BLUEVELVET日記_SecondSeason

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フランク・鰤杜

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2008.01.05
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カテゴリ: 番外編
 パソコンのデータ整理をしていたら、こんなものが出てきました。


 『カクテル』

 彼は九年前にやって来た。これといった特徴のない、普通のサラリーマンだ。
 シングルモルトばかり呑んでいる。
 オールドファッショングラスを前に置いて。
 しかめっ面をして。
 たまにアイリッシュウィスキーを呑むことがあったが、ほとんどシングルモルトだ。
 ただ黙って。

 どこで呑んだか知らないが、僕達より呑んでいる。
 シングルモルトが好きなお客は多い。
 ひところシングルモルトウィスキーがはやった。
 その頃は、スタンダードなシングルモルトウィスキーが多かったが、最近はボトラーズ物やビンテージ物が出回っている。
 うちの店ではボトラーズ物やビンテージ物をおいても、なかなか出ないのでスタンダードのシングルモルトしか置かない。

 店に来だして間もない頃は、だいたい一ヶ月に二、三度やって来るかどうかだ。
 行きつけのバーはきっとここだけではなかったのだろう。福岡には中洲、大名とあちこちにバーがある。
 時折、彼は他のバーの話をしてくれる。
 このバーにはこんなバーテンダーがいるとか、こんな酒がおいてあるなんて話をしてくれる。
 しかし、何故そんなにバーを回っているのだろう。
 最初は、酒が好きなのかバーテンダーと話すのがすきなのかと思った。


 しばらくすると、毎週来るようになり、そして一週間に二回、三回となった。
 そしていつのまにか、僕達に話かけてくる回数も増えてきた。
 ウィスキーのことだけでなく、自分の趣味やスポーツのこと。
 様々だ。

 もう他のバーへは行かなくなったのか、ほとんど毎日のようにうちにやってくる。
 今じゃ気さくに話ができる。
 バーの忘年会や夏のバーベキューにも来てくれる。
 ここ二、三年はシングルモルトウィスキー以外の酒も呑む。
 自分で気に入ったものを呑む。ウォッカ、テキーラ、ジン。スピリッツでもお構い無しだ。
 ウィスキーは早いときは一週間でボトル一本。
 平均すると十日で一本ペースだ。スピリッツは、一日四~五杯。
 もちろんシングルモルトも呑んでいる。
 ビールだって呑む。
 ビールはグラスになんかに注がない。びんから直接だ。
 スピリッツもウィスキー同様オールドファッショングラスでストレートで呑んでいる。
 彼はこのスタイルを絶対に変えようとしない。何かこだわりがあるのか。
 スピリッツやリキュールは直接のみにくい、というより無味無臭のものが多いので、何かで割ったり、カクテルにしたりするのが普通なんのに。
 僕らが「なんにしましょうか」と尋ねると、ウィスキー、ビール、ウォッカの銘柄を指定してくる。その日の気分で決めてるようだ。

 彼は他の常連さんと仲良く話し、酒を汲み交わすことがある。また、初めて会ったお客さんとも仲良く話をしている。
 会話のジャンルは広く。何でも聞きこなす。しかし、ただひつだけしないものがる。商売の話だ。
 商売の話。
 商売の話とは、話し相手に物を売ったり買ったりと言うことだ。これは絶対にしない。
 こういった場で、すぐ商売の話のなるお客もいる。それが悪いとは言えないが、なんか、親しみがなくなる。
 馬鹿な話ばかりして、何かを忘れるように話す。
 僕達もいつの間にか彼の馬鹿な話にもついていけるようになった。

 もうひとつ変わったことがある。女性同伴では絶対こないことだ。
 本人は「もてないから」とか言ってる。そこのところはコメントできない。
 大体バーは食事が終わったとできたり、食事の前やいまからのみに繰り出すぞっと言う方が多い。
 しかし、彼は何も食べてこないし、呑んで家に帰っても食事をしないそうだ。
 聞くところによると、呑むか食べるかどちらか一方しかできない。
 会社の宴会で鍋やすき焼きのときはご飯がほしいそうだ。
 アレだけ強い酒を、あの速さで呑むのに。変な人だ。
 きっと女性といても食事をせずにいきないバーだから誰も付いてこないのだろう。

 しかし、彼が絶対に頼まない酒がある。なんとそれはカクテルだ。自ら頼んだところなど見たことない。
 彼に何故カクテルを頼まないのか聞いたところ。
 以前どこかのバーでカクテルを呑んだときに甘く、後味が口の中に妙に残ったそうだ。第一印象が悪かったようだ。
 しかし、ほんとにそうなのだろうか。
 僕らはたまにコンペ用のカクテルを呑んでもらって評価を伺うが、「この匂いが好き」とか「うまい」とかしか言わない。
 あまり、カクテルに関する知識は薄いようだ。

 いつも独りでやってきて、その日の気分で好きなものを注文して、他のお客さんや僕らスタッフと楽しく話して帰っていく。
 もしかすると彼はカクテルは呑まないが、人と話すことで自分でカクテルを作っているのかもしれない。
 今日作ったカクテルの味を楽しんで帰っているのかもしれない。
 その日の気分で頼んだアルコールをベースに、誰かをリキュールにしたり、ベルモットにしたり、時にはスタッフの女の子をフレッシュフルーツに見立てたり。
 楽しい話は赤く、明るい色で。はたまたしっとりとした話は青くしっとりとした色で。
 話の内容が盛り上がればシェイクして、しんみりすればステアかもしれない。
 例えばだいくつか考えてみると。

 二十時くらいに来たとしよう。
 この時間に来る時は、彼はお客さんのところで一仕事終わってくる。
 また、その時間には、フロアにレセプターとして女性が一人入る。
 入ってきていきなりレセプターの女性と話すときは、ビールは呑まない。
 何故かって、客先での鬱憤を晴らすかのように、いきなりアルコール度数が強いスピリッツかウィスキーでテンションをあげようとするからだ。
 ベースはスピリッツかウォッカに決まった。しかし、今からどんなリキュールやジュースを入れていくかは決め手いない。
 周りに彼が知っているお客さんがいなかったとしよう。
 そんなときは、スポーツの話題だ。野球だったり、サッカーだったりモータースポーツだったり。
 例えば、ナイターをやってれば、「何対何でホークスが勝ってたよ。斉藤が投げてる」なんて話題で始まり、選手個人の話に始まりメジャーリーグへと話は移っていく。
 旬な話題も大好きで、ワールドカップやオリンピック、WBCだって入ってる。
 そんなフレッシュな話題をグレープフルーツのようなフレッシュジュースと見た立てて使うと 「ソルティドッグ」だ。
 じゃスノースタイルの塩はどうするかって。バーに入って来たとき彼が最初に話しかけたレセプタントの女性はいつも白いブラウスを着ている。その白いブラウスでスノースタイルを作る。
 今日のポイントはレセプタントの女性。だからその日は、彼女を茶化して呑んでいる。

 また、別の日はというと。
 早い時間にやってきた。そんな時は、店の中には他のお客がいない。
 僕らはロック用の氷を作ったりしている。彼はビールを頼むことがある。
 その時は疲れているときだ。早い時間に会社を出てきてバーにやってくる。
 精神的な疲れがほとんどのようだ。
 時折、ため息が出るがそれを吹き飛ばすかのように、僕らに話しかけてくる。
 最近、僕らに起きたことを聞いてくる。たわいのない話しなのだが、一生懸命聞いてくれる。
 彼はビールを一本呑んで、二本呑んで。なんとか爽やかな笑顔を取り戻す。
 なぜか今日は顔が赤い。
 赤いカクテルの「レッドアイ」だ。
 カクテルを赤くしたのは彼なのか、それとも僕らの話なのか。
 俺の話をトマトジュースにしてほしいものだ。

 忘れてならないのがウィスキーを呑むときだ。行ったようにシングルモルトが中心だ。
 よく一緒に呑まれる常連さんがいる。その型もシングルモルトの愛飲家だ。
 音楽や読書などの趣味が合い。年齢も非常に近い。
 さしずめ、スコッチウィスキーをベースにしたリキュールのドランブイはあたりか。
 お互いにペースをあわせてしゃべっている。まるでロックグラスでやさしくステアするかのように。
 それが「ラスティ・ネール」なるカクテルだ。

 こんな風にして、彼は楽しくカクテルを作っているのかもしれない。

 ふと思ったが。
 彼がバー周りをしていたのは、呑んだことがない珍しいウィスキーや、すばらしいバーテンダーを探していたのではないのかもしれない。
 きっと自分だけのカクテルを作るために、ベースとなるスピリッツやウィスキーとリキュール、ベルモットフルーツジュースとなるものを探していたのだ。
 それは、そのバーのスタッフとお客さんで作るものすべてなんだ。

 しかし、まだ呑んでいないカクテルだってあるはずだ。
 何がある。彼が呑んでいないもの。
 あっ!シャンパン。
 シャンパンは呑んでいるところを見たことがない。
 シャンパンで作るカクテル。
 シャンパンのように、透明ですっきりとした女性だ。
 クレームドカシスを使って、淡い赤い雰囲気を出すような話ができれば、キールロワイヤルだ。
 しかし、女性と来たことなんてないし来ることもないだろう。

 「いらっしゃいませ」
 そんなこと言ってたら、やってきた。今日はどんなカク・・・
 女性と一緒だ。それも美人ですらりとした体つきは、まるでフルートグラスのような。
 「シャンパンね」
 「えっつ!キールロワイヤルですか。」
 「いや。シャンパンだよ」

 カクテル 終わり





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Last updated  2008.01.05 11:11:11
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