ある夜、いわゆる一流企業と呼ばれる会社の人事部で採用を担当していた人と
飲んだときのこと。

「最近の若い奴は、夢とか野望ってものを、持ってないんですよね。みんな、
変に大人になっちゃってるって言うか、おとなしすぎて・・・」と言う。

確かに、そう感じることはあるかもしれない、と思って、続きを聞いた。

「俺たちが会社に入った頃は、みんな、それなりに でっかい夢 を実現しよう
と思って、仕事を始めたもんですけど、最近の若い奴は、何だか、今さえ
楽しければいい、って感じで、、、ただ無難に、仕事こなせばいいと思ってる。
無茶や無鉄砲をしようとしないから、面白みもないんですよ。飲みにもあまり
付き合おうとしないで、定時で家に帰っちゃう」

なるほど、そういうことは、あるかもしれない。

「だから、仕事も遊びも、中途半端。『野心』がない人間には、覇気がない」

そこで、ふと興味をそそられて、尋ねてみた。

「で、、、○○さんは、どんな夢とか野望を持ってたんですか?」

「え、、、オレですか!?」と、一瞬、固まる。

「はい」

「ああ、、、いろいろですよ、例えば、入社して10年後には、ロールス・ロイス
くらい乗り回していたいな、とか思っていましたし・・・」

「え・・・。」と、今度は、僕の方が、固まった。

あの、、、それ、『夢』とか『野望』って・・・・。

「あ、いや、、たとえば、たとえば、ですよ! 今、入社して10年目で、まだ
自分はロールス・ロイス乗れる身分になってませんけど、、、でも、、、」

これがこうで、あれがああだ、といろいろ説明(=言い訳)を始めた。

ふむ。。。

どうやら、この人は、「ロールス・ロイス= でっかい 夢」と、冗談ではなく
本気で言っているようだった。

彼が卑下する若者たちの、「今さえ楽しければいい」という考え方と比べて、
この「10年後にロールス・ロイス」という考え方の、どこがどう優れていると
いうのだろう、と考え込まされてしまった夜だった。






昨日、長野県でバスジャックをして捕まった犯人は、会社を辞めさせられ
自暴自棄になって事件を起こしたそうだが、その自供の一部を聞いて、
しばらく、あっけにとられた。

「何か 大きなことをして 、警察に捕まりたかった」

・・・・。

大きくない。

バスジャックは、ちっとも、大きくないよ・・・。






一人一人の人生は、それ自体、かけがえもなく、大きい。

少なくとも、ロールスロイスやバスジャックなどを夢や目標とするために
与えられているのではないことは、確かだ。

家族と仕事を同じように大事にして、無茶や無鉄砲などせず、日々、現在の
幸せを大切にする「最近の若い奴」の生き方のほうが、むしろ、はるかに
人生的な『夢』に満ち溢れている、と思う。


“途方もない大きなプライドを、とんでもないケチな人間が持っている。”

                         ―― ボルテール







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