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   「今夜、二人が出会えたことに」


   …言ってくれるじゃない。
   いまどきそんな台詞、こんなところでしか聞けないんじゃないかしら。

   その、歯の浮くような台詞を心中ひそかに馬鹿にしつつも、うきうきと、少女のように喜んでいる自分がいる。


   やっぱり、いくつになってもオンナって、“自分だけの王子さま”を夢見ているものなのかしら?


   まぁ、彼がそうだ、と思い込むほどの子供、ではないけれど。


   そう。彼は仕事上、そう振舞っているだけなのだ。
   それを承知の上で楽しむことができたなら、ここに来ただけの価値はある。

   弾む会話に、つい時間を忘れそうになる自分を戒めて、彼女は反芻するように彼がホストであることを心に刻みつけようとする。


   現実の男たちとは全く異なる、“ホスト“であるジェット。
   彼女が嫌がるような事は絶対にしない。
   彼女が望むように振舞い、彼女を楽しませる為だけに存在する、架空の男。


   それを、忘れちゃいけない。
   のめり込んではいけない。


   「素敵な時計ですね。ちょっと見てもよろしいですか?」
   「え?ええどうぞ」
   唐突な申し出に返事を返すと、すい、と縮まる距離。
   触れるか触れないか、というぎりぎりの距離から、ジェットの体温を感じる。

   そっと手首を掲げて、顔を近づけて時計を覗きこむ彼。

   目の前にある見事な赤に、圧倒されるかのように思わず見入ってしまった。


   「…これは、染めてるの?」
   「え?」

   ヤダ。急に顔上げないでよ。

   至近距離にある、青い瞳。
   赤と青。ふたつの色を持つ彼が、ゆっくりと、笑んだ。

   「違いますよ。地毛です。……さわってみます?」


   その瞳に射竦められたように。
   その赤に吸い寄せられたかのように。

   彼女は、おずおずとその髪に指を絡めた―。

ホスト・ジェットにハマる あくまでホストはホストとして楽しむ



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