元気力UP!

元気力UP!

2014年12月05日
XML
カテゴリ: 吾輩は猫である
吾輩は猫である。

名前はまだ無い。


 どこで生れたかとんと見当がつかぬ。

何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

吾輩はここで始めて人間というものを見た。



しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。

この書生というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。

しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。

ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。

掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。

この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。

第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶だ。

その後猫にもだいぶ逢ったがこんな片輪には一度も出会わした事がない。

のみならず顔の真中があまりに突起している。

そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。

どうも咽せぽくて実に弱った。

これが人間の飲む煙草というものである事はようやくこの頃知った。


 この書生の掌の裏でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。

書生が動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗に眼が廻る。

胸が悪くなる。

到底助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。

それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。


 ふと気が付いて見ると書生はいない。

たくさんおった兄弟が一疋も見えぬ。

肝心の母親さえ姿を隠してしまった。

その上今までの所とは違って無暗に明るい。

眼を明いていられぬくらいだ。

はてな何でも容子がおかしいと、のそのそ這い出して見ると非常に痛い。

吾輩は藁の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。



自分でも連載で読みたい小説がいっぱい有りますので順次連載していきたいと思います。

本連載は青空文庫収録ファイル「吾輩は猫である」(新字新仮名、作品ID:789)から引用・編集し提供させて頂いています。
夏目 漱石
慶応3年1月5日(新暦2月9日)江戸牛込馬場下横町に生まれる。本名は夏目金之助。帝国大学文科大学(東京大学文学部)を卒業後、東京高等師範学校、松山中学、第五高等学校などの教師生活を経て、1900年イギリスに留学する。帰国後、第一高等学校で教鞭をとりながら、1905年処女作「吾輩は猫である」を発表。1906年「坊っちゃん」「草枕」を発表。1907年教職を辞し、朝日新聞社に入社。そして「虞美人草」「三四郎」などを発表するが、胃病に苦しむようになる。1916年12月9日、「明暗」の連載途中に胃潰瘍で永眠。享年50歳であった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2025年01月07日 22時23分07秒
コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: