Poe-maxim（詩の一節）
ええ。わかってます。
詩の一部を抜き出すということが、
詩の本来の意味をぶち壊すことを意味するのは。
しかし･･･ここに並べた詩の切れ端たちは、どうしてこんなにも燦然と輝いているのでしょう？？
・じょじょに更新していきます。しばらくは、がまん
Last Update:10.30 21:05
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
（『初恋』/島崎藤村）
ふるさとは遠きにありて想ふもの
そしてかなしく歌ふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
かへるところにあるまじや
（『小景異情・その二』/室生犀星）
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる･･････
（『汚れつちまつた悲しみに･･････』/中原中也）
私の耳は貝の殻
海の響きを懐かしむ
（忘れた）
なぜ 花はいつも
こたえの形をしているのだろう
なぜ 問いばかり
天から ふり注ぐのだろう
（『なぜ 花はいつも』/岸田衿子）
わたしを区切らないで
，や．いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩
（『わたしを束ねないで』/新川和江）
初心消えかかるのを
暮しのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
（『自分の感受性くらい』/茨木のり子）
永遠の生命を求めるは夢
流れ去る生命のせせらぎに
思ひを捨て遂に
永劫の断崖より落ちて
消え失せんと望むはうつつ
（『旅人かへらず・一』）
地球は支えられている 千の手に千の苦痛に
地球はとらえられている 万の手に万の不安に
地球はとざされている 億の手に億の怖れに
地球はただよっている おびただしい欠乏と不毛と荒廃の闘争のうえに
（『われら五月の夜の歌』/三好豊一郎）
朝の水が一瞬、ほそい剃刀の
刃のうえに光って、落ちる―――それが
一生というものか。不思議だ。
なぜ、ぼくは生きていられるのか。曇り日の
海を一日中、見つめているような
眼をして、人生の半ばを過ぎた。
（『朝の鏡』/北村太郎）
茂吉の poesie の神さまは
浅草の観音さまと鰻の蒲焼
かれには定型という城壁があったから
雷門へ行きさえすればよかった
僕の神経質な神は
いつも不機嫌だ 火災保険もかけてない
（『詩神』/田村隆一）
――やっぱり I was born なんだね――
父は怪訝そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。
―― I was born さ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね――
（『 I was born 』/吉野弘）
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
（『祝婚歌』/吉野弘）
道を急ぐことはない。
あやまちを怖れる者はつねにほろびる。
明日をおびやかすその価値は幻影だ。
風に影を凍てつかせるなら 俗悪さにひるみ
道を急ぐことはない。
（『大股びらきに堪えてさまよえ』/岡田隆彦）
言葉は
言葉に生まれてこなければよかった
と
言葉で思っている
そそり立つ鉛の塀に生まれたかった
と思っている
そして
そのあとで
言葉でない溜息を一つする
（『鉛の塀』/川崎洋）
ちからをふるいおこしてエゴをささえ
おとろえてゆくことにあらがい
生きものの感受性をふかめてゆき
ぬれしぶく残酷と悲哀をみたすしかない。
だがどんな海へ向かっているのか。
（『新鮮で苦しみ多い日々』/堀川正美）
僕の前に道はない
僕の後ろに道はできる
（『道程』/高村光太郎）
谷川俊太郎特集！！
くり返す波の教えるのは
ただの一度も本当のくり返しは無いという事
『後悔 五つの感情・その１』
東京では 空は
しっかり目をつむっていなければ 見えない
東京では 夢は
しっかりと目をあいていなければ 見えない
『東京バラード』
あの青い空の波の音が聞えるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまつたらしい
透明な過去の駅で
遺失物係の前に立つたら
僕は余計に悲しくなってしまった
『かなしみ』
神々が人間に疲労して
機械に代りをさせているのを僕は聞く
『暗い翼』
空に小鳥がいなくなった日
空は静かに涙ながした
空に小鳥がいなくなった日
ヒトは知らずに歌いつづけた
『空に小鳥がいなくなった日』
意識の中には常に不完全な永遠がある
『もうすぐ消されるPの自画像』
ぼくらの見栄が言葉を化粧する
言葉の素顔を見たい
そのアルカイック・スマイルを
『鷹繋山』
私はいつも満腹して生きてきて
今もげっぷしている
私はせめて憎しみに価いしたい
『鳥羽3』
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
『二十億光年の孤独』
黙っているわけを問われた
だが黙っているわけは
黙っている以外云いようはなかった
『乞食』
解釈ってのはいつも一手おくれてるけど
ぼくがほんとに欲しいのは実は
不合理きわまる神託のほうなんだ
『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった4』
人は正しく歌えない
無を語る言葉はなく
すべてを語る言葉もない
『六十二のソネット・14』
何も喋らないものたちの間で
人だけが饒舌だ
『六十二のソネット・30』
空の青さをみつめていると
私に帰るとことがあるような気がする
だが雲を通ってきた明るさは
もはや空へは帰ってゆかない
『六十二のソネット・41』
誰が知ろう
愛の中の私の死を
むしろ欲望をそのやさしさのままに育てよう
ふたたび世界の愛をうばうために
『六十二のソネット・49』
世界は不在の中のひとつの小さな星ではないか
『六十二のソネット・56』
世界が私を愛してくれるので
（むごい仕方でまた時に
やさしい仕方で）
私はいつまでも孤りでいられる
『六十二のソネット・62』
夕暮は大きな書物だ
すべてがそこに書いてある
始まることや
終ることや――
始まりも終りもしない頁の中に
『夕暮』
名を除いても
人間は残る
人間を除いても
思想は残る
思想を除いても
盲目のいのちは残る
『除名』
海ゆかば 高波 くらげ コレラ菌
山ゆかば 落石 転落 人食い熊
道ゆけば ひき逃げ 衝突 ひったくり
うちにいれば 強盗 税務署 無理心中
どこにいたって 地震 台風 火山の爆発
でなけりゃ 革命 内乱 ジェット事故
『不思議』
どんなエロ映画も
愛しあう夫婦ほどワイセツにはなり得ない
『ワイセツについて』
問われて答えたのではなかった
そのことばは涙のように
私からこぼれた
辞書から択んだのではなかった
そのことばは笑いのように
私からはじけた
『ことば』
花に嵐の例えもあるさ
さよならだけが人生だ
（『詩集』/井伏鱒二）
花も嵐も踏み越えて
行くが男の生きる道
（西条八十）
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