手続



ものには、守るべき順序や手続がある。

しかし、それらが本当に必要なものかどうか見極めるのは難しい。




映画「ビューティフル・マインド」に出てくる、ラッセル・クロウ演じる数学者は
人間に対して不器用だ。

女性を口説こうとすると、一言、二言目で必ずビンタが飛んできた。

あるとき、ガールフレンドになったばかりの女学生に自分の恋心を打ち明けた後、
こんなセリフを言う。

"Ritual still requires that we continue with a number of platonic activities
before we have sex."

「でも、世間の慣例に従うと、僕たちはこれから何度も会ったり話したりという
行為を繰り返さなければならないことになってるんだ。肉体関係になる前に。」

まるで口説き文句にもなってないこの言葉に、女学生(ジェニファー・コネリー)は、
殴る代わりに熱烈なキスで応えた。
そして、後に、歴史に名を残す偉大な天才数学者の妻になった。




僕も、このくらい手続き違反に寛容な女性にめぐりあいたいと思ったものだ。


人間関係においては、誠実な気持ちや真摯な愛があれば、多少の手続き
違反は、最後にはきっと乗り越えられる。

もちろん、相手が、決して届かないほど遠くに行ってしまわない限り、だが、、、




「国家 vs 人間」になると、手続違反という問題は、より深刻になる。

映画「ダーティー・ハリー」では、令状なしで家宅捜索をしたことや、
怪我をしている容疑者を痛めつけて被害者の居場所を聞き出したことなどを
検事からきつく糾問されたハリー刑事が言う。

“Well, I’m all broken up with that man’s right.”
「その男(犯人)の権利とやらのおかげで、俺はさんざんな目に遭ったんだ」

とは言っても、警察は強大な国家権力の一部なのだから、どんな主観的な
大義があったとしても適正手続を守らなければ「違法」になる。

1人の刑事の主観的な判断で法定手続を破ることをいったん認めてしまえば、
将来、多くの国民の権利が犠牲にされる。

「正義を守るために、法を破ったのだ」という言い訳は、許されない。

何度も死にかけながら、身体をボロボロにして事件を解決した後、バッジを
湖に投げ捨てて去っていくハリー刑事の背中は、哀しかった。






「イーサは寸鉄人を刺すような言葉をさらっと言う」と言われることがある。

そういうときの自分は、必要な手順を無視して相手の心にずかずかと踏み込み、
心の柔らかい部分を鷲掴みにしてしまっているのだろう。

ある人に強い関心を抱いたとき、その人の情熱や、意志や、知性の核心に
一刻も早く迫りたいとあせって、つい、心の核心部分にまでストレートに
入り込んでいこうとしてしまうのだ。

社会一般の礼儀やマナーを守ることは比較的簡単だが、心の中に入るための
必要手続は相手によって異なるから、守るのがとても難しい。

というより、ときに不可能でさえある。


“The exception proves the rule.”
「例外があるということは、ルールがある証拠」


違反してからでないと、気づかないルールもある。





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