不安の癒し方(中)






あれから、また1週間が経った。

静かに時は流れている。淳の事も追いかけなくなった。弘一の側にはいつでも広田がいて、それだけで安心するようになった。

「弘一。帰ろうぜ」
「あ、はい」

にこ、と微笑んで広田の側に寄り添う。
淳の姿をたまに見かけると、胸がちくっとするけれど、それ以上は考えないようにしている。自分から、視線を逸らしていた。

「・・ちょっとは考えてくれたか?」

あの日から、弘一は広田の部屋に退社後に寄るようになっていた。ソファに隣り合って座り、ただ、雑談を交わす。初めて抱かれた日から、広田は弘一に指一本触れていない。ただ、帰りがけに蕩けそうなくらい甘いキスを与えられるだけだ。たった1度されただけで、何も考えられなくなるような、甘い、情熱的なキス。その後で、柔らかく抱き締められて、好きだよ、と耳元で囁かれる瞬間・・・不意に、泣きそうになるくらいな幸福感。

「どうかな?まだ答え、出ない?」
「・・俺・・・」
「ん?」
「俺・・・先輩は、好き、です」
「本当に?」

一瞬前の不安そうな顔から一転、ぱっと顔を輝かせた。

「はい」
「じゃ、俺と正式に付き合ってくれるか?」
「それは・・・」
「俺の事、好きって言ってくれたよな?」
「・・・はい」

嫌いじゃない。今、自分を幸福な気持ちにさせてくれているのは、淳じゃない。今、笑顔で側にいてくれる広田だ。

「じゃ、俺と付き合ってくれるだろ?」
「・・・は・・」

---プルルルル・・・。

もういい、と思い、返事をしようとした矢先、弘一の携帯が鳴った。

「・・すみません」

真剣な広田の視線から逃れるように顔を逸らせ、軽く畳んでおいた背広のポケットから携帯を取り出す。

「あ・・・」

表示されている番号・・・淳からだった。


まだ鳴っている携帯を手に固まっている弘一を、心配そうな目で見つめていた広田の呼びかけに、我に返る。
「出ないのか?」
「え・・あ、いえ・・」

ぴっ、とボタンを押し、僅かに震える声を押し出す。

「・・もしもし・・?」

『弘一?俺、淳だけど』
「・・・・・」
『どした?今何やってんだよ?』

昔と変わらない口調で話し掛けて来る。しばらくぶりに聞く、淳の声だった。

「別に・・・」
『なぁ。今から出て来らんないか?やっと仕事、一段落したんだよ。久しぶりにゆっくり逢えない?』
「・・・・・」
『弘一?』
「俺・・・」

「誰からなんだ?」

割って入った第三者の声に、淳の口調が変わる。

『弘一。誰と一緒なんだ?こんな時間に・・・誰なんだよっ』
「・・・広田先輩だよ」
『広田?広田ってお前の部の・・』
「・・・俺、先輩から告白されたんだ」
『・・・・何?』
「・・好きだって、言われた。1週間前に」
『・・・・・』
「・・俺、先輩と寝たんだ」
『こう・・・!』
「お前に非難されるいわれはない。もう・・終わりにしたいんだ」
『弘一っ。お前、何・・何言ってんだよっ?俺と、別れる?馬鹿言うな!そんなの勝手に決め・・』
「・・・ばいばい」

何も聞かずに電話を切った。すぐ後ろにいた広田を振り返り、小さな笑顔になる。

「・・・申し出・・受けます」

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