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うちの家伝薬飲んでおいた方が早く治ると言うのに、その咳止めを嬉しそうに飲んでいた。土曜日の晩から熱が出た。一日何度も計って、夕方37,6度になった。
「肺炎になるわ。救急センターへ行って来たら?」
「何処にあるのん?」
たしか、あの銀行の傍にあったと思うけどよくは知らない。市の広報誌や電話帳を繰ってみたが書いてない。消防署で聞こうかと電話の前へ行った途端、電話が鳴った。「はい」
「オカモトですけど、今電話した?」
「いいえ。何処へお掛けですか?」
「知らん。そっちから掛かってる」
怪しい奴だ。新手の詐欺か、留守を確認する泥棒か----
「携帯に、この電話が入ってるんや」
「何番と書いてます?」
「知らん」
なんや。えらそうな言い方……。
「そっちが掛けたんと違うんかいな」
不愉快そうに言ってガチャンと切ってしまった。
「ヘンなヤツ。そっちから電話掛けたやろ、言うて……」
「あ。おれや。お医者はんや。おれが掛けてんやないか。勝手に切るな」
ショータンがご信頼申し上げているドクターだったらしい。大のオトナが車で30分もあるところをわざわざ行って診察して貰ったのに、子供の咳止めだけ出して熱が出る予想もできない医者だ。そんなもん信用してたらほんとに肺炎になっておダブツよ。
「それにしても、えらそうにもの言うてたわ」
「そら、センセやもん」
センセったって、私のセンセやない。ものの言い方も知らんただのオッサンだ。
「岡元医院です」と言えば、うちに一人お医者さん好きの人間がいるからすぐに判るのに。
ショータンは2階へあがって、再度医者に電話した。降りて来て、「近くの薬局へ行って、熱さましの薬買うて来たらええ、て」
車だったら5分ぐらいの処に薬局があるが、私が歩いて行くと往復30分かかる。
「うちの薬飲んどき」
折角良い万能薬があるのに、大して効きもしない解熱剤なんか買いに行けるもんか。近道は、田んぼの中の暗い道だし。ショータンはおでこに手を当てて、「また熱あがってる」と言った。わが家伝薬をオブラートに包んで水と一緒に渡すと、仕方なく飲んだ。まあ、これですくなくとも今夜、肺炎にはならずに済む。