を細く長い指で拭ってこれ以上ない程の笑顔で俺の頬に口付けてくるのだった。

 俺は侑羽を手放したくなかった。

 侑羽の首に目にはいつも見えない首輪がされている様に思えて、それがたまらなく嫌だった。俺は毎日その首輪がされているであろう所に、幾つも幾つも俺の愛の印を付けた。
 侑羽の首筋は鈍い赤色の花が幾つも咲いている様になった。俺は侑羽の背中の羽をむしるかの様に、無我夢中でそんな事をただ繰り返していた。
 こんなに酷い事をする俺なのに、侑羽はやはり笑って俺にされるがままになっていた。
 その微笑みはこれ以上なく優しくて、そして残酷なものだった。

 そして、侑羽はやはり飛び立って行った。
 ある暖かい朝、満面の笑みを浮かべ侑羽はこの部屋から飛び立って行った。俺の胸の中にあの残酷な笑顔を突き刺して。
 俺には侑羽を追いかける羽も術も何も無かった。ただ情けなくベッドの中で頭を抱えて泣き続ける事しかできなかった。

 そして今、都会のビルの森の僅かな隙間から灰色がかった薄い水色の空が見えると、俺はその明るい方へとこの指を伸ばさずにはいられない。
 そう、また、気まぐれな侑羽が羽ばたいて来るのでは無いかと思えて仕方がないから。


 侑羽、お前だけの止まり木として。





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最終更新日  2004年02月20日 22時44分02秒
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