なまけいぬの、お茶うけをひとつ。  

なまけいぬの、お茶うけをひとつ。  

2007年01月21日
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カテゴリ: 楽園に吼える豹
翌日の二時。


飼い主と名乗るキース・フィルドという男とは、マンションの玄関前で会うことになっていた。
アスカは初対面の男を部屋に入れることはない。
テリトリーを侵されるようで嫌なのだと、本人は語る。

ケージの中では、2号が不安げな眼差しでこちらを見ていた。
この場にユキヒロがいないから不安なのだろう。


エントランスまで降りていくと、薄い縁のメガネをかけたサラリーマン風の男が立っていた。

「どうも、アスカ・清里さんですよね。キース・フィルドです」


ただし、それは「アスカが期待していたよりも」というかっこ書きが付く。
男の年齢は三十代前半から半ばといったところだ。

キース・フィルドはどこといって特徴のない顔立ちをしていたが、抜け目なさそうな表情が何となく目元に漂う、そんな男だった。

「そうかい。んじゃこいつはあんたに返すよ。ほら行け、2号」

アスカは何を思ったか、ケージの扉を開けて中から2号を引っ張り出した。
そして、キース・フィルドのほうへ行くよう指示する。

キースは怪訝な表情だ。
何の真似だ、と顔が言っている。

2号はわけがわからないといった表情でしばらくきょろきょろしていたが、キースの顔を見るとびくりと小さな体を震わせた。


「さ、こっちにおいで」


キースはしゃがんで手を差し伸べた。


が、そこにはアスカがいる。

2号の体はまたもびくりと震えた。
2号は二人と比べるように見ている。

「どうした? お前の飼い主はその人じゃないのか?」

二人の間に立ち、頭を左右に振ってどちらに行くべきか必死で悩む2号。


不意に、2号の動きが止まった。

次の瞬間、2号はアスカのほうへ向かってとことこと歩いていく。
そして少女の後ろへ震えつつも隠れた。

キースは唖然としている。

アスカは途端に大声で笑った。

「こいつはお前より『獣』のあたしのほうがいいんだってよ。ずいぶん嫌われてんなぁ、お前」

「なっ…」

「あんたはこいつの飼い主じゃねえな。いや、飼ってはいたのかもしれねぇけど、『ただそれだけ』だったんだ。だからこんなに怯えてる」

「なっ、何を言ってる!! そ、その犬は人見知りするんだ。
そ、それに、私は個人的にその犬を飼っているわけではない。会社の経営する飼育舎から逃げたもんだから、そいつを引き取りに来ただけだ。
懐いていなかろうが何だろうが、そのことであんたに文句を言われる筋合いはない!」

せいぜい中学生にしか見えない小娘にいきなりバカにされ、カッとなったのだろう。
キースの口調は最初とは比べものにならないほど野卑になっていた。
見た目より短気なのかもしれない。



「その“飼育舎”とは、一体どこのことですか?」



キースの背後から、若者の声が聞こえた。

振り向くと、赤毛に近い茶色の髪をした青年が立っていた。
優しげな面差しをしているが、今は緊張した表情になっている。

「ここから南西の山奥にある建物ですか? 確かにそこではたくさんの犬が飼われているようですが、国の認可は下りてませんよね。
販売目的で動物を飼育するには、国の許可が必要です。ご存知ですよね」

「なっ…」

「なるほど。こいつは無許可で犬を繁殖させて売りつけてる、困ったブリーダーなわけだ」

からかうような口ぶりでアスカは付け加えた。

「それだけじゃない。そこで飼われている動物たちに、虐待をしていますね? 
動物愛護団体が、つい昨日告訴しましたよ」

キースはそれを聞いて、怯んだ。

「へえ~。それで、高く売れる子犬だけでもかき集めてトンズラしようとしたのか? やることセコイねぇ~」

ユキヒロは歩み寄りアスカのそばにいた子犬を抱き上げると、キースを強い眼差しで貫いた。


「あなた方の身勝手な都合で、この子がどれだけ辛い思いをしてきたのか、分かっているのですか? この子の心の傷が…どれほど深いか……!」


「ハッ! 今時そんなセリフを大真面目で言うヤツがいるとはな!」

キース・フィルドはとうとう本性を現し始めた。
彼はユキヒロの言う正論が、虫唾が走るほど嫌いなのだろう。

「俺はこいつらに存在意義を与えてやってるんだよ! こいつらは人間様に飼ってもらわなきゃのたれ死ぬだけなんだ! 
けれど、俺たちが値段をつけてやることでこいつらは金の生る木になる! 俺たちの商売を他人にどうこう言われる筋合いはないね!」



「で?」



ぎくりとするほど低い声だった。
少女の声なのに。なぜか地の底から聞こえてくるような重々しい声に聞こえた。

「口上は済んだか」

「あ…う…」

アスカはつかつかと近寄っていく。
キースは完全に彼女の気迫に呑まれていた。


「なら、これが返事だ」


アスカの右拳が、キースのみぞおちに命中した。

「あっ…ぐ…」

キースは声を満足に出すこともかなわず、地面に崩れ落ちた。
アスカを怒らせた、彼の負けだ。
彼女がSクラスガーディアン・ソルジャーだと知っていたら、キースももう少し口のきき方に気をつけただろうが。

ユキヒロはゆっくりキースに近づいていく。
そしてゆっくりとしゃがんだ。



「キースさん、存在意義は他人に与えてもらうものではありませんよ。自分で見つけるものです。―――誰だって」



ユキヒロの腕の中で、2号はくりっとした瞳をせわしなく動かして、ユキヒロとキースを見ていた。








「…で、あの後警察に通報して、2号はめでたくお前と暮らせるようになったんだよな。いやー、懐かしい」

「でも、実際は結構綱渡りな状況でしたよね。キース・フィルドの会社が動物虐待を行っていると告訴がされていたからよかったですけど、それがなかったらきっと、2号を取られてましたよ」

無認可の業者だからといって、飼っていた犬を第三者が取り上げていいことにはならない。
結果はアスカたちの圧勝だったが、実は正に薄氷を踏むような心持ちだったのだ。

警察に知り合いのいるレオンに頼んでキースの会社を調べてもらい、動物愛護団体に告訴されていることが分からなければ、どうなっていたことか。

「そうか? あたしは別に心配なんかしてなかったぞ。
だって2号があいつの犬だなんて証拠は、どこにもねぇじゃんか」

「へ?」

「普通、動物を扱う企業は、動物にそれぞれマイクロチップを埋め込んでる。でないと逃げられた時、それが自分とこの動物だってのを証明できないからな。
けど2号にチップは埋め込まれてなかった」

きっとそのためのコストを惜しんだのだろう。
マイクロチップ自体は、無認可だろうが何だろうが、その気になれば簡単に手に入るし、それを犬に埋め込むことも容易だ。

だが、それを惜しんだために。

「だったらもう、2号があいつらの犬だって証明することなんかできないだろ」

―――アスカに負けることになった。

「で、でも、デジカメで撮った写真がありますよ! 写真、ビラに載せたんでしょう? あれを見せられたら……」

「似た犬なんかいくらでもいるだろ。ウェルシュ・コーギーは人気のある犬種だけど、全く手に入らないもんでもないらしいし」

「で、でも…そ、そうです。あの赤い首輪は? あれは多分キースさんがつけたものですよ。
それが証拠だって言われたら……」

「ああ、あれな。確かにあれは証拠になりうるな。


だから、捨てた」


「す、捨てた?」

ユキヒロは首を傾けた。
飼い主の動作を真似て、2号も首を傾げる。

「捨てたよ。持ってたって意味ねーし。欲しかったのか?」

脱力。

あの後首輪が消えていたことを今思い出した自分も迂闊だった。
あの時は2号を正式に飼えることになって浮かれていたから、多少のことは視野の外に追いやられてしまったのだろう。

しかし、アスカの大胆さと知恵には感心した。
普段は短気で直情型かと思いきや、このような冷静な判断をいとも簡単にやってのける。
ほとほとアンバランスな少女だ。


「でも、よかったです。2号もあんまり人間を怖がらなくなりましたし」

「相変わらずあたしには懐かねえけどな」

やぶへびだったか。

当の本人、2号は愛らしいビー玉のような目をくりくりさせて、二人を見比べている。

「どうしてでしょうねえ……」

ユキヒロも納得がいかない。
キースよりもアスカを選んだくらいなのだから、仲良くなるきっかけはあるように思えるのだが。

「だから、あたしが“豹(パンサー)”だからだろ」

結局そこに落ち着くのか。


と、2号が恐る恐るアスカのほうへ近づいていく。


「ん?」

そして、ぺろりとアスカの手をなめた。

「…」

ユキヒロだけでなく、アスカも目を見開いて固まっている。
しばらくすると、何だかおかしくなってきた。

「偉大なる一歩ですね」

あはは、とユキヒロにしては珍しい笑い方で笑う。
そしてユキヒロは、また一歩踏み出した2号の頭を優しく撫でた。












30000ヒットのキリ番をゲットされたblack_obeliskさんのリクエストで、「ユキヒロと犬の、ほのぼの系」でした。

ほのぼのって雰囲気、出てますかね?^_^;
ほのぼのについてはもう2号にまかせっきりです(笑)


ところで、タイトルの「ビー玉の天使」ですが、なぜ「ビー玉」なのかというと、「花より男子」に影響されたから(^^ゞ
花沢類ファンの方ならお分かりになりますよね・・・

って、かなりどうでもいい告白ですがな。


ともあれblack_obeliskさん、こんな感じでどうでしょう~(*^-^*)




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最終更新日  2007年01月21日 17時29分45秒
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