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2026.09.26
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「3号室、お待たせしました」


店員の声に急かされ、私は作り物の笑顔を顔に張り付けて、狭い部屋のドアを開けました。

部屋の中にいたのは、仕立てのいいスラックスを穿いた、どこか理屈っぽそうな雰囲気の40代後半の男性でした。


「いらっしゃいませ。お疲れ様ですか?」

​
THE HIRAMATSU 京都 ​


いつものように声をかけると、彼は私を一瞥し、あからさまに失望したようなため息をつきました。

それから、カバンから取り出した名刺入れをベッドの脇に放り出すように置き、冷淡な口調で言いました。


「さいたま市の公務員をやってるんだけどさ。こっちも毎日、市民の理不尽なクレーム処理でヘトヘトなんだよ。





​
和歌山マリーナシティホテル ​

彼がわざとらしく見せつけてきた名刺には、確かに誰もが知る役所の堅苦しい肩書きが並んでいました。

昼間は立派な社会の歯車として、真っ当に、綺麗に生きている人。


そんな人が、夜の街ではこうして金を払って、自分より弱い立場の人間に言葉の暴力をぶつけて憂さ晴らしをしている。

その事実が、私の胸を酷く冷ややかにさせました。



「すいませんね、こんなおばさんで。でも、一生懸命がんばりますから」


心の中で血を流しながら、私はさらに笑顔を深くして謝りました。

そうやって下手(したて)に出る私を見て、彼の自尊心は満たされたようでした。

ベッドの上での彼は、私のことなど生身の人間だとは思っていないようでした。
​
ダイワロイネットホテル岡山駅前
ただの、自分のストレスを吐き出すためのゴミ箱。あるいは、何を言っても文句を言わない便利な道具。

そんな風にしか扱われませんでした。



昼間の彼は、きっと部下を指導したり、市民に親切に微笑んだりしているのでしょう。

その「真っ当な人生」の裏側で、私は今、彼のドロドロとした身勝手な欲望と傲慢さを、その体ごとすべて受け止めさせられている。

その圧倒的な理不尽さに、私の心はどんどんすり減り、カサカサに乾いていきました。




時間が来ると、彼はネクタイを締め直しながら、上から目線の言葉を置いて部屋を出ていきました。



誰もいなくなった部屋のベッドの上で、私はしばらく動けませんでした。

彼が忘れていった、さいたま市の公務員の名刺が、冷たい蛍光灯の光を反射しています。

生きるため、明日を繋ぐために、私はこの名刺の主のような男たちにプライドを差し出し、魂を削り続けている。

熱いシャワーを浴びても、彼の冷酷な言葉の冷たさだけは、いつまでも肌の奥に残ったままでした。
​
須磨温泉 寿楼<兵庫県>





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最終更新日  2026.09.26 14:28:30
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