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童話「ベラのペンダント」20
ベラはユリウスと話して少し気が楽になったとはいえ、
やはりまだ不安が残っていた。
母になんと伝えようか、そればかり考えていた。
父と逢うのは危険だと言って諦めさせた方がいいのか。
そして父である王にも・・・
王妃に殺されたと思っていた母が生きていたこと、
そして殺されかけて記憶喪失になってしまっていたことも。
伝えれば、母に会いたいと言うだろうか。
そうなったら、また母を危険な目に遭わせるかもしれない。
私はそれを望んでいるのか?・・・
考えが堂々巡りになってしまう。
要は二人が逢いたいと思うかどうかだ。私が判断することではない・・・
ともかく言うだけ言ってみよう。言わずに私が抱え込んで悶々とすることはないのだ。
母には一応言ったのだから、今度は父に伝えよう。
妹ロザリーの学友として宮殿に上がった時、父に会えたらいいのだが。
そう思いながらしばらく経ったが、ようやくその時が来た。
父はロザリーにかこつけて、私に会いに来てくれたのだ。
「王様、ロザリー王女のことでご相談があるのですが、お時間をいただけますか?」と言って、
奥の間に二人で入った。
「実は、殺されたと思っていた母が生きていたのです。
でも、崖から落ちて記憶喪失になってしまっているのですが。」とベラは思い切って言った。
「なんだって、ライザが生きてるのか? 良かった。
でも記憶喪失とは可哀想に。私に会っても分からないのだろうか。」
王はそう言うなり考え込んでしまった。
「母は私のこともあまり覚えていません。夢に出てきた娘が私なのではと思ってるようですが。」
言いながらも哀しくなってきてしまう。
「そうか。それでは私のことも覚えていないのだろうなあ。」
淋しげに遠くを見つめる王。
「でも、もしかして会えば思い出すかもしれません。
なぜか、密会していた秘密の裏庭は覚えていたようなのです。」
「そうなのか。ならそこで会えばもっと思い出しやすいかもしれないな。
早速ライザに伝えてくれないか。ぜひ裏庭で会いたいと。」王は喜び勇んで言った。
「それはいい考えですが、危険ではありませんか?
また母が王妃に命を狙われるかもしれません。」
「私がそんなことはさせない。ライザのことは私が守るから心配するな。
もちろん、ベラのこともだ。」と自信ありげな王。
「ありがとうございます。それでは母に伝えますね。」
そう言いながらもベラは不安が消えなかった。
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童話「ベラのペンダント」21
ベラは、母ライザに父の王の言葉を伝えた。
「昔逢っていた秘密の裏庭で逢いたい」と。
不安を覚えながらも伝えてからは自分の手を離れたように感じた。
「本当に王様がそう言ったの?」と母は顔を赤らめた。
王のことは覚えてるのだろうか。娘の私のことは忘れたのに・・・
「王様のことは分かるの?」
つい言ってしまった・・・
「あまりよく覚えてはいないのだけど、
夢で見た秘密の裏庭の人影が王様だと思うわ。」
「私のことは?」思わず聞いてしまう。
「ベラのことも夢に見たの。だから娘が居るんじゃないかと思ったのよ。」
母は悪びれずに言う。少しは済まなそうにしてよ・・・
「そうなの。お母さんの夢は正夢なのね。」
「そうかもしれないわ。だからこうして会えたのよね。」と明るく笑う。
私は嫌味を言ったつもりだが、母には通じないらしい。
そんな自分が嫌になってしまう。
「ともかく明日、秘密の裏庭に一緒に行きましょう。
王様が待ってるから。」
「嬉しいわ。何を着て行けばいいかしら?」とうきうきしてる母。
それをなぜか他人事のように見てしまう・・・
自分の両親とはいえ、長く離れていたせいか、あまり実感が湧かない。
というか、自分だけ二人から取り残されたような気さえしてしまう。
せっかく会えた父と母なのにね。
なんでこんなに喜べないんだろう。
母が王妃にまた命を狙われるのではないかと心配してたけど、
それも自分が願ってることかもしれないとさえ思ってしまうほど。
自分で自分を信じられないし、好きになれないのだ。
これが両親から愛されずに成長した結果なのかな。
自分のせいではない、この2人のせいではないか。
両親を恨みたくないけど、そう感じてしまう自分も否定できない。
黙って考え込んでしまった私をいぶかしげに見る母。
「ベラ、どうかしたの? 大丈夫?」
顔を覗き込む母を突き放すように
「なんでもないわ。ちょっと心配になっただけ。」とだけ言った。
「そう。確かに心配だけど、なんとかなるでしょう。」
なんでそんなに楽天的なの?
王様もそうだし、私だけ心配してバカみたい。
まあ、何かあったとしても、それはこの2人の自業自得なのだから仕方ない。
私も開き直ってしまった。
そう思ったら、少しは気が楽になってきた。
心配してもキリがないしね。
また、王様に母の言葉を伝えなきゃ。
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