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Photo by Lorana Gallery
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>前回


「・・・・・・・・・・」
 片山はデュポンの息が鎮まるのを待った。百万平方キロというと、日本全体の約二倍半の広さだ。ユーコンなどのテリトリーは日本では準州と呼ばれている。
「ダヴィドは、その買収地を赤い軍団の軍事訓練基地にした。ダヴィドの手下が世界各国から集めてきた連中    既存のテロ組織からはみ出した連中や、新米の傭兵崩れ、それに一匹狼(おおかみ)のヤクザといった連中だ    を、その基地に連れていかせて、軍事訓練を受けさせた。
 アメリカ人教官は、合衆国コロラド州ボウルダー市二十八番にあるロブ・ブラウン中佐の傭兵募集機関アルファ・グループを通じて傭(やと)ったグリーン・ベレーのベテランたちだ」

「どうして?」
「いいから続けろ」
 ヴェトナムで戦った米陸軍特殊部隊員(グリーン・ベレー)でロブ・ブラウンの名を知らぬ者はないだろう。








Youtube -
Lt.Col. Robert Brown: 'I Am Soldier of Fortune' (Aug 12, 2013)
from Newsmax TV

https://www.youtube.com/watch?v=vWpkA9mY6lY









 はじめの頃は、主に中南米の独裁国に、グリーン・ベレーの任期が切れた者や、ヴェトナムで武勲をたてた退役士官などを送りこんでいたが、やがて南アのW・W・G    ワールド・ワイルド・ギース    とコンタクトを持つようになり、モザンビーク、ギニア・ビサウ、アンゴラ、エリトリア、ソマリア、ザイール、ローデシア、ナミビア、オマーン、イラン、サウディ・アラビアなどに傭兵を送り出した。
 ブラウンは七五年の夏、年二回発行の “ソルジャーズ・オブ・プロフェッショナル・アドヴェンチュアラーズ” を創刊した。
 片山はコロラドのデンヴァー郊外にロッジを持っていたから、片山のデンヴァーの友人に住所を聞いたのか、その創刊号の見本が、片山の所属していたアフリカの狩猟会社気付けで送られてきた。片山は定期購読者の一人になった。

 シーズン・オフをデンヴァーで片山が過ごしていた時、ブラウンから直接、アンゴラの反革命軍の大隊長にならぬかと誘われたが、アンゴラの戦況を知っていた片山は断った。
 最近〝ソルジャーズ・オブ・プロフェッショナル・アドヴェンチュアラーズ〟誌は隔月刊になったが、片山が最後に見た号では、殺しのテクニック、新兵器の性能と操作法、殺人専用の隠しナイフやコマンドウ・クロスボウなどの紹介、右派から見た国際情勢の解説、各国際紛争国での戦況リポート等が載っていた。
 それよりも真っ先に傭兵志願者が見る会報欄には、ローデシアやオマーン等の傭兵募集要項のほかに、アンゴラ解放人民運動MPLAのアンゴラ人民共和国とキューバ軍によって敗走させられた反革命軍のFNLAとUNITAが、懲(こ)りもせずに、ザイールのキンシャシャのホテル・インターコンチに事務所を置いて傭兵を募集しているという知らせが載っていた。
 無論、ザイールのモブツ政権もアンゴラとソ連の代理国キューバにバック・アップされた旧カタンガ憲兵隊の再反乱に備えて傭兵を求めていた。
 変わったところでは、ニュージーランド空軍が、英米の退役軍人のパイロットやナヴィゲーターを求めていた・・・・・・。
「南アフリカからは、マイク・ホウアの “渡り鳥(ワイルド・ギース)” クラブから、コンゴ動乱を戦い抜いた古強者(つわもの)を教官として傭った。イギリスからは、レスリー・バンクスやノーマン・アスペンなどのS・C・S    セキュアリティ・カウンセル・サーヴィスを通じて傭ったレッド・ベレー、つまり英国特殊部隊コマンドウ出身者を教官として傭った。








Youtube -
'Mad Mike' Hoare: What kind of men became Wild Geese in the Congo - and why?
from Mad Mike Hoare
https://www.youtube.com/watch?v=3jS5geY4udg







 第一期の卒業生は確か三百人と思ったが、そのうち十パーセントほどは再訓練を受けて基地に教官として残ったり、任務で実戦経験を積んでから教官として基地に戻ったりした。今では、教官のほとんどが卒業生上がりだ」
「基地の中心地というか、野戦訓練本部があるのはどこだ? ブリティッシュ・コロンビア州? ユーコン準州か? それとも・・・・・・」
「知らん。本当だ。私はそういうことに関心が無いのだ。信じてくれ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ダヴィドはパリの自分の地中海銀行のすぐ近くにある、これもダヴィドが主宰している国際慈善団体〝助け合い(サイデール)〟の事務所ビルに隣接している空きビルを、トーテム・グローバルが子会社の一つを使って買収したジュラール海運という休眠会社の名義で買収し、そこを赤い軍団の秘密本部にした。
 翌年になって、つまり今から六年前、キャナダの基地で訓練を終えた者が千人を越えた頃、ダヴィドは合衆国と、ヨーロッパや中南米の主要国に支部を置かせ、テロ活動に突入させた」
「ちょっと待ってくれ。ダヴィドは赤い軍団でも、決して表には出ないんだろう? ダヴィド・ハイラルと軍団をつなぐ窓口で一番力があるのは誰なんだ?」
「〝カイオーテ(コヨーテ)〟ことブライアン・マーフィだ。もとは北アイルランドの独立と南北アイルランドの武力統一を主張するI・R・Aの闘士で、クレムリンに気に入られてモスクワのパトリス・ルムンバ大学の学生として招かれた。
 あの特務機関員養成学校で政治教育を受け、爆弾や銃器を扱う腕に磨(みが)きをかけたマーフィは、世界赤軍の参謀兼殺し屋になった〝ジャッカル〟あるいは〝カルロス〟ことラミス・サンチェスと同期生だったから、しばしば二人はマスコミに混同されている。
 ともかく、パトリス・ルムンバ大学を優秀な成績で卒業した〝カイオーテ(コヨーテ)〟は、北アイルランドで爆弾や銃撃のテロ活動に戻った」
「・・・・・・・・・・」
「しかし、彼はやりすぎた。あまりにも大量に殺しすぎた。プロテスタントや駐留英軍だけでなく、I・R・A側のカトリックにも被害が出ると分っていても平然と爆破活動を行った。
 そういうわけで、 〝コヨーテ〟はI・R・Aの組織のなかで次第に浮きあがった存在になった。クレムリンも、味方側の市民までテロに捲きこむマーフィの作戦を非難しはじめた。I・R・A、ひいては世界革命に対する同情票がへるからな。
 そこにもってきてイングランド側はなりふり構わずにコヨーテを狩りたてた。I・R・Aの幹部が次々に拷問を受けて殺された」
「I・R・Aはカイオーテが厄介者になったんだな?」
「それでI・R・Aはコヨーテをパリに逃がしたんだ。ダヴィドとコヨーテはパリで密約を交わしたんだと思う。コヨーテはモスクワで甘い生活を知ってから、I・R・Aのストイズムに耐えられなくなっていたようだ。
 ダヴィドに取り立てられたコヨーテは、赤い軍団の参謀本部長になった。ダヴィドの身に危険が迫った時にはボディ・ガード長も勤める。彼は早打ちの名手であるだけでなく、狙いの正確さにかけてもオリンピック選手級なんだ」
「そいつは大したもんだ。そのうち必ず勝負してみせる」
「話はそれたが、ホルンブルグ弁護士事務所は、赤い軍団がヨーロッパ中南部でテロで稼いだ
  金を、 〝濾化(ろか)〟してダヴィドに渡すための装置として選ばれた。事務所の取り分は〇・〇三パーセントだ」
 デュポンは言った。
「これまでホルンブルグ弁護士事務所という濾化装置を通じてダヴィドに渡った金は?」
「三百億ドルといったところだ。ダヴィドが教えてくれるわけはないが、ドイツとベネルックス三国、それに英国と北欧から入る金はルクセンブルグの濾化装置を通し、合衆国と中南米からの金はカリブ海のグランド・カイマン島とバハマ諸島のグランド・バハマ島、アジアで稼いだ金はグランド・カイマン島とホンコンとシンガポールの濾化装置を通じているんだろう」
「全体を合わせると天文学的な数字の金額になるな? クレムリンはどうしてるんだ?」
「あのクレムリンが、赤い軍団がダヴィドの私兵だということを嗅(か)ぎつけるまでには、大して時間はかからなかった。
 勝手な真似(まね)は許さん、とモスクワは怒り狂ったが、その頃には赤い軍団の軍事力はソ連国家保安委員会(ケー・ジー・ビー)のコントロール能力を越えていた。何度か送った刺客は、みんな返り討ちにあっている。〝コヨーテ〟がダヴィドを護衛している時に当ったクレムリンからの刺客はなぶり殺しにされている。
 そこにもってきて、ダヴィドはアラブの急進派諸国の首脳部にとって必要な人物なんだ。ソ連や東欧の中古兵器に飽きがきている彼等に、西側の高官を買収して西側の最新兵器を回してくれる上にたっぷりとリベートも払ってくれるダヴィドは、得がたい存在だからな」
「そのようだな」
「それに、ダヴィドはあの通りアラブ急進派諸国のリーダーたちと仲がいいから、赤い軍団が西側の旅客機をハイジャックして身代金(みのしろきん)を稼いだ時には、ハイジャック機の着陸を許して犯人たちをかばってくれた国のお偉方に身代金の五分の一の分け前を払う取決めをしてあるんだ。
 アラブの大義のためとか大口を叩いていたら、身代金の分け前が懐に転(ころ)がりこむんだから、奴等としても有難い話さ。
 そういうわけで、クレムリンはダヴィドと手打ちした。ダヴィドが年に二千万ドルの機密費を、西側世界で暗躍しているK・G・Bのエージェントの活動資金として提供する、という条件でな。それ以来、ダヴィドとクレムリンは、もと通り仲よくやっている・・・・・・。頼む・・・・・・病院に・・・・・・」
 デュポンは寒さに震え続けながら言った。
「ダヴィドは、そんなに大金を稼いで、何に使う気なんだ?」
「それは謎(なぞ)だ。ダヴィドのことだから、とてつもなく大きな野望を持っているんだろう。ダヴィドの野望とこういう事実が結びつくかどうかは知らんが、ここ数年のあいだに、米国と西ドイツの原子物理学者や核物質の専門技術者、それにミサイルのエキスパートが、数十人も行方不明になっている。ケタ外れの高給に吊(つ)られてソ連に亡命したのではないかという噂(うわさ)がたっているが、実は赤い軍団が誘拐(ゆうかい)したらしい。なあ、もういいだろう・・・・・・早く病院に運んでくれ・・・・・・」
「誘拐の目当ては身代金稼ぎではないわけだな? 五、六年前に、西ドイツ政府がイタリーの原発に売却した濃縮ウラン三百トンをシージャックしたのは赤い軍団だろう?」
「ダヴィドは中性子爆弾(ニュー・トリック・ボンブ)に関心を示していた」
「中性子爆弾? ミサイルの弾頭としても使える、局地戦向きのミニ水爆だな?」
「今は普通の原水爆の威力は強力になりすぎて、相手国の報復を怖(おそ)れて使うことが出来なくなった。いわゆる張り子の虎(とら)になりさがったんだ。
 それに、ソ連と東欧七国のワルシャワ条約機構軍が西側に侵入してきた場合、防衛のために通常の原水爆の使用に踏みきると、市民まで大量殺戮する結果になる。
 そこで開発されたのが、敵兵の殺傷にだけ的を絞ることが出来る中性子爆弾だ。しかも中性子爆弾には、爆心地をのぞくと、敵の戦車や兵器を破壊しないが、敵兵だけを殺せるというメリットがある。捕獲した車輛や兵器を利用出来るわけだ」
「・・・・・・・・・・」
「中性子爆弾は、核爆発時に起る高熱や爆風や死の灰の発生を出来るだけ押さえ、核融合のエネルギーを中性子の形で放出する爆弾だと、何かに書いてあった。米国はそいつを〝クリーン・ボンブ〟と呼んで、すでに地下爆発実験に成功しているそうだ。
 ともかく中性子爆弾は、爆心から狭い範囲でしか建物や産業施設や兵器を破壊しないが、放射された強力な中性子線は、よほど分厚い鉛以外はすべての物質を貫通して、一キロ・トン級の場合、爆心地から一キロ以内の生き物を皆殺しにするそうだ。しかも中性子は数十分たつと空中に消えてしまう」









「爆心地以外のビルや機械は、中性子が貫通しても被害を受けない、というわけだな。そうすると、例えばの話、高度の産業施設をもっている国を中性子爆弾で攻撃してその国の人々を皆殺しにしても、工場や機械は、ほとんど破壊されないから、翌日からでも生産を再開出来るわけだな? もっとも、現実面から言って、人材の補給や原料の輸入や製品の輸出という大問題が控えている。一つの国を、国民を皆殺しにして武力で乗っ取ったとなると、国際世論が許さないだろうし」
「・・・・・・・・・・」
「ところで、ダヴィド・ハイラルはいまどこにいるんだ?」
「パリにいると思うが分らない。本当に知らないんだ・・・・・・頼む、早く病院に連れていってくれ・・・・・・あんたも早く逃げないと、フランクフルト支部の傭兵軍団に殺(や)られてしまう」
「俺のことまで心配してくれて有難う。本来なら口封じのためにあんたら二人を始末せねばならんところだが、よく協力してくれたから助けてやる。しばらくのあいだ眠っていてもらおう」
 片山は二人の頭を強く蹴って意識を失わせた。肺炎を起こさぬように、二人が身につけていたものを体の上からかぶせてやる。
 あたりはもう薄闇(うすやみ)に包まれていた。
 片山は街道に向けて山をくだった。街道から一キロほどのあいだ私道の左右が雑木林と藪(ブッシュ)になっている場所に来ると、ブッシュのなかにもぐりこんで待った。
 五分ほどたってから、ライトを消した三台の車が街道を外れて私道を登ってきた。三台とも、強力なV8エンジンをフロントに積むポルシェ九二八だ。出来るだけ排気音をたてぬようにギアを四速に入れ、ゆっくりと登ってくるが、無舗装のこの私道ではトルクを持てあまして軽く尻(しり)を振っている。















Youtube -
Porsche 928 early days ad produced in the early to mid 80's
https://www.youtube.com/watch?v=i_Ozg26OTyY






 安全ピンを抜いた攻撃型手榴弾を両手に握って蹲(うずくま)っていた片山は、列の最後のポルシェが通りすぎた時に立ち上がった。
 すでに二十メーターほど先を走っている先頭のポルシェのかなり先を狙(ねら)って手榴弾を二発投げた。
 弾倉帯から外したあと四発の手榴弾を、二台目と最後のポルシェの未来位置めがけて投げる。
 タイミングが合った。
 爆発した六個の手榴弾をくらった三台のポルシェ九二八は大破し、横転したり火を吹いたりした。
 M十六自動ライフルのセレクターをフル・オートに入れた片山は荒れた道に跳(と)びだした。横転した先頭のポルシェから這(は)い出した若い傭兵を掃射した。








「出てこい、ベルネッケル? 出てくるだ、ベルネッケル!」
 と、ドイツ語で叫ぶ。
 炎上している真ん中のポルシェから、髪が焼け落ち、背広に火がついた中年男が転げ出た。地面に体を押しつけて服の火を消そうとしながら、
「俺がベルネッケルだ。射つな、射たんでくれ!」
 と、わめく。
「話がしたいだけだ。こっちに来い」
 片山は叫んだ。
 一番うしろのポルシェから血まみれの男が軽機関銃を突きだしたのを目にとめ、M十六自動ライフルで片付ける。
 眉毛(まゆげ)も焦(こ)げたクラウス・ベルネッケルは、やっと服の炎を消し、這いながら片山のほうに近づいた。左目は潰(つぶ)れている。
 片山は、クラウスだけでなく、大破した三台のポルシェのほうにも鋭い目を配っていた。
 片山の足許(あしもと)近くに来たクラウスは、ショールダー・ホルスターから小型で平べったいブラウニング三八〇の自動装填式拳銃を抜いた。








 片山のM十六が吠え、クラウスの右手は、ブラウニングを握ったまま、手首から千切れて飛んだ。
 片山は右手首の傷口から血を噴出させて気絶したクラウスの首を持って引きずり、ブッシュのなかに引きずりこんだ。
 窓ガラスなど跡形もなくなっている三台のポルシェの車内に撃発させた手榴弾を一発ずつ放りこみ、ブッシュに跳びこんで身を伏せた。
 爆破されたポルシェの破片が背中に舞い落ちてきたが、ブッシュにさえぎられて、片山に苦痛を与えるまでにはいたらない。
 片山はクラウスの右腕を彼のネクタイできつく縛り、へし折った木の枝を梃子(てこ)にしてさらにきつく縛りあげる。
 手首からの出血はほとんど止まった。片山はクラウスの左手首を蹴(け)り折って意識を取戻させ、
「あんた、赤い軍団のフランクフルト支部長だな?」
 と、念を押す。
「畜生・・・・・・痛い・・・・・・死ぬ・・・・・・」
 クラウスは悲鳴を漏らした。
「素直に答えたら、病院の玄関まで連れていってやる」
「な、何をしゃべったらいいんだ?」
「赤い軍団フランクフルト支部は、もとバイエルン貿易の営業部長をやっていた日本人佐原を、情報収集係りとして、日空フランクフルト支店にもぐりこませた。現地傭いの職員として・・・・・・違いないな?」
「ど、どうして知っている?」
 クラウスは呻(うめ)いた。
「〝雪ネタ〟と日本で呼ばれている覚醒剤の西ドイツからの密輸が発覚して海外に逃げたバイエルン貿易の連中で西ドイツに逃げこんだのは佐原だけではあるまい?」
「認める。奴等ははじめは南米に逃げたが、結局は西ドイツとスウィスとオーストリアにやってきた。奴等はドイツ語が達者だからな。しかし、奴等日本人は、もう全員が死んだ」
「死んだ?」
「本部の命令で始末したんだ。口止めに皆殺しにした。奴等はアフリカのガメリア国で、赤い軍団があんたに散々な目に会わされたのを知って、怖気(おじけ)づいてしまったからだ。あんたに捕まったら、ペラペラしゃべるに決まってるからだ」
「日本人の処刑の命令を伝えた、赤い軍団の本部の者の名前は誰だ?」
「〝コヨーテ(カイオーテ)〟・・・・・・ブライアン・マーフィだ」
「西ドイツからシー・ジャックした濃縮ウランを、赤い軍団はどこに運んだ?」
「・・・・・・・・・・」
「知らん、とは言わさないぜ」
「キャナダ・・・・・・キャナダのヴァンクーヴァー港だ。そこから何代かの大型トラックに積まれて奥地に移された、と聞いている」
「奥地とは? 具体的にしゃべるんだ」
「B・C(ブリティッシュ・コロンビア)とアルバータとユーコンとノース・ウェスト・テリトリーにひろがる、軍団の秘密軍事基地だ。そこには、小型の原子力発電所があって、基地にエネルギーを提供している」
「濃縮ウランは、原発のためにだけ使われている、と言うのか? とぼけるのはよせ」
 片山はハッタリを噛(か)ませた。
「ど、どうして知っている?」
「デュッセルドルフの西ドイツ総局から聞いた話では、あの基地には核兵器開発研究所があって、すでに小型の中性子爆弾とミサイルを開発したそうだ。中性子爆弾の爆発実験も済んだという。その実験は、巨大な隕石(いんせき)が落下した、ということで政府や米軍の核爆発探知機関をごまかしたそうだ」
「赤い軍団は中性子爆弾を実用化させたというわけだな。軍団は、その怖(おそ)しい武器を、何のために使う気だ?」
「知らん・・・・・・俺のような立場の者が、そんなこと知るわけがない」
「赤い軍団の軍団長が誰なのかを知っているか?」
「知らん・・・・・・いや、仇名(あだな)だけは知っている。“ゼウス”と呼ばれ、神々の上にも全世界の人間の上にも君臨出来る大人物だと聞いているが、実態は知らん」
「〝ゼウス〟?・・・・・・ギリシア神話の最高神のゼウスとはな・・・・・・奴の名はダヴィド・ハイラルだ」
「馬鹿な! まさか、慈善運動家のハイラルだと言う積りはないんだろう?」
 クラウスは驚愕(きょうがく)のあまり、開いた口からヨダレを垂らした。
「そのダヴィド・ハイラルだ」
「まさか・・・・・・まさか・・・・・・」
 クラウスは喘(あえ)いだ。
「信じようと、信じまいと勝手だがな。ところで、キャナダの奥地の秘密基地のなかにある核兵器開発研究所の位置は?」
「知らん。知るわけがない・・・・・・しかし、ダヴィド・ハイラルが・・・・・・あのユダヤ人がゼウスだなんて・・・・・・」
「去年、赤い軍団に、パリの食料品デパート、フォルチンが爆破された。爆弾を仕掛けたのは誰だ?」
「知らん。パリの連中がやったことなど知らん。どうして、そんな小さなことを知りたがる?」
「小さなこと?・・・・・・」
 片山の髪は逆立ち、瞳が暗(くら)く燃えた。
「あの爆発に捲きこまれて、買物をしていた俺の女房と子供二人が殺されたんだ。原型をとどめぬほどにバラバラにされて・・・・・・ハラワタを八方に撒(ま)き散らして」
「助けてくれ! フランクフルト支部に関係ないことだ!」
 クラウスは悲鳴をあげた。
「貴様もハラワタを撒き散らしながら死ぬんだ」
 片山は弾倉帯に一発だけ残っていた手榴弾を外し、安全ピンを抜いた。
「待ってくれ! 本部は、あんたがどこかの大きな組織に傭われたエージェントだと言ってた。自分自身のために・・・・・・女房子供の恨みを晴らすために・・・・・・軍団に戦いを挑んだとは知らなかった・・・・・・やめろ、やめてくれ。俺を殺しても、あんたの女房子供は生返らない」
「殺してやる」
 圧(お)し殺したような声を吐きだした片山は、クラウスに背を向けて私道に歩み出た。立ち上がったクラウスが、よろめきながら追ってくる。金切声をあげていた。
 クラウスから三十メーターほど離れてから片山は立ちどまった。振り返ると手榴弾を投げて身を伏せる。
 爆煙が去ったあと、片山はクラウスの死体に近づいた。クラウスの胴体は二つに千切れ、原色の大腸や小腸が頭の近くでトグロを捲いていた。片山はクラウスの首にそのハラワタを捲きつけ、近くの樅(もみ)の木の枝に上半身を吊(つ)るす。

 (つづく)





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Last updated  2021年11月21日 09時07分32秒


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