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吉岡桂子記者の渾身記事36
その論調は骨太で、かつ生産的である。
中国経済がらみで好き勝手に吹きまくる経済評論家連中より、よっぽどしっかりしていると思うわけです。
朝日のコラムに吉岡桂子記者の記事(最終回)を見かけたので紹介します。
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2023年4月1日
偽装離婚した私から次世代のあなたへ 社会変えるバトンを渡していく
より
私は「偽装離婚」している。
ちょうど20年前。上海へ特派員として赴任する直前のことだ。旧姓併記が難しかった当時のパスポートでは、私は夫の姓だった。海外で重要な身分証であるパスポートと名刺などで使う「通称」の不一致は、中国では特に面倒が予想された。
取材活動を通じて拘束される恐れがある国だ。捕らえられた時に二つの名前を不審がられ、日本の戸籍制度を説明しても伝わらず、こじれたらどうしよう。同僚にも迷惑がかかる。面倒なヤツだと思われると、仕事のチャンスが遠のくのではないか。
この時、38歳。朝日新聞の中国特派員として初めての女性で、緊張していた。心配事はどんどん膨らみ、夫と相談して離婚届を出した。これで名前は一つ。上司に報告すると「中国は大変だな」と言った。
うまく伝わらない気がして上司には説明しなかったが、もう一つ、理由がある。その数年前、北京留学時の経験からだ。教室でも寮でも、戸籍名の使用を指定された。別人になったようで違和感を覚えていた。
昔語りをしてしまったのは、20も年下の女性の同僚が「偽装離婚」したと知ったからだ。育児休暇に入り、戸籍名である夫の姓だけで呼ばれる生活に「自分がなくなった気がした」。共感しながら、思った。
それにしても「選択的夫婦別姓」がこれほど長く実現しないとは――。
古い友人、稲沢裕子・昭和女子大学特命教授(64)を久しぶりに訪ねた。
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」。2年前、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗・元会長(85)が実例にあげた日本ラグビー協会で、女性初の理事を務めた。あの発言に「私のことだ」とすぐに取材に応じ、「必要があるから発言している」と反論した。ご記憶の方も少なくないだろう。
私と読売新聞記者だった稲沢さんは、1990年代半ばの同じ時期、運輸省(現国土交通省)を担当していた。穏やかで芯が強く、お姉さんのような存在だった。
「男社会の中で女性は自分一人だけという場が多く、私も笑う側だった。笑いを笑いで受け流した」。森氏の発言に会場で起きた笑いについてそう、語っていた。私も「面倒なヤツ」になるのを恐れて、一緒に笑う側にいたことを苦しく思い出した。
稲沢さんが言った。「従来の記者イメージの枠に自分をはめて、世渡りしていたつもりでいたのかもしれないね。その枠は、本当はもう少し、壊せたはずなのにね」
日本の「ジェンダーギャップ(男女格差)指数」は万年100位以下。言葉をのみ込んだ私も、どこかでつながっている。
でも、稲沢さんは実感していた。過去は変えられなくても、未来は自分の行動で変わる。森氏に対して意見を発したことで、学生たちから男女平等について家族と議論したという報告があった。男性からも広く「おかしな発言だ」と声が寄せられた。
森発言があった翌朝7時5分。大学の理事長で、内閣府の初代男女共同参画局長を務めた坂東真理子さん(76)からメールがあったそうだ。「森発言は驚きました。抗議してください」と1行。どうするべきかと迷っていた稲沢さんの背中を押した。
「上の世代が切り開いたものをどう育て、私は次の世代に何をつなぐのか。考える機会になりました」。ジェンダー問題に限らない。社会を変えるバトンは気づいた人から順番に、渡されていく。互いの背中を押しあおう。今より早い時はない。
◇
私の「多事奏論」は今回で終わりです。10年にわたってコラムを読んで下さり、ありがとうございました。人生いろいろ、働き方もいろいろ。しばらくお休みし、中国を伝える視点を広げるため勉強する予定です。また、記事でお会いできますよう。(編集委員・吉岡桂子)
10年に亘る「多事奏論」でしたがご苦労様でした。
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2023年2月20日
(記者解説)中国経済へのジレンマ 依存しつつ安保で対立、リスクは習氏
より
・中国の力の源泉は米国に次ぐ世界2位の経済。その動向は内政、外交を決定づける
・米国は中国との経済関係の一部を切り離そうとしているが、相互の貿易額は過去最高
・中国経済の最大リスクは習近平(シーチンピン)氏への権力集中だ。判断が非合理的になる恐れがある
◇
中国の2022年の経済成長率は前年比3.0%と、目標の「5.5%前後」に届かず、世界平均(3.4%)をも40年超ぶりに下回った。この経済情勢の悪化が「ゼロコロナ」政策の転換の大きな理由となった。
経済活動の本格的な再開をねらう大転換は、世界経済にとって「福音」となった。国際通貨基金(IMF)は1月末に発表した世界経済見通しで、中国の23年の経済成長率について、昨年10月時点の4.4%から5.2%へ上方修正した。世界全体の成長率も0.2ポイント引き上げた。チーフエコノミストのピエールオリビエ・グランシャ氏は会見で、中国の成長率が1ポイント上がれば、他地域に0.3ポイントの波及効果があると指摘した。IMFによれば先進国経済は23年に急減速する。中国の世界経済成長への貢献度は全体の3割前後を占める見通しだ。
中国の国内総生産(GDP)は過去20年ほどで約15倍に急伸した。22年には米国の約7割、日本の約4倍に達している。輸出と輸入を合わせた貿易総額では米国を抜いて世界トップだ。日本を含むアジアやアフリカなど多くの国にとって最大の貿易相手である。日本の貿易に占める中国の比率は約2割だが、中国に占める日本の比率は5.7%に過ぎない。
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ふくらむ経済を源泉として中国は国際社会での発言力を強めている。米国が主導してきた安全保障の分野から、民主主義や人権といった価値観に至るまで、国際秩序とぶつかることが増えた。米国は秩序そのものの再編を図ろうとする相手だとみなすようになった。日本を含む先進国にとって中国経済は失速すると困るが、成長しても手放しで喜べない存在になっている。
23年は急回復が見込まれる中国経済だが、過剰債務を抱える不動産業界は成長の牽引役から重荷に変わりつつある。人口減少は想定より早まり、社会保障費の増大もあって中長期的には成長の鈍化は必至だ。米国との対立は長期化が見込まれ、先進国からの高い技術の導入はかつてほど簡単ではない。中国に進出した外資系企業は、部品の供給網の見直しも迫られている。
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米国は安全保障を理由に、中国との経済関係の切り離し(デカップリング)を強める。軍事技術につながる先端半導体などについて、サリバン米大統領補佐官が「小さな庭、高い柵を実行中」と表現したように、一部の製品を囲い込もうとしている。
一方で、米商務省によれば22年時点での米中の貿易総額は6906億ドル(約90兆円)と4年ぶりに過去最高を更新した。バイデン政権の規制強化で先端半導体などハイテク分野の輸出は減ったが、中国へは大豆など穀物の輸出が、中国からはおもちゃなど日用品の輸入が増えた。米中の相互依存の幅広さを改めて示した。
ジェトロ・アジア経済研究所のチームはデカップリングが世界経済に与える影響を調べた。米陣営(日欧など)と中ロ陣営、どちらの陣営にも加わらない中立国に分けて試算した。米国が中国に18~19年にかけて実施した関税率引き上げと同等の非関税障壁が25年以降も続く場合、30年の世界経済への影響はマイナス2.3%(約2.7兆ドル)に及ぶ。日米欧や中国もそれぞれ3.0~3.5%のマイナスとなる。
両陣営と従来通り貿易ができる東南アジア諸国連合(ASEAN)や南米などはプラス0.3%と「漁夫の利」を得られる。チームは「対立が深まれば深まるほど、中立国にとってはどちらかの陣営に属するコストが高まるので、中立を維持する。このため、相手陣営をデカップリングによって世界全体から孤立させられない」としている。
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日本は安全保障上は米国と協調しながらも、自国の経済構造に根ざした戦略が求められる。
安全保障上の対立と経済の相互依存というジレンマを抱える国々にとって、経済活動を支える外交は死活的に重要だ。昨年10月に中国共産党大会で総書記3選を決めた習近平氏に真っ先に会いに行ったのは、ベトナム共産党首脳だった。南シナ海の領有権をめぐる争いに加えて、かつて戦火を交えた歴史からも対中感情はASEANで最悪とされる。それでも経済にも大きく関わる隣国との関係を重視した対応だ。今年最初に北京で習氏と会談したのは、ベトナムと同じく南シナ海での問題を抱えるフィリピンのマルコス大統領だ。米軍拠点の拡充など米国と関係を強めつつ、習氏にも配慮を欠かさない。
先進国ではドイツのショルツ首相が昨年11月、主要7ヵ国(G7)の先頭を切って経済界を引き連れて訪中した。ドイツは新疆ウイグル自治区など人権や安全保障の問題から、かつてより距離をとるようになっている。首相の訪中直後にも中国系企業による自国の半導体関連企業の買収を阻止したが、対立点があるからこそ影響を最小限に抑えるために対話に臨んだ。
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<吉岡桂子記者の渾身記事35>:2023年2月20日
<吉岡桂子記者の渾身記事34>:2020年1月25日
<吉岡桂子記者の渾身記事33>:2019年12月21日
<吉岡桂子記者の渾身記事32>:2019年11月23日
多事奏論一覧
に吉岡記者の中国論が載っています。
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