歌
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「さくらのうた」作詩 回覧板さん
春になると
夢に出てくる
ひとがいる
明け方に
そっと手をさし出して
僕の腕に触れてくる。
しあわせになりたいわって
ささやくように
そっと体を寄せて、
つないだ手をかすかに
握り返してくる。
すでに別れてしまったひとには
違いないのだけれど
誰の手なのかわからないでいる。
くらがりのなかで、
「きみはだれなの?」って
聞くんだけれど
ただただ
体を寄せては
かすかに、手を握り返してくるだけだ。
春になると
必ず
その夢をみて
明け方
一人で
起きてしまう。
まだ
あたたかさは
残っていて
だいたい
誰なのかは
察しがつく
お弁当を食べさせてくれて
ねぇ、しあわせになろうねって
言ったのに
雨の日に
傘のなかで喧嘩して、
逃げていこうとするから
とっさに手を握ったのに、
するりと抜けて
そのまま走り去ってしまった
そのひとの手だと思う
けれど
夢だから
確証はない。
ねぇ
いまどこで生きているの?
しあわせに
なろうねって
あの日、さくらの川辺を
一緒に腕を組みながら
歩いたよね
きみのむねのふくらみが
ぼくには
まぶしかった
その時に
つないだ手
だと思う
けれど
わからず終いで
やはり、朦朧と一人で起きてしまう。
ただ、あたたかさだけが
指の先に
残っていて
夢だからって
思う
けれど
あの日
さくらの川辺を、一緒に歩いて
僕の眼を見上げながら
ねぇ、しあわせになろうねって
ほほえんで
僕の手を
ふくよかな
むねに
そっと置いてくれた、
その
きみの
ほそい指に
違いないと
信じていたい