Gun's Free

作家紹介・大石英司先生



「原子力空母(カールヴィンソンを)を阻止せよ」1987年9月 中央公論 1992年9月15日 徳間文庫

 まずこの簡潔な命令口調のタイトルを見て「スタイリッシュでカコイイ!」と思うか「何のヒネリもないダサイ」と思うかが一つの別れ目かつセンスの差、だとおもー。
 美しさとは即ちムダがないコト、だと私はおもー。その究極が破壊と殺戮に特化した兵器が持つフォルム、F1等のスピードヴィークル、更に口幅ったく言えばワビ・サビってやつ??。
 で、私は「B-1爆撃機を追え」を見たときからおお!何てカコイイタイトルなんだろー!!とおもーつつ現在に至る派なのだな。まあ嗜好の問題なんだろーけど。
 で、大石先生の作品もそのタイトルが表すように非常にシンプルで美しい。膨らませれば幾らでもページを稼げるだろーけど、ホントマジで正に兵器の設計の如く物語の要求仕様を満たすべく最低限必要な言葉/プロットだけで構築されている。もちろん手抜きなどではない。先にも挙げたように膨らます方がずっとカンタンなのだ。これでも削りに削ってようやくまとめられているのは間違いない。
 シンプルで美しくかつ強靭、これが大石作品の特徴。娯楽として読めばサラリと読み流せるが少しでも問題意識を持って読むと、正直下手な論文以上に、現状分析、可能性、対処方法手段、等が盛り込まれていて驚く。国際政治業務に関わるヒト達はアナリストなんかに頼るより大石作品を読め、と思ってたら現在はホントに国会とかのオブザーバをされてるらすぃ。これでニッポンも安心だ。

 脱線が過ぎた。

 えーと中央公論版は例によって行方不明で今目の前にあるのは徳間文庫版なのだがそのオビには
 「米原子力空母にソ連原潜が激突。横須賀港が放射能の海と化す!?」
 まあそのまんま。あと発表年代から判るとおりまだソ連が健在なトキのおはなし設定、ね。
 んで本裏(ここって専門用語で何ていうの??)の粗筋
 「硫黄島沖で、アメリカ原子力空母「カール・ヴィンソン」に、急浮上(緊急浮上)をかけたソ連原潜「V・K・ブリュッヘル」が(艦底に)激突した。原潜は沈没、空母はメルトダウン(チャイナ・シンドロームってやつ)の危機を孕んで横須賀ドックへと向かった。日本政府は海上自衛隊の最新鋭潜水艦「わかつき」に、空母の寄港阻止命令を下す。(要するに撃沈命令。タイトルがこれですな。因みに現実の日本海自の可潜艦も演習の度に空母を沈めてるくらい優秀、らすぃ。何しろ見たコトないんでw。ついでにいうと当時は有事法案なんて口にしただけで辞職確定ってカンジだよねえ??)好機に乗じ空母撃沈を狙うソ連艦隊と米艦隊の攻防の陰、「わかつき」は静かに空母に近づきつつあった。海洋戦略サスペンス。」
 ここまで読んで興味が出たら本屋か、たぶん無いので図書館かブクオフへGO!。んで新刊以外で読んだヒトはちゃんと最新刊の「魚釣島奪還作戦」を買ってねん♪。関係者じゃないけど信者なのでこれは布教活動であるコトをここに明言しときます。

 粗筋を読んで判るようにホントの主役は「わかつき」とそれを駆る若月艦長、ライバルになる米原潜「ホノルル」”副長”のドーマー、ソ連原潜「ワシレフスキー」艦長ブハーリ達なのだがそれとは別に当時の”とれんでぃ”な市場需要に配慮して・・・流行に左右される「トレンド」って何だよ、ホントマスゴミってば白雉なだw。狂言回しつうか名目上のヒーロー・ヒロインも登場している。いや名目上の、というのは、まあ彼氏彼女も十分魅力的なキャラクターなのだがやっぱ知力胆力抜群のサブマリナー達に喰われるのは致し方なし^^;。

 プロローグでのっけから”ツカミはおっけー”。
 「解りました。友軍の”オリンピア”です。」「進路はどうか?」「本艦とのコリジョン(衝突)・コース!」「こんな海の銀座で原子炉なんぞ焚きやがって」「ブロー音探知!アップトリムを」「合戦用意!急速潜行!」「バカどもが。気付いてないぞ!」やがて頭上を「オリンピア」が何ひとつ気付くことなく通過してゆく。

 以下、ネタバレにならないくらいに本書のハイライトシーン。

 「衝突と爆発・・・・・・」「第一についてはノー。第二についてはパーフェクトにノー!」「我が忠勇なる海兵隊員どもよ」
 「これはその・・・ただの白煙かね? 円にしてニ兆円の代物です」「いいか、鎌倉の家はやらんからな!」
 「神わざという奴を見せてやろう。」「かつては世界でただひとつ潜水空母を実用化した国ですよ。」
 「連中は四十年この方、まるで闘っとらんのだぞ」「カオスというのをご存知ですか。」「これは安全論ではなく、哲学の問題だ!」
 「どのくらい近くにいるんだ?!」「そういう西側的ステロタイプな見方は」「駆逐艦同士の肉薄戦みたいですが」
 「原子力は、国策だったんですよ・・・」
 「まあ、最後は職人芸がものを言いますからね。」「引っ掛かっただろう?」
 「トップガンの腕を見せてやる!」「畜生!”シーホーク”は気付いてないぞ」「まだ沈んではならん!」
 「言うじゃないですか。戦史は愚行の葬列だと・・・」「畜生ッ!あいつは俺が 誰だよ?!」「もうガスがありません!」
 短い信号だった。即ち、

 もうとにかく全編見せ場満載のジェット・コースター小説。
 それが「原子力空母を阻止せよ」
 ソ連が崩壊した今、完全なファンタージと化した、よくある作者都合のヴァカも池波も皆無の、プロとプロが持てる全力を尽くし激突する完全無欠の娯楽小説としてお楽しみあれ!。

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