2004年12月30日
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カテゴリ: 小説&ポエム
「とりあえず、車掌さんのところに行って
もっと詳しい状況を確認しながら他の乗客が
居るかどうかも調べよう。」

そして立ち上がろうとしたその時左足に少し痛みを感じた。

「っく!!」

隆の顔が苦痛にゆがむ。急いで痛みを感じた
左太ももの内側を見ると、ズボンが破れてはいるが、
ズボンの裂け目からは傷口はよく見えない。
しかし、ズボンの切断面は血がにじんで

傷はたいしたことがないことはすぐに分かったが、
佳恵に見せると不安がってしまうと思い、隆は
すぐに平静を装った。

「じゃあ、行こっか。佳恵ちゃん」

とわざと明るい声で隆は、佳恵が立ち上がらせるために
右手を差し伸べた。そして、ゆっくりと、
2人で車掌の居るであろう最前列の車両に
移動していった。ゆっくりと歩いていく途中で、
佳恵が隆の異変に気づいた。

「隆お兄ちゃん?ひどい汗だね。おなか痛いの?
・・・っ!」



「どうしたの?どこを切ったの?見せてよ!」

ものすごい剣幕で怒る佳恵を見て、隆はひどく
驚いた様子で答えた。

「うちももをちょっとね。でも、大丈夫だよ。たぶん」

「大丈夫なわけ無いじゃん!早くみせて」


に押し当てる。そして少し涙目になりながらも、
怒った表情のまま隆に言った。

「早く座って!状況知る前に隆お兄ちゃんが
死んだらどうするのよ!」

隆は、迅速な作業とは裏腹に佳恵の子供のような表情と
発言に驚きながらも、心のそこから嬉しくなっていた。

あぁ、俺の求めていたものはこれなのかな?
世界が滅亡してもいいかもしれない。

恵ちゃんが居れば、それだけでいいのかもしれない。
俺はこの20分間は今まで生きてきた19年間よりも
濃く生きている気がする。・・・
このまま死んでも幸せかもしれない。

隆は、頭の中で死ぬと言う言葉を簡単に言ってしまった
自分をひどく反省した。

俺が佳恵ちゃんを守るんだから、ここで死ぬわけには
行かない。まだ何も分かってないんだから・・・。

佳恵に止血をしてもらい、血も引いたみたいだ。
どうやら出血の具合を見ても、動脈は
切れていないらしく、大丈夫のようだ。
佳恵は隆に質問した。

「何かハンカチを付けたままにしたいんだけど、
縛るもの持ってない?」

隆は、佳恵に言われ、おもむろにカバンの中を
あさってみると、MP3プレイヤーが手に絡み付いてきた。

「っあ。これなら使えるかも」

と、MP3プレイヤーのイヤホンを佳恵に差し出した。
佳恵は、そのイヤホンを受けとると、佳恵のハンカチで
傷口をしっかりと押さえつけ、隆のMP3プレイヤー
のイヤホンで腿にくくりつけた。
これで大丈夫よと言う変わりに、
佳恵は隆に向かって大きな目で小さく微笑みかけた。
隆はその笑顔に対して、

「ありがとう」

と、照れくさそうに言ったが、佳恵には小さすぎて
聞き取れなかった。そして、2人
はまた最前列の車掌室に向かった。
車掌室に向かう途中で2人は、他の客を探したが、
2人以外には乗客は居なかった。
その静けさは、2人の不安を掻き立てるには充分すぎる
ものだった。

そして、2人は車掌室にたどり着いた。

ドンドン!

軽くドアをノックしてから、隆が質問をした。

「すいません。もっと詳しい状況教えてもらえますか?
外部との連絡は取れてるんですか?
お客さんはいないんですけど、他に何人乗って
るんですか?」

佳恵も続けた。

「救急箱があったら貸してくれませんか?
怪我をしているんです。お願いします。」


その瞬間・・・・

ッフ!

急に地下鉄の中の電気が全て消された。

「っうぇ!?あ?」

隆は驚いて自分でも気づかない間に変な声を出していた。
そして、佳恵は隆の腕をしっかり捕まえて
座り込んでしまった。隆はそれに気づき佳恵を
抱き寄せて叫んだ。


「佳恵ちゃん?佳恵ちゃん!!」

「・・・・・・こわいよ・・・・・こわいよ」

ガクガクと大きく震える佳恵を腕で感じて、
隆はなんと言えばいいのか分からなくなっていた。
自分の言って欲しい言葉を佳恵に伝える事にした。

「佳恵ちゃん落ち着いて、別に怖い事なんて何もないよ。
目をつぶると怖いんだからゆっくりと目を開けてごらん。」

隆はそう力強く佳恵に言うと、佳恵の手を握りながら
あたりを見回してみた。まだ何も見えない。
だんだん夜目がきくようになってきた。
広告の文字は見えないが、座席などの場所は、
はっきりと確認できる。

佳恵も少し落ち着いた様子で隆の方を見つめていた。
優しい表情で見つめている視線に気づき、
隆が佳恵のほうを見ると、さっと視線をそらした。
佳恵は、自分の顔が真っ赤である事を悟られまいと、
明るく言った。

「ごめんね。取り乱しちゃって、でも、隆お兄ちゃんが
居ればあたし大丈夫だよ。」


隆は、佳恵の言葉を聞いて、俺がしっかりしなきゃ
いけないんだと気持ちを新たにしていた。
隆は、もう一度車掌室をノックした。

ドンドン!

「すみませーん!・・・・っう」

隆は、首のあたりに何か打ち込まれたような気がた・・・。これはなんなんだろう?銃かな?死ぬのか。
こんな簡単に、あれ?佳恵ちゃんを守らなきゃ
・・・ちゃんと立たないと・・・。

床が隆の顔に迫ってくる。隆は避けきれずに
ドサッと倒れこんだ。

~続く~





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最終更新日  2004年12月30日 17時37分06秒
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