MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「十三夜の面影」26








無理にかぐや姫のものを処分することはないよな。

たとえものがなくたって、忘れられるわけがないんだから。

このお弁当だって、無理して全部食べる必要はないのかな。

なんて思ってるうちに、彼女も頑張ってたいらげてしまった。

「お腹一杯。もう歩けない。」

僕にもたれかかってきた。

「しょうがないなあ。山頂まで行くんだろう。」

「だって、お腹が重いんだもの。」

「そんなに一杯食べなくてもいいのに。」

急に黙り込んでしまう。

僕と同じ思いなのだろうか。

「もう少し休憩してから行くかい?」

「いいよ。腹ごなしに歩くから。

その代わり、引っ張ってね。」

「重くて引っ張れないよ。」

「ひどい」

唇を尖らせると小鳥みたいだ。

「じゃあ行くよ。」

手を差し伸べると、

すがるようにつかまってくる。

切なくなるけど、懸命にこらえて立ち上がらせた。

最後までもつかな・・・。

手を繋いだまま、先に歩き出す。

「そんなに引っ張らないで。痛いよ。」

「引っ張ってと言ったくせに。」

後ろを振り返らずに言う。

「もう少し優しくして。」

哀しげな声出すなよ。

こっちまで哀しくなるじゃないか・・・。

「ごめん。」

歩調をゆっくりにした。

二人で黙々と歩く。

段々日が傾いてきた。

林が切れたところから、

ふもとの湖が見える。

夕焼けが映って、紫色になっている。

幻想的な眺めだなと

見入ってしまった。

彼女もじっと見つめている。

でもその目はもっと遠くを見ているようだ。

僕は目に入らないのだろうか。

目が潤んでいるように見えたのに、

急にこっちを見ると

「早く行こう。」

と手をつかんで歩き出す。

いつの間にか手が離れていたんだな。

それさえ気がつかないなんて。

今度は彼女に引きずられるように、

山頂へ向かった。

そこに行くと月の使者が来てるような気がして、

足取りが重くなる。

まだ月も出てないのにそんなわけないよな。

自分にそう言い聞かせながら、足を進める。

やっと着いた時は、もう暗くなっていた。

うっすら月も出てきた。

やはり満月だ。

昨日とどこが違うのかと思うが、

微妙に違うんだろうな。

たったそれだけで帰ってしまうとは。

彼女を探すと、展望台のベンチに座って、

ぼんやり月を見上げてる。

「十五夜のお月見をしたら、

十三夜にも同じ場所でお月見しないといけないのよ。」

つぶやくように言っている。

「ここでまた十三夜の月見をしないといけないのか?」

片見月 と言って、

両方見ないと不吉なんですって。」

「脅かさないでくれよ。」

笑おうと思ったけど、頬が引きつってしまった。

一人でまたここまで月見しに来るなんて、

勘弁して欲しいよ。

二人だって大変なのに、

一人なんて淋しくてやってられない・・・。

「無理して来なくていいのよ。」

ぼそっと独り言のようだ。

「分からないよ。そのときになってみなきゃ。」

これが本音だ。

「そうよね。」

なんか他人事のように浮け流す。

ベンチの背もたれに体を預けたまま、

身動きひとつしない。

揺り動かしたいような気がしてくる。

このまま月に連れて行かれるのは嫌だ。

「十三夜の月見に来るよ。」

うつろな目が僕を見据える。

「本当?」

正気を取り戻した目だ。

その目から涙が零れ落ちた。

思わず抱きしめてしまう。

「必ず来るよ。」

「きっとね。約束よ。」

僕まで涙が溢れてしまっていた。

続き

























































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