MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「見果てぬ夢」NO.4(8,9)



ここ をクリックすると、

作詩作曲した「争い」という歌が聴けます。



「見果てぬ夢」8

「君の調子はどうだね?

君は身をもって新薬を実験してるんだよ。」

「はい。とてもいいです。

なんだか体が軽くなって、今にも飛べそうです。」

「分かったよ。今すぐにでも

研究室に飛んで行こうっていうんだな。

薬は持ってるから、君の研究室に行こう。」

早速二人は病室を出て、ベスの研究室に向かった。

サムは自宅にある研究室にしては、

設備が整ってるのに驚いた。

ベスの全財産がこの研究室につぎ込まれていた。

ジョンも退職金まで前借りして、協力していたのだ。

 サムは二人のこの研究に賭ける

意気込みを目の当りにし、圧倒された。

彼自身も医師を続けながら、

大学病院で研究を続ける科学者だったから。

昔はジョンと同様に科学研究所で働いていたが、

自由の利かない研究所を辞めて、

比較的、許容範囲の広い大学病院に移った。

だが、そこで見たものは、

衰えていく人間の姿だった。

患者の人間ばかりでなく、

医師までも治癒力はおろか、免疫までも失い、

患者から、病気を移される始末だ。

ここでも、ロボットが幅を利かせ、

人間の医師など、隅に追いやられていた。

サムは残り少ない人間の医師だったが、

やはり定年間際という事もあり、閑職だったので、

自由は有り余るほどあった。

ただ時間が無かった。彼の研究は、

人間本来の持つ生命力を取り戻す事だった。

ロボットには無い免疫、自然治癒力などを

回復させようと研究を続け、

新薬を発見したのだった。

 だが、機密を侵し、ドームの外から

手に入れたものだった。

彼もまた、ジョンとギルバートと一緒に

機密の町で働いていたのだ。

そこで手に入れたドーム外の土を分析していると、

放射能で破壊されたはずの微生物が

ある種のものだけ、繁殖し続けてることに気付いた。

その微生物の細胞には、人間に無い酵素が含まれていた。

この酵素が細胞を活性化し、生命力をもたらすのだった。

凄まじいスピードで繁殖する微生物の中で

培養された酵素を抽出し、

凝縮したのがこの薬だ。サムは自分自身を

実験台にして、薬を試した。

その結果、人間の、しかも熟年の体とは

思えないほど、若さが蘇った。

自信を得たサム、他の実験台を求めていたが、

大学病院では認められず、

困っていたところ、ジョンに娘を実験台にと言われ、

渡りに舟と乗ったのだ。

ベスは植物人間になるほど、

体力が衰え、意識不明になっていたが、

新薬を投与し続けた成果が上がり、

目覚めたときには以前より体力が回復していた。

細胞自体が活性化し、

免疫、自然治癒力も向上した。

人間がロボットより優れているのは、

この点しかないのだ。



 ロボットは頑健だが、

一度壊れると回復機能を持たない。

直す能力があっても、

自分自身を直すことは許されない。

改造する恐れがあるからだ。

コンピューターの指示に従い、

工場に戻され、修理される。

時間がかかるとなると、

新しいロボットを配置した方が早いということで、

消滅させられる。

ロボットは故障すればスクラップになるという

恐怖心を植えつけられ、

人間にますます逆らえなくなる。

その効果も狙っているのだ。

だが、コンピューターの管理さえ、

ロボットに委ねてしまった今、

その効果もどこまで持つかは疑問である。

ローリー達の秘密結社はそこから崩そうとしていた。

コンピュータの支配、

それが即ち人間の支配だったから。

 そうとも知らず、ベスとサムは共同研究を始め、

人工細胞を活性化することに成功した。

人間の遺伝子が分裂し、

増殖活動を行うようになった。

人工細胞さえ完成すれば、

後はそれをベースにどんどん研究が進んでいく。

人口脳には最新のプログラムも組み込んだ。

ロボットに負けない体力、知力、

そして人間としての生命力と繁殖能力を

持つ人工人間を作りあげるために。

ベスたちの研究が進む一方、

ローリーの研究も少しずつ行われていた。

工業ロボットを使って、

ドームの外の物質を集めていたが、

その代償として、ロボットを大量に犠牲にした。

意志や感情を持たない工業ロボットとはいえ、

同じロボットを犠牲にすることは耐えがたかったが、

今にドームの外にお前達の楽園を

作ってやると、自分に言い聞かせていた。

それなのに、集めた物質の中に放射能を

完全に通さない物質は発見できなかった

業を煮やすローリーに、ユダの悪魔のささやき。

「お前の父、ギルバートを殺したのは、人間だ。

残留放射能の研究の為と言い含めて、

ドームの外へ実験台として、

放り出したのだ。狂い叫びながら、

死んでいったと聞いている。

それでもお前はまだ人間を

滅亡させる事を迷っているのか。

目的のためには手段を選んでいられない。

ロボットの世界を作るためには、

人間に滅んでもらわなければいけないのさ。」



「見果てぬ夢」9

 ローリーは迷った。密かにベスを愛し、

ジョンを尊敬していたのだ。



人間への愛と憎しみが葛藤した。

そこに追い討ちをかけるユダの言葉。

「ギルバートを殺したというのが、

実はお前も知ってるジョンだ。

研究の為にというのは口実で、

自分より優秀な科学者である

ロボットが許せなかったんだ。

その証拠に、ジョンはギルバートを解体し、

分析したにもかかわらず、

調査結果さえも報告していない。

もちろん研究発表など言うまでもない。

これでも、お前は人間をまだかばうのか? 

父を殺した人間を。」

 ローリーは言葉を失った。

『あのジョンが父を殺したなんて。

信じたくないが、人間ならやりかねないかも。

父の友人だと信じていたからこそ、尊敬していたのに。

愛するベスも、そんなジョンの娘なんだ。』

愛と尊敬が憎しみに変わり、

人間全体への復讐に変貌していくのだった。



 ユダはローリーに考える隙を与えず、

ささやき続ける。

「人間を滅亡させるには、

ロボットを操作することが必要だ。

コンピューターで操るのが一番手っ取り早い。」

 ローリーはユダに任せた。

ユダは早速、秘密結社の陰謀を実行し始めた。

コンピューターを操るロボット達を

仲間に引き入れ、操作を委ねさせた。

そして、ロボット消滅のプログラムを

カットした。消滅の恐怖さえなければ、

何も怖れる事はない。ロボットは自由の身となった。

ユダ達はコンピューターを操り、ロボットを扇動した。

たちまち反逆がおき、人間は逃げ惑い、殺されていった。

ロボットは嬉々として、人間を虐殺した。

今までの支配から逃れ、

解放された自由を満喫するように。

立場が逆転し、ロボットは人間を

いたぶりながら殺していった。

人間など滅亡しても、ロボットには

何の不自由もないのだ。

ロボット達は、自分の意志、感情で

行動していると信じていた。

だが実はそれも、コンピューターによる

潜在意識の操作であった。

ローリーは疑問を感じ始める。

『自分の意志や感情で動ける

ロボットを望んでいたのに、

一部のロボットに操られるロボットでは、

人間が一部のロボットに

置き換わったに過ぎないじゃないか。

これじゃ、ファシズムだ。』

歴史も研究し、戦争の裏側を知り尽くす彼には、

心を扇動し、操る事は、

昔から戦争を行うためにとられてきた

手段だと言う事が分かっている。

必要悪だと思いながらも、

自分を納得させることが出来かねていた。

 そんな時だった。戦争に疲れ、後はユダに任せ、

逃げるように没頭していた研究に

一筋の光が差し込んだのだ。

ドーム外から物質を運び、

倒れこむロボットを助け起こした。

最後の力を振り絞った分析結果の報告。

「コノブッシツハ ホウシャノウヲ トオサナイ・・・」

ローリーは耳を疑った。今まであれほど

集めた中に発見されなったものが、

今頃になって発見されるとは。

もう一度聞き直そうにも、既に壊れていた。




たとえ、今それが存在する事が分かっても、

時は遅く人間は滅亡寸前だった。

ローリーは自分を取り戻すと、

物質を分析し、放射能実験も行った。

結果はロボットの言うとおり、

放射能を完全に通さない。

発見場所はドームの外、

海の果て、廃墟の跡。

ロボットからアウトプットされた報告書には、

そう書いてあるだけだった。

『昔、人間が研究し、残したものなのか。

優秀なロボットの自分が、

これほど研究しても、発見できなかったものが、

人間の手で既に発見されていたとは。』

ローリーには、とても信じられなかった。

物質以上に、人間がそんな能力を

持っていたことに驚いていた。

このような力を持ちながら、

なぜ人間はあれほど退化してしまったのか。

放射能によって、

一瞬にして、人間文明は滅んだ。

ロボットによって、残された一組の男女の赤ん坊が、

今の人間の祖先だ。

まるでノアの箱舟の再現のように。

その人間さえ、いくら放射能を通さない

ロボットに守られていたとはいえ、

微量の放射能を浴び、障害が残っている。

そして、ロボットに依存し、コンピューター支配に

自らを委ね続けてきた結果がこの様だ。

ロボットに滅ぼされるのを待つばかりで、

自滅したのも同然だった。

人間はロボットに殺されたのではなく、

自殺したのだと信じたかった。

そう思われなければ救われないのだ。

ローリーは唯一良心を持つロボットだった。

コンピューターの指示が無ければ善悪の行動基準が

持てない他のロボットとは違い、

父ギルバートの手によって、

罪の意識まで持たされていたのだ。

だが、その父も人間、しかも尊敬していたジョンに

殺されたと信じるローリーは、

父の復讐と思い、自分を納得させていた。

殺されたからこそ殺すんだと。

 それでも、まだその物質を研究し、成分を調べ続けた。

ドームの中には存在しない元素が含まれている。

危険を冒してまでドームの外に

取りに行こうとするローリーを止めるユダ。

ローリーに取って代わり、実質的にはロボットを

コンピューターで支配していたが、

信望の厚いローリーを死なせるわけにはいかなかった。

あくまでも、ユダはローリーの代理として、

采配を委ねられているという名目なのだ。

物質の採取は工業ロボットに任せ、

最後の陣頭指揮をとって欲しいという。

人間はほとんど滅び、後は科学研究所と大学病院を

明け渡すように通告していたが、

人間も最後の砦と死守していた。

ロボットも研究成果の保存の為、

むやみに攻撃するわけにもいかなかった。

人間にも信頼されているローリーに

説得させようとしたのだ。

皮肉にも、科学研究所には所長とジョン、

大学病院には、サムとベスが残っていた。

ローリーはジョンとの対決を決意した。

父の死の真実が知りたかったのだ。

「父を殺したのはジョン、あなたなのですか?

僕は信じたくないが、状況証拠は揃っている。

本当のことを教えてほしい。」

「ローリー、信じて貰えないかもしれないが、

ギルバートは自ら実験台として、ドームの外に出たのだ。

研究の為に身を捧げ、私に後を託していった。」

「それならばなぜ、

あなたはその研究を発表しなかったのですか?

父の死を無駄にするのか。

それに父が実験台にならなければならなかった理由でも?」

「私にはギルバートの秘密を守る義務がある。

たとえ息子の君にさえも。」

「僕には知る権利があるはずだ。教えてください。

どんな事を聞いても驚きません。

あなたの言葉を信じます。

今まで尊敬してきたのですから。」

「ありがとう。そうまで言われて黙ってる訳にもいくまい。

ローリー、落ち着いて聞いて欲しい。

君の父、ギルバートは長年にわたる放射能の研究で、

微量の放射能を浴び続け、

プログラムが少しずつ狂い出していったのだ。

君を作るために、自分のプログラムを分析し、

発見してしまった。

普通は自覚症状など無いから、他のロボットなら、

気づく事はなかっただろう。

だが、彼は知ってしまい、徐々に狂ってていく

自分に耐えられなかった。

ロボットの中でもとりわけ優秀な科学者だっただけに、

誇り高かったのだ。

わたしなど、足元にも及ばないほど研究熱心でもあったから。」

「嘘だ! 父が狂っていたなんて信じられない。

あまりにも優秀すぎて、

狂人の烙印を押されたのではないですか?

あなたを含めて。」

ローリーは、ギラギラとした眼で、ジョンを睨みつけた。

「それは違う。他の人間はもちろん、

いつもそばにいた私でさえ、

狂っているなどということは微塵も感じられなかった。

彼自身も自覚症状はなかったのではないかと思うほどだ。

優秀すぎて、自分の狂いに気付いてしまった・・・」

「そんな馬鹿な。僕を作ってくれた父が狂っていたなんて。

それでは僕も狂っているということですか? 

父のプログラムを改良したのだから。」

「それは無いと思うよ。彼は自分の狂いに気付くほどだ。

だがそれを直す事は許されなかった。

その代わり、君のプログラムは万全にしたはず。」

「自分の代わりに僕を作ったという事ですか?

単なる身代わりですか?」

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