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Photo by Ana Silva
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>前回


 タバコを一本吸い終えた片山は、三十ヤードほど先の岩の上にコーラの空き罐を置いた。
 射座のあたりに戻ると、右腰のホルスターからG・Iコルトを抜き、左手でスライドを引いた。左手を離すと、復座スプリングの力で戻ったスライドは、弾倉上端の実包を銃身後端の薬室に送りこむ。
 右手の親指と人差し指で作ったV字の尖点を腕の骨と平行にし、発射の反動が真っすぐに伝わるように拳銃の銃把を握る。両足を開き腰を落し気味にし、左手で右手首を支える。
 照星を照門の谷に合わせた片山は、コーラの空き罐の中央部にすっと狙いをつけた。
 〇・〇〇数秒の間に二発を放つ。
 二発の銃声はただの一発に聞え、気持ちいい反動と、ガス圧で自動的に往復するスライドが弾倉の実包を薬室に送りこむ振動を片山に伝える。

 ライフルとちがって、拳銃(ハンドガン)の場合は、銃身や機関部と銃床とのベッティングの問題がないから、分解組立てを行ったところで、着弾点に大きな狂いを生じることはない。少々狂ったところで、拳銃のように射程が短い火器に要求されている精度から見れば問題ない。
 片山はその自動装填式拳銃(オート・ピストル)から弾倉を抜く。スライドを引いて薬室の実包も抜く。その実包を弾倉に戻す。弾倉を銃把の弾倉室(マガジン・ハウジング)に戻し、撃鉄(ハンマー)を親指で押さえながら引金を絞った。引金を絞り続けながら親指からそっと力を抜いていくと、静かに撃鉄は倒れた。撃針を打つようなことはない。
 その拳銃をホルスターに戻した。一本だけ中味が残っているコーラの罐を斜め上に放りあげる。
 それが二十メーターほど前方の、地上から三メーターほどの空間に落下してきた時、片山の上半身が鞭(むち)のようにうしろに反った。
 抜きながらプッシュ・ロッディングされた片山のG・Iコルトが、〇・三秒のうちに五回火を吐いた。五発目の空薬莢が飛びあがった時には、あと四個の空薬莢はまだ空中にあった。
 五発の連続発射音がドウーンと長く尾を曳(ひ)く一発に聞こえるほどの早射ちだ。
 五発の四五口径弾をくらったショックで、罐は液体を飛散させながら空中を乱舞した。口径四五A・C・P弾は拳銃実包としては強力とはいえ、大口径マグナム・ライフルからくらべれば赤ん坊のようなものだから、罐が粉々になるようなことはなかった。
 薬室も空になったためにスライドは後退したまま自動的に止まった。空になった弾倉を抜き、スライド・ストップを押してスライドを閉じた片山は、抜いた弾倉にポケットに入れてあった五十発入り弾箱から出した七発の実包を塡(つ)め、弾倉室に戻した。その拳銃をホルスターに収め、ウィンチェスターM七〇のマグナム・ライフルから出鱈目(でたらめ)に六発射った。
 銃腔を適度に汚すためだ。銃腔をクリーニングしたあとの数発は着弾が乱れるからだ。
 毛布の上に坐りこんで片山は日没を待つ。コダックのアルミのフィルム罐に移してあったロリラード・ビーチナットの、頭がキーンと痺れるほどきつい噛みタバコをひと摘み口に放り込む。尻に汗がたまっていた。


 尻の汗が、片山にヴェトナムでの一日を想いださせた。
 陸軍歩兵兵士として一年間殺し合いに明け暮れているうちに、片山は死体となるどころか、南ヴェトナムのゲリラと北ヴェトナムの正規軍を二百人以上血祭りにあげ、少尉に特進していた。
 片山の悪魔的なほどの生存テクニックと殺しのテクニックに嫉妬(しっと)した上官たちが、米陸軍特殊部隊(スペシャル・フォース・グループ)、つまりグリーン・ベレーを志願するようにと、片山にしつこく勧めた。
 死傷率が非常に高いグリーン・ベレーに片山が入って早く死ぬように望んだわけだ。そうでないと、彼等の階級を片山がすぐに追い抜いてしまう。
 片山は、戦争は正義もクソもない命がけのゲームである以上、生存と殺しのテクニックをグリーン・ベレーで磨(みが)くことは自分のためにプラスになると思った。

 グリーン・ベレーに志願した片山は、ジョージア州フォート・ベニングの基本トレーニング・センターに送られた。高温多湿でジャングルが多い北米南部は、ヴェトナムと気候や地形がいくらか似ている。
 そこでは降下訓練とレインジャー訓練と射撃訓練をメインとし、素手は無論、ナイフや手に入るかぎりの道具を武器としたテクニックが教えられた。
 フォーク・ベニングの射撃教官は、U・S(アメリカ)オリンピック・チームの猛者たちであったが、片山は戦闘射撃や早射ちにかけては彼等に舌を捲かせるほどであった。柔道や空手や合気道では教官たちに煙たがられるほどであった。
 フォート・ベニングの近くのノース・キャロライナ州フォート・ブラックにある特殊戦争センターの専門コースに進めたのは、片山を含めて訓練生のうちの三分の二ほどであった。
 落伍者(らくごしゃ)が続出するその専門コースで踏みとどまることが出来た少数の男たちのなかにも片山がいた。
 片山は火器(ウエポーン)担当要員として専門訓練を八週間受けることになった。
 しかしグリーン・ベレーは一つの分野だけではなく最低で二分野、出来れば全分野でもエキスパートになる必要があったから、片山はその後また八週間にわたって破壊活動(デモリーション)要員としてのトレーニングを受けた。爆薬のエキスパートにもなったわけだ。
 さらにそのあと六週間にわたり、戦略や戦術に関する授業や、ヴェトナム語とヴェトナム戦終了後に予想されるアフリカのポルトガル植民地の独立戦争への介入にそなえてのポルトガル語の特訓を六週間にわたって受けた。無論、その間にも戦闘訓練や爆破の実習は続けられ、本来なら三十七週にわたる医療実習の基本もかじらされた。
 卒業試験は、六週間にわたるパラシュート降下による挺進訓練とゲリラ戦の演習であった。三週間が中米のジャングル、あとの三週間がモンタナ・ロッキーの山岳地帯で実戦さながらに行われた。待ち伏せしている教官たちの実弾が飛んでくる。
 交差した矢の上に銃剣を置いたデザインの帽章をつけた青緑色のグリーン・ベレーを被って地獄のヴェトナムに戻った片山が、二百人を越す北ヴェトナム正規軍の将兵を殺して大尉(キャプテン)に昇進したあと、あの悪運が片山を見舞ったのだ。
 北ヴェトナムの雨期であった。片山が指揮するグリーン・ベレーの第三大隊(バターリオン)M中隊(マイク・カンパニー)E分隊(エコー・スクアッド)十二名は、深夜敵中深く潜入し、巧みにカモフラージュされて上空からはそれと分らない水力発電所の爆破に成功した。
 だがダムと発電所の警備兵の火力は予想をはるかに上まわった。エッコーと発音されるエコー分隊の無線係りの曹長(マスター・サージャン)は背負った無線ごとロケット砲に吹っ飛ばされ、副官と中尉(リュテーナン)と七人の下士官は機関銃と速射砲の餌食となった。
 片山たち生残り三名は、敗走しながら二十名を越す敵兵に命中弾を浴びせたが、雲霞(うんか)のように押し寄せる敵兵に追いまくられているうちに、友軍のヘリが救出に来る予定の集合地を見失った。
 おまけに、ジャングルは雨と濃霧で月も星も見えなかった。似たような地形がくり返し現れるし、そこは米軍の地図にのっていないので、コンパスは役立たない。
 発電所から三十キロは離れていると思われる広大な谷間に逃げこんだ片山たちは、冷たい濃霧と時折り降る豪雨のなかで、三日間を雪隠(せっちん)詰めになっていた。
 完全に包囲されていることは、威嚇(いかく)射撃されるAK四七突撃銃の乾いた銃声やチェコ製ブルーノ機関銃の軽快な連続発射音、ハラワタに響く迫撃砲弾の炸裂音を聞くまでも
なくわかった。だが敵も、視界が悪すぎるために片山たちを発見できないのだ。
 タコツボを掘り、カモフラージュ色の携帯用キャンヴァス・シートを屋根がわりに掛けた片山たちは、泥水に尻を濡らしながら敵の来襲を待った。




IMFDB.org - AK-47
http://www.imfdb.org/wiki/AK-47







IMFDB.org - ZB26 Machine Gun

http://www.imfdb.org/wiki/ZB26





Guns Fandom.com - ZB vz. 26 (Bruno ZB Vz. 26)
https://guns.fandom.com/wiki/ZB_vz._26







 無線機が爆破されたので、救援のヘリとの連絡をとることが出来なかった。歩兵とちがってCレーションの罐詰めは一日分しか携帯してなかったので、それを食い尽くしたあとは、片山がタコツボから這(は)い出て採ってくる食用の野草や木の根をかじるだけだ。
 だが、生き残ったフランクとジョニーの両准尉(ワーレント・オフィサー)は、片山が採ってきたものを食っても、吐いたり下痢したりするだけなので、恐怖と空腹をまぎらわせるために、救急キットのモルヒネの錠剤をかじっていた。
 霧が薄れた五日目の未明、片山は二人の部下をタコツボに残して出撃した。携行した火器は短銃身と伸縮銃床のM十六自動カービンと、部下の死体から取りあげてあった四十ミリ自動十二連グレネード・ランチャーXM一七四であった。




IMFDB.org - Colt XM177/CAR-15/Commando Series

http://www.imfdb.org/wiki/M16_rifle_series#Colt_XM177.2FCAR-15.2FCommando_Series







XM174 40mm Automatic Grenade-Launcher













 南側の敵陣に忍び寄った片山は、五人の哨兵(しょうへい)たちを、ジャングル用のナタ(マシェット)で首をはね、ナイフで刺殺し、針金で絞殺する。
 それから、敵陣のテントに自動グレネード・ランチャーから四十ミリ榴散弾(りゅうさんだん)を射ちこんでおき、敵の哨兵から奪ったAK四七を乱射する。
 銃身が過熱するごとに銃を替え、約千発をテントのなかにフル・オートで射ちこんで内部にいた人間を全滅させた。
 テントのなかの死体と共にあった機関銃や迫撃砲やロケット砲などを、南のテントを見おろす高地の岩のなかに運び終えた頃、霧は去り、夜明けの薄明かりがさしてきた。
 そして、麻薬を注射した腕を縛った北側と東側の敵兵数十名が、南のテントを目がけて殺到してきた。
 用意した敵の火器を駆使した片山が彼等を片付け終るまでに五分もかからなかった。グリーン・ベレー火器担当要員は世界中の銃砲の取扱いについて熟知している・・・・・・。

 (つづく)





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Last updated  2021年07月18日 06時06分52秒


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