なまけいぬの、お茶うけをひとつ。  

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2007年05月24日
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カテゴリ: 楽園に吼える豹
頭の中を何かが渦巻いているように足元がふらつく。


息が苦しい。それでも視覚ははっきりと在る。

藤堂は周囲を見渡した。
見慣れた照明、壁、天井、調度。

だが記憶の中の通りの光景はそこまでだった。
紅色のカーペットには、点々とどす黒いシミが続いている。
それを見た途端、心臓がどくんと跳ねた。


恐る恐る視線を先に向けると、男が一人倒れていた。血まみれだった。



(父だ―――)


顔を見もしないのに藤堂はその人物を認識できた。
あの体型と見事な栗色の髪は見間違うはずがない。

父親の死体の横をすり抜け、玄関ホールへと向かう。
他にも道はあるのに、なぜか足はそこへ向かってしまう。

足と床は接しているはずなのになぜか感覚はなく、空中でふわふわと浮遊しているかのように感じられる。


不意に、天井が開けた。玄関ホールは吹き抜けになっている。
天井にはきらびやかなシャンデリアがあり、廊下から続く真紅のカーペットを不気味に照らしていた。


そこに見知らぬ男が立っている。


銀色の髪が、シャンデリアの灯りに照らされてきらきらと光っている。
藤堂の気配に気付き、ゆっくりと男がこちらを振り向いた。





―――金色。



男の瞳は、金。冷たいほどの金色だった。


『彼は“豹(パンサー)”だよ―――』


誰かが藤堂の背後からそう言うのが聞こえた。
その声を追いかけるように振り向こうとすると、底なし沼のような冷たさを湛えた金色の瞳に、無機質な殺気が宿る。


鋭い爪が抉ったのは、しかし、予想に反して藤堂の肉体ではなかった。


“彼女”は鮮血を滴らせながら、藤堂の眼前で彼を庇うように力なく息絶える。




夜空のような優しい黒髪。藤堂と同じ―――




「母さん…………!」








その刹那、視界は暗転して感覚の全てが現実に引き戻される。
薄暗い室内に、自分の乱れた息遣いだけが静かに響いていた。

全身がじっとりと汗に濡れている。さっきまで見ていた光景がまだ頭から離れない。
現実を確かめるようにまばたきをするたび、頭に激しい痛みが走った。

この夢を見たときはいつもこうだ。

冬の季節が近づくといつもあの夢を見る。
いまいましいことであるが、そのことはもはや習慣になりつつあった。


藤堂はベッドから上半身を起こし、眼鏡をかけた。
そうするとぼやけていた視界が明瞭になり、多少なりとも意識が覚醒したような気がする。

だが相変わらず頭痛は続き、治まる気配がない。
過去の幻影は悪夢となって、今も藤堂を苦しめている。


断続的に襲いかかる頭痛をこらえ、藤堂は立ち上がった。









つづく


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最終更新日  2008年01月02日 21時56分31秒
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