PR
カテゴリ
キーワードサーチ
コメント新着
サイド自由欄
――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里 09
恭二と詩織は、塘路のベカンベ祭りに行っている。塘路の再開発は、昨年ほぼ完結した。それを機会に、ベカンベ祭りも再開されたのである。
「うわー、すっかり変わったわね。恭二、すごい人出だよ」
車を駐車場に入れながら、詩織は驚いたようにいった。日曜日とあって親子連れが目立ったが、外国人の姿もたくさんあった。
「外国人のお目当ては、忍者屋敷だよ」
恭二は背中に重い荷物を背負った、外国人を見ながらいった。
塘路湖にはベカンベと呼ばれる、菱の実が生息している。これは食料としても美味であるが、乾燥させると忍者が追っ手の足を止める小道具となっていた。忍者屋敷はそんなイメージから、建設された。
「恭二、どんそく号だよ。乗ろう」
赤いトラクターが、幌屋根つきの車両に連結されている。二人はそれに乗りこむ。車内は、すし詰め状態だった。車両の中央には大型スクリーンがあり、塘路湖の水中の様子が、映し出されていた。
どんそく号は気づかないほど、ゆっくりと動き出した。肌にあたる風が、心地よかった。
「こののんびり感が、何ともいえないわ」
詩織は髪を片手で押さえながら、大きな深呼吸をしている。
大きな観覧車が見える。頂上まで上がると、釧路湿原が一望できる。恭二は試運転の時に乗ったが、いつも大行列ができているとの報告を受けている。
「恭二、観覧車に乗りたい」
「今日は時間がないからダメ。この次の機会に回そう」
ベカンベ祭りが始まった。アイヌの衣装を着た男女が小舟を操り、湖の中央まで進んだ。岸辺ではアイヌ衣装の八人が踊っている。船上の二人は、長い棹を湖に差し入れた。そしてそれを引き上げると、水草がからみついてきた。二人は祈るようにそれを頭上に掲げ、小舟を岸へと戻し始める。
岸辺には、幾重もの人垣ができていた。風に乗って、ベカンベをゆでる甘い香りが運ばれてきた。
岸辺の八人は水草のついた棹を頭上に掲げ、再び舞を継続した。ずっと封印されていた、厳かな儀式が復活した。
短い時間だったが、ベカンベの収穫を祝うアイヌの祭りに、恭二は心が洗われるような気がした。二人は生のベカンベを、一袋購入した。
町おこし328:可穂の新聞部 2018年03月12日
町おこし327:息子が先輩 2018年03月11日
町おこし326:雪合戦リーグ 2018年03月10日