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2005/06/18
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カテゴリ: カテゴリ未分類
海辺のカフカを読む

最初はストーリーを楽しんで一気に読みました。巻を擱く能わずという感じでした。つぎに、私も物書きの端くれですから、構成の技術を知ろうと思ってもう一度読み返しました。
これから読む方は筋を語ってしまいますからこれ以上読まないでください。読んだ方は私の解釈についてあとでコメントしてくだされば有難いです。

この小説のサブテーマは記憶の重たさ、残酷さですね。ある事件のトラウマにより記憶を喪失してしまったタナカという老人が出てきます。この老人と15歳の少年の主人公の母親との関係は明らかにされていませんが、おそらく失われた記憶の中にあったのでしょう。
主人公の母親である佐伯さんという人は記憶の重みで死に至る病のトラウマの中で、地方の図書館の館長として世を忍んで生きています。
佐伯さんがなぜ4歳の子供をおいて出て行ったかは、過去にあまりにも深く恋人を愛してしまったがゆえに、結婚した夫を愛すことができずに家を去ります。残された子供は15歳の少年に成長し、母と母が連れて行った姉を恨み、父からお前は母を犯し、姉を犯す運命にあると予言を受ける。まるでギリシア神話の世界です。
小説は、カフカという聡明な15歳の少年の主人公が家出をする描写から始まります。少年は母に捨てられたトラウマをひもどくために、運命に導かれるようにして母が勤めている高松の図書館に行き、そこで雇われます。もちろん母は少年の「あなたは僕のおかあさんかもしれない」という仮説を微笑み返して相手にしません。
少年が寝泊りしていた部屋は母がかつて愛していた恋人がいた部屋です。その恋人は20歳ちょっとで偶然の事件で殺されてしまった。母は悲しみのあまり歌手として売り出していた人生を中断してしばらく消えてしまい、故郷に帰ってきて図書館の司書となって静かに暮らすようになる。

少年は父を殺します。自分で殺すのではなく、自分の分身であるタナカという老人が代わって
殺す。母を苦しめたこの野心家の父を許せなかったのでしょう。
タナカというネコの言葉を解する老人は少年と母親のトラウマの解消役を負って登場します。彼はホシノというよくあるタイプの青年の助けを借りて、高松にやってきて、「入り口の石を開く」。こうして図書館にたどり着き、母親と会います。母親の手に自分の手を重ねて、そこから彼女の苦しかった過去の記憶をすいとってしまう。彼女は眠るように死ぬ。
同じころ、カフカという少年は罪の深さにたえかねて森の中に入り、死をえらぼうとする。森の中にいる二人の兵隊が入り口の石を現しています。少年は兵隊に導かれて幽界の中に導かれてゆく。そこで死んだ母に会う。子供を捨てた罪をそそぐために死んだ母親を少年は許す。母は死んだらいけない、生きていきなさいと命じ、少年は幽界を離れるが、母に別れるのが辛くて一時踏みとどまろうと迷う。入り口の石が閉じられたらもう幽界から出ることはできなくなります。
ちょうどこのころ、アパートで死んだタナカさんの口からニュルニュルとヘビのような怪物が出てきます。ネコの言葉がわかるようになったホシノ青年はこの怪物が出てくる前に入り口の石を閉じます。そして怪物をバラバラに切り刻んで殺してしまう。このニュルニュルの怪物は何かというと、タナカさんが母親から吸い取った記憶の固まり、トラウマの正体でしょう。そして少年はこの世にもどってくる。
とにかく源氏物語に出てくる生霊のアイデアを使ったり、タナカさんとかホシノ青年、ジョニー・ウオーカーだとかカーネル・サンダースとか滑稽で面白い脇役が出てきて、楽しませる一方、芸術的なカタルシスまで引き上げてくれる語り口に堪能しました。
古くから数々の物語のテーマになっているように、愛憎のトラウマを解消するのは並大抵のことではありません。それほどに重たい。村上さんはこの古くて新しいシリアスなテーマを詩のような美しさときわめて現在的なリアリティのある面白さで語ってくれました。





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Last updated  2005/06/18 10:22:42 PM


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