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■上橋菜穂子:獣の奏者(全4巻+外伝、講談社文庫)
◎第1巻から圧倒された
「国際アンデルセン賞」の選評では、文化人類学者としての視点で名誉と義務、運命と犠牲が描かれている点をあげられています。選評を紹介させていただきます。
――彼女のファンタジー世界は中世の日本に大枠で基づいているが、彼女が独自に創りあげたものである。しかも、それはただその土地や神話的な景観を創りあげるものではなく、その世界の階級制度への問いかけや、精神性や道徳的視点の相互関係をも含めた世界である。(『IN POCKET』(2014年4月号より)
――彼女には、他者とは異なるファンタジー世界を構築する並外れた力がある。そして彼女の作品は、自然や生物に対する優しさと、深い尊敬の念に満ちている。(『IN POCKET』(2014年4月号より)
上橋菜穂子は若いころに、トールキン『指輪物語』(補:全7冊、評論社)を読んで、「人間は何て面白いことを考える生き物なのか」(「朝日新聞」2014.9.27)と衝撃を受けたと語っています。
うかつでした。上橋菜穂子は、ノーマークの作家でした。あわてて上橋菜穂子『獣の奏者』(全4巻+外伝、講談社文庫)を買い求めました。そして第1巻『獣の奏者1闘蛇編』を読んで、圧倒されました。幼いころにわくわくして、冒険小説を読んでいたことを思い出しました。還暦をすぎてからは、ページをくくるたびに五感をふるわせたことはありませんでした。
主人公は緑の瞳をもった、少女エリンです。彼女は母親ソヨンとともに、闘蛇衆たちが暮らすリョザ神王国の村に住んでいます。闘蛇とは戦に駆り出される戦闘獣として、国から委託をうけて飼育されている巨大な蛇のことです。エリンの母親は「獣ノ医術師」の資格をもつ、腕のよい闘蛇衆です。
エリンの母ソヨンも、緑の瞳をもっています。彼女は〈霧の民〉という一族の出身ですが、闘蛇村の男と愛しあい生まれた土地を離れました。
ある日、飼育していたすべての〈牙〉(最強の闘蛇)が全滅しています。〈牙〉の飼育責任者だったエリンの母ソヨンは、全責任を負わされることになります。ソヨンは別の闘蛇の〈イケ〉に投げこまれます。幼いエリンは母を救出するために〈イケ〉に飛びこみます。2人のもとに闘蛇がせまってきます。
母ソヨンは指笛を吹いて、闘蛇の動きを制圧します。母ソヨンはエリンを1頭の闘蛇の背に乗せ、自らは闘蛇の餌食となります。闘蛇の背に乗ったエリンは、蜂飼いのジョウンに助けられます。
天涯孤独となったエリンは、やがて自然のなかに生息している王獣の生態に出会います。エリンは母と同じく獣ノ医術師になることを決意します。ジョウンはエリンを、昔なじみのエサルが教導師長をしている、カザルム王獣保護場の学舎へいれます。
◎王獣リランと竪琴
――物語がひらめく時は必ず、ひとつの光景が胸の中に生まれるのだと上橋菜穂子は言う。『獣の奏者』の場合、それは養蜂の本を読んでいる時に起こった。/断崖絶壁の上に立つひとりの女性が竪琴を奏でている。その向こうに翼を広げた大きな獣が見えた。それは物語という大河の最初の一滴だ。決して人に馴れぬ孤高の獣は永遠の他者だ。わかりえぬものをそれでもわかろうとする少女エリンの物語が、こうして生まれた。(『IN POCKET』(2013年10月号より)
『獣の奏者2王獣編』は、エリンが学舎で傷ついた王獣の子・リランと出会う場面から幕があきます。エリンは献身的にリランの世話をします。エリンは竪琴をつかって、リランと簡単な会話ができるようにまでなります。
そんなとき母ソヨンの一族である、「霧の民」から警告をうけます。「王獣を操ると、大きな〈災い〉を招く」といわれるのです。王獣を馴らしてしまったエリンは、やがて王国の命運をにぎる存在となってゆきます。
闘蛇の背に乗った戦士たちが、「真王」を暗殺するために押しよせてきます。真王の護衛士・イアルたちは必死に防戦しますが、なすすべもありません。そんな危機を救ったのは、王獣の背にまたがったエリンでした。やがてエリンは真王の護衛士・イアルに魅せられてゆきます。
『獣の奏者』は、ここまでで完結する予定でした。ところが本書がアニメ化されるのを手伝いながら、構想がふくらみはじめたのです。『獣の奏者3探究編』では、エリンは愛する人と結婚しています。こどももいます。これ以降については、ふれません。ただし第1巻、第2巻で不明瞭だった部分の謎が解けはじめます。
おそらく多くの読者は、夢中になって『獣の奏者4完結編』『獣の奏者・外伝』へと読み進むことになるでしょう。「国際アンデルセン賞」のニュースがなければ、おそらく上橋菜穂子の著作にはふれていなかったと思います。出会いに感謝。
(山本藤光:2015.01.18)
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