ポエムガーデン

童話 【唄う旅人】


その種は村にどんな実りをもたらすのでしょう。


童話 【唄う旅人】


昔々あるところに一人の旅人の青年がおりました。
陽気な歌を口ずさみながらところかまわず種を蒔くのがクセでした。
その日も旅人はとある村を訪れると得意な歌を口ずさみながら陽気に種を蒔きちらします。
「♪・・・」
初めて耳にするような不思議で陽気な歌声に、
畑仕事をしていた村人たちはいっせいに振り返るのでした。
そして仕事の手を休め、不思議なものを見るような眼差しでしばらく青年の行動を眺めていました。

どこかこっけいで微笑ましく見える青年の種を蒔く姿に村人たちは次第に穏やかな気持ちになってゆきました。
が、それは次第に不安な気持ちへと変わってゆくのでした。
というのも道を歩いていた旅人の足が少しずつ耕したばかりの畑へと進み始めたからです。
その畑の主は慌てます。せっかく耕した畑にわけのわからない種を蒔いてもらっては困るのだ。
村人はけっそうをかいて青年の元に駆け寄り強い口調で、
「お止めなさい!お止めなさい!」と
そう怒鳴るつもりで彼の前に立ちはだかります。が、どういうわけか彼の歌声が鮮明に耳に入ってきた途端、なぜかそのような怒りの言葉を失ってしまうのでした。
それどころか彼のしている行為がとても素晴らしいことのように思えてくるのでした。
更に旅人が別の畑へと移り、種を蒔き始めると同じようにその畑の主が駆け寄り怒鳴ろうと試みますが、やはり旅人の歌声を耳にすると怒鳴ることを止めてしまうのでした。
不思議な力を持った歌声♪・・・。
結局のところ村人たちは彼の種蒔きを眺めているしかなく、
旅人は畑という畑に種を蒔きちらすと陽気な歌と共にその村を立ち去って行きました。

村人たちは目を丸くして呆然と彼の後姿を見送ったあと瞬きと共に我にかえります。
「彼はただ者ではないぞ」村人の一人がそうつぶやきました。
「彼は不思議な力を持った神の遣いに違いない」別の一人がそう続けました。
旅人の歌声が耳に残っていた村人たちにはそれが真実でした。
更に別の村人が言いました。
「ここに蒔かれた種は素晴らしい実りをもたらすに違いない。きっと我々の日頃の真面目な行いを見ていた神が『少しはのんびりしなさい』と休ませるために遣いの者をよこして我々の代わりに種を蒔かせたのだろう」と。
そう素直に悟った村人たちはクワなどの道具を置き、その日から畑を眺めるだけの、の~んびりとした日々を送ることにしました。
いったいどんな素晴らしい実りを我々に見せてくれるのだろうとワクワク気分の村人たちでした。

さて、春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、そして再び春が来て村人たちはガッカリさせられました。
なんの実りも見ることができなかったのです。
あの旅人は単なる旅人に過ぎなかった?
おとぎ話のようなことは現実にはありえはしない?
ただ待っているだけでは何も得られない?
安易な夢を抱いた村人たちにはさまざまな教訓が待っていただけでした。
そんなおとぎ話から目を覚ました村人たちはすくっと立ち上がると再びクワを持ち、
以前の日常、畑仕事にせいを出す生活へ戻るしかありませんでした。

すっかり荒れ果てた畑。それまでの遅れを取り戻すには大変な労力を余儀なくされました。これまでにない過酷な作業の毎日。
ただでさえ辛い畑仕事に村人たちは次々とくじけてしまいます。
このままでは実りの時期には間に合いそうにない。食糧に困る生活は避けられそうにない。そんな重い空気が漂い始めていた中、一人の村人が以前、旅人が口ずさんでいた歌をまったく何の考えのないままポツリ、ポツリと口ずさみ始めました。
するとその歌声を耳にした村人たちはどういうわけかそれまでの疲れが軽くなったような気がしてきたのでした。
そのそばで畑と格闘していた者たちも歌を耳にしたとたんクワを持つ手が軽やかに感じられてくるのでした。
「♪・・・」
そんなわけでその歌はすべての村人たちの間で唄われるようになり、畑仕事もその歌と共に見る見るはかどってゆきました。

月日は流れ、やがて実りの季節を迎えると村人たちはすっかり充実感でいっぱいでした。
目の前に広がる畑の作物の数々。歌に励まされここまで頑張ってきた成果。
かつて旅人の青年が種を蒔いた畑には、村人たちの努力による作物が以前にも増してたくさん取れるようになったのでした。


めでたし。めでたし。

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