文化人類学(cultural anthropology)
人間の文化を研究する学問であり、その発展は19世紀後半から現在に至るまで、さまざまな理論的・方法論的な変化を経てきました。以下は、文化人類学の主要な展開についての論考です。
1. 初期の展開:進化主義と機能主義
19世紀後半、文化人類学の基礎は主に進化主義に基づいていました。エドワード・タイラーやルイス・ヘンリー・モーガンといった学者たちは、人間社会や文化が「進化」の過程をたどるという考え方を支持し、未開の文化から文明化された社会への直線的な進化を仮定しました。この時期の研究は、主に西洋と非西洋文化を比較し、非西洋社会を「原始的」なものとして位置づける傾向がありました。
20世紀初頭に入ると、機能主義の考え方が台頭しました。ブロニスワフ・マリノフスキーやA.R.ラドクリフ=ブラウンのような学者たちは、文化や社会を進化の段階として捉えるのではなく、それぞれの文化がその社会のニーズに応じて機能していると考えました。このアプローチは、文化の内的な整合性や実際の社会生活の中での役割に焦点を当てました。
2. 構造主義と解釈学派
1950年代からは、構造主義が重要な潮流となりました。フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースは、文化を無意識のうちに形成される「構造」として捉え、神話や儀礼のような文化的現象の背後にある普遍的なパターンを解明しようとしました。彼の理論は、言語学の構造主義的な分析に強く影響を受けています。
1970年代以降、文化人類学には解釈学派の影響が強まりました。クリフォード・ギアツのような学者は、文化を一種の「テキスト」と見なし、それを解釈することで人間の行動や信念の深い意味を理解しようとしました。このアプローチでは、文化を単なる客観的なシステムとして捉えるのではなく、人々が日常生活の中でどのように意味を作り上げ、共有するかに焦点が当てられます。
3. ポストコロニアルとグローバル化の視
1980年代から1990年代にかけて、文化人類学はポストコロニアル理論やグローバル化の影響を受けて変化しました。ポストコロニアル理論では、植民地支配が非西洋社会に及ぼした影響を批判的に分析し、西洋中心主義的な視点から離れることが強調されました。エドワード・サイードのオリエンタリズムなどが、この視点の一例です。
一方、グローバル化に関する研究は、文化が固定的なものではなく、国境を越えた移動や交流を通じて変容し続けるものとして理解されるようになりました。文化のハイブリッド化や、グローバルな影響がローカルな文化にどのように影響を与えるかといったテーマが、現代の文化人類学における重要な焦点となっています。
4. 今日の文化人類学
現代の文化人類学は、多様なアプローチや視点を融合させています。フェミニズム、エコロジー、人権といったテーマも、文化の理解に大きく貢献しています。特に、エスノグラフィーと呼ばれるフィールドワークに基づいた詳細な観察や参与調査は、今日でも文化人類学の主要な研究手法として重要視されています。
結論として、文化人類学は、初期の進化主義から現代の多様な理論や方法論に至るまで、常に新しい社会的・文化的現象に応じて発展し続けている学問です。西洋中心の視点から脱却し、グローバルな視野で人間の多様な文化を理解しようとする試みが、今後も重要なテーマとなるでしょう。
(3)現代の文化人類学:多様な視点 2024.11.15
(1)文化人類学の起源と土壌 2024.11.13
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