BLUEVELVET日記_SecondSeason

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フランク・鰤杜

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2008.01.02
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カテゴリ: 番外編
 あけまして。おめでとうございます。

 ですから、『BLUEVELVET日記』は書けません。
 そこで、本日執筆中の作品より、お正月のお時間つぶしに掲載します。

 ちょっと、話はずれていますが、年末年始のお休みに故郷に帰るか方もいるかと・・
 時期は梅雨時なんですがね。

 では、今年もよろしくお願いします。

 第十九話 ウィスキーの守り神

 僕は故郷に帰るということはない。それはこの福岡が僕の故郷だからだ。両親も祖父母も福岡にいる。年末や正月、お盆だって帰ることはない。小さいときに従弟が住んでいる熊本に何度か行った。しかし熊本は故郷ではない。


 激しい夕立のようだ。入ってくるお客様の肩が濡れている。
 「夕立ですか。」
 「ああ、短時間にどっと降ったよ。いや、まだ降っているがね。」
 そう言ってくれた男性はカウンターの端に座るなり、テキーラをストレートで注文した。男性はテキーラでもウィスキーでもお構い無しに、オールドファッショングラスを指定する。
 男性がオールドファッショングラス以外で呑んでいるところを見る事ができるのは、バドワイザーと、コロナを呑む時だけだ。どちらも瓶から直接。
 下手すりゃ、マティーニだってオールドファッショングラスで呑みかねない。
 特に怖い顔をしたり、難しい話をすることは無い。スポーツや映画や本などの趣味の話が中心で、ちょっとスケベなシモネタや馬鹿みたいな話をする。
 とてもフランクなお客様だ。今晩も早い時間にやって来て、馬鹿な話で盛り上がっている。
 カウンターはそのフランクな男性一人。ボックスは三つ埋まった。
 まだ雨は降っているのだろうか。お客様が入ってこないので外の様子はわからない。
 もうしばらくすれば誰か入って来るだろう。

 レセプタントの声がグラスを洗う僕の耳に入ると同時に、僕も挨拶をした。
 「いらっしゃいませ。」
 入り口に女性が立っている。雨に当たったのだろうか、髪の毛が濡れているようだ。
 「いらっしゃいませ。まだ外は雨が降っていますか。」
 「・・・・」

 前髪が長く、目が隠れるくらいある。顎のあたりが丸く、全体的に丸顔なのだろうか。
 「こちらがお飲み物のメニューです。こちらがお食事です。暖かいカクテルもございますので、ご注文ください。」
 彼女はメニューを受け取るなり、上から順番に舐めるように見ている。
 僕はフランクな男性の元に行き、あいたグラスのお変わりを尋ねた。
 「そうね、たまにはアイラにでもしようか。ラフロイグあたり。」
 僕は先程の彼女がまだメニューを見て決めかねているのではないかと思い目を向けると、こちら向いていた。
 僕は新しいオールドファッショングラスを出し、ラフロイグの栓を抜いた。抜いたと同時に香るアイラ独特のヨード香。いや、好きな人から言わせれば最高の香だ。瓶を傾け、オールドファッショングラスに注ぐ。トクトクという音と伴にグラスの四分の一ほどまで満たした。
 僕は再び彼女を見ると、フランクな男性の方を向いている。いやよく見ると向いているのでは無く、鼻を向けていると言ったほうが正しい。
 ラフロイグが入ったグラスをフランクな男性に差し出し、僕は彼女の前に向かった。
 「お決まりですか。」
 彼女はうなずき、小さな手がカウンターのラフロイグのボトルを指した。
 それは、小さな丸い手だった。
 「ラフロイグですか。」
 彼女はうなずいた。
 そして、フードのメニューを開いて、小さな丸い手についたかわいい指で指した先はオイルサーディンだった。
 「かしこまりました。ラフロイグは、どのようにして飲まれますか。」
 彼女が再び何も言わず指差した。その先にはフランクな男性がいた。
 「ストレートですが、大丈夫ですか。」
 「・・・・」
 「かしこまりました。」
 僕はバックにオイルサーディンの注文をながして、ラフロイグのストレートを作った。
 フランクな男性は僕の顔を見ながら「ラフロイグのストレートか・・」と言った。
 僕は彼女の前にコースターを置き、そっとラフロイグが入ったグラスを置いた。
 「オイルサーディンはしばらくお待ちください。」
 彼女は、小さな両手でグラスを持ち少しずつ飲んだ。
 なんともかわいらしい。未成年では無いのはわかるが、小さな手で、それも両手でグラスを持って飲んでいる。
 口につけたグラスからアイラモルトをちょっとずつ飲む。
 まるで舐めるかのように。
 「かわいいね。」
 フランクな男性は僕に小声でつぶやいた。
 エッチな意味で言ったのではない。確かに僕の目にもそう映る。僕は彼女のそばに行って、ねた。
 「アイラモルトはお好きなんですか。」
 「・・・・」
 彼女は何も言わず、うなずいた。
 僕は少し笑みが出た。
 すると、突然、彼女がつぶやいた。
 「海の香が好きだから。
 生まれたところが海の近くだった。
 海にはお魚がたくさんいる。
 パパが釣った魚をもらった。
 小さな魚だけ。
 大きな魚はパパとママが食べた。」
 舌足らずで、まるでついさっき言葉を覚えた小さな子供がしゃべっているようだった。
 「ああ、お魚が好きでオイルサーディンですか。私も、モルトを飲むときは時々オイルサーディンをおつまみにします。」
 「私は海のそばの倉庫で育って。
 パパのお手伝いをしていたの。
 麦を食べに来る小さなねずみを捕まえる。
 すると、パパはご褒美をくれた。」
 僕はかわいい彼女が、ねずみなんか捕まえていたのかと驚いた。
 「お待たせいたしました。」
 バックからワカがオイルサーディンを持って入ってきた。僕はオイルサーディンを受け取り彼女の前にそっと差し出すと、彼女は皿を両手でさわった。
 まるで、温度を確かめるかのように。
 そしてしばらく彼女は手をつけなかった。
 暖めた程度なので、すぐ口入れても熱くはないのに。
 僕がカウンターの中で、先ほど洗い終えたグラスを拭いていると、彼女はオイルサーディンに手をつけた。
 いや、ほんとに手をつけた。
 そう、手でつまんで食べ始めたのだ。
 もちろん僕は彼女前にフォークと箸、それに取り皿を置いていたのだが。
 まあ、海のそばで育ったのだから、このくらいの小さな魚は手でつまんで食べてもおかしくない。居酒屋や焼鳥屋でししゃもが出てくれば手でつまんで食べている。
 『そうだな』と僕は自分に言い聞かせた。
 ふとフランクな男性を見ると、驚いた顔をしている。きっとオイルサーディンを手でつまんだことに驚いているのだ。そう思って、僕はフランクな男性の前に立った。
 「どうかなさいましたか。」
 「いや、一瞬彼女の目が見えたのだが、それが・・・」
 「それが?」
 「いや、それが、小さい顔のわりにかなり大きな目だった。瞳孔というのかな、それが大きかった。それに白目がなかった気がするんだ。
 ほら、よく猫の目が暗いところで大きく開いているでしょう。あれだ。まさしくあれだよ。
 そして、ダウンライトがその目の中に入ったのだろうか、光ったんだ、赤というか、えんじというか・・・
 まるで、猫の目のような・・・」
 僕はふとあることを思い出した、きっとこのフランクな男性もご存知なことだ。
 「ウィスキーキャット」
 スコッチ・ウィスキーの蒸留所では、原料の麦をねずみから守るためにウィスキーキャットを飼っていたといわれる。しかし、最近では衛生上の問題から猫を飼うことをできなくなった。
 しかし、今でも猫はウィスキーの守り神と言われている。
 アイラモルト、海辺の蒸留所。
 オイルサーディン、小さな魚。
 ウッ!ねずみを捕まえると、パパはご褒美をくれた!
 まさか。
 僕は彼女の方を振り返ると、もうそこには誰もいなかった。ラフロイグはなくなり、オイルサーディンはきれいに平らげられていた。
 僕は食い逃げされたことより、彼女が、いや、まさかそんなはずはない。と、そこに、男性のお客様が入ってきた。
 「今このドアから、グレーの猫が出て来たたけど。」
 僕はごくりとつばを飲みこみ、オイルサーディンの皿を見た。
 すると、きれいに舐めてあった。

 第十九話 終わり





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Last updated  2008.01.02 14:37:31
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