クラシック音楽リスナーの局(tsubone)

クラシック音楽リスナーの局(tsubone)

April 18, 2006
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ワーグナー作曲の楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」「第1幕への前奏曲」はとても有名な曲ですね.ハ長調の主和音で力強く始まる出だしが印象的だし,にぎやかだし,とても強い印象を与えます.管弦楽の演奏会プログラムの1曲目の序曲ピースとして,あるいはアンコールピースとしてよく取り上げられますし.また,管弦楽団をもつ大学だと,入学式や卒業式の開幕の音楽に使われたりします.したがって,大学の管弦楽団で過ごしたことのある方の演奏経験回数は1度や2度ではないでしょうね.

こんな風にポピュラリティーのある曲なので,管弦楽版からさまざまな様態に編曲されているのをご存知の方も多いと思います.まず吹奏楽に編曲されているのはよく知られています.年がわかろうというものですが,私が中学生の頃は,西宮市立今津中学校が吹奏楽コンクール全国大会の常勝校でした.当時のコンクールで自由曲にこの曲を演奏して金賞をとった演奏をレコードで聴きましたが,同じ中学生なのに,まったく次元の違う演奏をしているのに感心し,またうらやましいと思っていました.実は私も当時吹奏楽部に所属していましたから...

アンソニー・ニューマンという鍵盤楽器奏者がいます.検索をかけても,あまりよく引っかからないのですが,ピアノ,チェンバロ,そしてオルガンでマルチな演奏活動をされていたようです.現在の消息はちょっとよくわかりません.彼が,この前奏曲をパイプオルガンで演奏したものを,LPレコード(SOCO 132)で持っています.演奏しているオルガンもストップ(音栓)数が80か90くらいありそうな,5段鍵盤くらいの大オルガンでした.米国ニューヨーク市にある,St. John the Divine という教会?の Aeolian Skinner Organ での演奏とあります.この曲の大きなスケール感がそのままオルガンで演奏されています.ただ,オルガンは基本的に旋律を歌えない楽器なので(スエルがあればある程度はできるかもしれないが...),原曲で,ここの旋律は歌ってほしいなぁ,と思うところでは物足りなさがあります.それでももしCDがあればほしいな,とも思うのですがどうも出ていないようですね.

一方,グレン・グールドは,この前奏曲をピアノで演奏した録音が残っていて,今でもCDを買うことができます(SRCR9571).こちらは,グールドがもうスタジオ録音だけにこもってしまった時期の1973年6月の録音ですね.それらしく,最後の3分間,おそらく,「マイスタージンガーの動機」「ニュルンベルク市民の健全な笑いの動機」「得賞歌の動機」「マイスタージンガーの行進の動機」の4つの旋律が対位法的に絡むところを多重録音で演奏しています(原曲ではここのコントラバスとチューバの旋律にトリルが一小節あるのが興味深いです).つまり,独演の舞台演奏は不可能な演奏なわけです.ニューマンの演奏より,このグールドの演奏のほうがはるかに音楽的な気がしますし,ピアノの演奏でありながら,管弦楽での演奏の香りを感じる名編曲である気がします.なんかもう一度聴きたい,という気がするのですね.グールド本人の唸り声はもちろん入っていますが,録音は非常にいいと思います.

それにしても,この前奏曲は非常に有名な割には,この楽劇そのものの中身とストーリーはどのくらい知られているのでしょうか?メシアンのオペラが世に出るまで,一夜もののオペラとしては最長とギネスに掲載されていたらしいくらい,長いオペラで,賞味4時間半強,休憩を入れると5時間半くらいオペラハウスに滞在することになるオペラです.

実は,もう20年以上前,二期会が日本人スタッフによる完全上演としては日本で初めてということで,東京文化会館でこの楽劇を上演しました.オケは東フィル,若杉弘指揮,西沢敬一演出です.前奏曲しか知らず,オペラそのものを見たくなり,見に行ったのでした.そのとき,主役ハンス・ザックスを演じる歌い手が出演できず,スタンドインだった松本進が代役で初デビューをするというときに遭遇しました.しかし,このときの上演は最高のできで,松本さんの好演で全体が引き締まり,松本さんは一挙に高い評価を得た,そういう舞台でした.最後の幕が降りたとき,私も鳥肌がたち,一緒に行った友人は思わず「もう一度見たい~」と叫んだくらい感動を呼びました.このような舞台に遭遇するチャンスはそうそうないですね.そんな印象に残っているオペラでもあります.

実は,このマイスタージンガーの台本は非常に緻密に作られていて,台本を読むだけでも,と~っても面白い戯曲になっています.さらに,ドイツ語の言葉遊び的レトリックも入っていて,ちょっとドイツ語に心得のある方なら,原詩そのものを読むか,それと対訳になっているものを読むとこれまた面白いです.その上,楽劇なので,劇中の人物や情景描写のためにお決まりの動機を当てています.そのため,劇の進行における作曲上の構成をあれこれ聴き当て,作曲者の意図をあれこれ考えるのも面白いですね.そうして,舞台をみるとこれは十分楽しめます.ストーリーは,非常に庶民的であるし,マイスタージンガーがつむぐ詩の作り方の教授が劇中でなされるのを聴いて,なるほど韻を踏むとはこういうことかと納得したり,とにもかくにも面白く,文字通り,かめばかむほど味が出る!オペラなのでした.

新緑~





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Last updated  April 19, 2006 01:46:09 AM


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