よりよく生きるために・・・




トロントに住む友人が、メールでこんな話を送ってくれた。




ある病院で、ベッドから体を動かせない患者だけがいる
大部屋があった。

ほとんどが長期入院患者で、毎日同じベッドに寝たきりの
生活だった。
同じ部屋の仲間と話をすることだけが唯一の気晴らしだったが、
中でもいちばんの楽しみが、Jack の話を聞くことだった。

Jack は、その病室の中で最も病気が重かったが、
窓際のベッドにいて、少しだけ体を起こすことができた。
そして、部屋のみんなに、窓から見えるさまざまな
風景について、毎日、熱をこめて語ってくれた。

目の前に広がる湖の美しさ、遠くの山の稜線に沈んでいく夕陽、
近くの公園の花壇に咲く美しい花、季節ごとに色を変える木の葉、
遊びに来る夫婦が連れてくるかわいい赤ちゃんや、
いつも公園に来る若い恋人同士の男女がある時は幸せそうに、
ある時はケンカをして、怒鳴りあったりしていること、
そして翌日にはまた仲直りして池のそばでいつまでも
寄り添い合っていること、、、
Jack は、時にはユーモラスに、時には悲しみを誘い、
時には思慮深げに、窓から見える外の世界がどんなに
すばらしいかを、みんなに教えてくれた。

Sam は、Jack がうらやましかった。
自分も少し体を起こすことができたので、もし窓際のベッドに
いたなら、Jack のように外の美しい風景を見ることができる、
そして、みんなを愉しませる話ができるのに、、、、

それからというもの、Sam の頭の中は、Jack の場所に
移りたい、外の景色をこの目で見てみたい、という願いで
いっぱいになった。
Jack がいなくなってくれればいいのに、とさえ思った。

ある日、Jack の病気がとつぜん悪化した。
Jack は、まもなく息を引き取った。

病室のみんなが、Jack の死を悲しんだ。
Sam は、少し悲しくなると同時に、内心のうれしさを
おさえきれなかった。
Jack のベッドが空いたので、その場所に、自分が
移動することになったからだ。

翌朝、ベッドを窓際に移された Sam は、待ちきれずに、
体を起こして窓の外を見た。

そして、、、、目を疑った。

窓の向こうに見えるのは、隣の建物の平坦な壁だけだった。

Sam は、悟った。
美しい湖も、夕陽も、かわいい赤ちゃんも、恋人たちも、
すべて、Jackがみんなを楽しませようと必死に考えた
作り話だったことを。
自分が死ぬ直前まで、目の前のくすんだ色の壁を見ながら、
信じられないような想像力でみんなに生きる希望を与え
つづけてくれていたことを。






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