Lotus-eater(下)






教室に入ってみたら、既に誰もいなくて、基明だけが自分の席に座っているのが見えた。何か、目茶苦茶元気なさそうな顔してる。

「基明?どしたの、んな顔して・・・」
「・・・何でもねーよ」
「皆は?」
「・・・もう帰ったんじゃねーの?」
「ふぅん、そっか。じゃ僕達も帰る?」
「・・・うん」

わざとらしくよろけながら立ち上がって、コートを手にする。どーしよ・・今渡しちゃった方がいいのかな・・・折角誰もいないし・・・物凄く元気なさげな顔してる基明・・今すぐ元気な顔、見たいしな・・・。

「あの・・ね、基明?」
「んー?」

・・何か、いつもと口調が違う。不機嫌そうで、ちょっと勇気が萎えた。でも、チョコ折角持って来たし、カバンの中から出して基明にあげるだけなんだよね。だから、居心地が悪いのを我慢して、自分の席に歩いて行った。机の横にかけてあるカバンを開けて、ちゃんと準備して来た箱を探す。

「悠人ぉ。帰んねーの?」

後ろで基明が聞くのには返事をしないで、綺麗に包まれたプレゼントを手に、くるっと振り返った。手は後ろに回したまま。

「・・・何?」
「えへへー・・・んーとね、僕、基明に渡す物があるんだぁ」


渡す物・・・それを聞いた途端、自分の顔が明るくなったのを自覚した。ちょっと上目遣いに俺を見上げてる悠人の、後ろに回された手に、きっとチョコがあるんだっ。

「欲しい?」

んな焦らすような事言うなよっ。欲しいに決まってんだろっ。

「・・・何を?」

・・でも俺も意外と素直じゃない・・待ってたみたいに思われるのも癪で、気にしてない、って態度を取ってしまった。

「んー・・えーとね、これっ」

ぱっ、と目の前に差し出されたのは、思った通りの、掌サイズの箱だった。


基明の目の前にチョコを出した瞬間の顔。きっといつ迄も僕の宝物になる。今にも蕩けそうな顔してた。

「悠人ぉ・・・」
「ん?」

何だか僕迄嬉しくなる。僕があげたチョコを手に、今にも泣き出しそうな顔してる基明に、ちょっと甘えた声で聞き返してみる。

「へへ。嬉しい?」
「当たり前だろ?これだけ、欲しかったんだ」

他のなんてゴミだよ、とか言い出す。他の、って何だよ。知らないぞ、そんなのっ。

「もーとーあーきー?」
「何?」

さっき迄は、確かに嬉しかった基明のでれでれした顔を軽く睨む。

「お前ぇ、他のって何だよっ。僕以外からも貰ったって事ぉ?!」
「う・・・っ」


しまった。つい口が滑って・・・慌てて言い添えた。

「今言っただろ?他のなんてゴミだよ、ゴミっ。俺は悠人のチョコだけあればいいんだから。あー嬉しいなー本当。生きててよかったぜ」

ほら帰ろうぜ、と悠人を促すと、まだちょっと不信そうな顔してたけど、うん、と言ってくれた。一先ずほっとする。

寄ってけよ、と悠人を家に連れ込んだ。何か食べたい、って言い出した悠人に、今日貰った義理チョコ軍団を手渡す。

「・・お前、こんなに沢山貰って・・・何時の間に・・・」

テーブルに置かれた、確かにちょっと多いかな、と思える量のチョコを、悠人が呆れ半分、怒り半分、と言った顔で眺めてる。

「でもほら。お前のおやつ代わりになるじゃん。俺は悠人からのチョコだけあればいいんだから、全部食っていいぜ」
「うー・・・」
「ほら、唸ってねーでさ」
「うー・・解ったよ」

かさかさと包みを開けて、ぱくん、と食べ始めた悠人をそこに残して、大事な大事な本命チョコを机の上に飾りに行った。色々眺めて、完璧な位置に置く。

「僕のも食べてよね」
「食う?お前のを?やだよっ」
「・・・はぁ?」
「勿体無くて食える訳ねーだろ?このまま飾っとくよ」

決まってんじゃん、と言うと、さっき迄の怒り半分の顔が、完全な呆れ顔になった。

「じゃチョコ食べないの?」
「俺はいいよ。全部悠人に譲る」
「ふぅん・・結構美味しいのにさ・・・じゃあさ基明。ちょっとこっち来て?」

呼ばれて悠人の隣に腰を据える。

「何?」
「んーとね、ちょっと目、瞑ってくれる?」
「・・いいけど?」

言われた通りに目を瞑った。

「見えてない?」
「うん、何も。何なんだ?」
「いいから。目、開けちゃ駄目だよ」
「・・うん」

小さなかさこそという音がした後、いきなり唇を塞がれた。悠人がキスしてる、ってすぐに解る。同時に、口の中が甘くなった。一瞬離れた悠人の唇を追う。腰に手を回して抱き寄せた。

「・・どう?」
「美味しい」
「でしょ?」

くすくすと笑ってる悠人に、おねだりをしてみる。

「悠人・・・もう1回、して?」

いいよ、って笑って、小さなチョコのかけらを口に放り込んだ悠人に、間を置かずにキスを仕掛けた。やっぱり甘いキス。我慢出来なくて、そのままその場に悠人を押し倒した。


一番欲しかった、悠人からのチョコは、今でも俺の机に飾ってある。今度は俺の番。もうすぐにある、ホワイトデーの日、悠人にあげるお返しにどんな趣向を凝らそうかと、今から色々考えてるとこだ。

・・ところで、悠人はバレンタインにチョコ、貰ったのかなぁ・・・。あの時は、何も考えてなかったけど、今になってちょっと気になり始めてるんだ。巷じゃ、女の子が男の子にチョコをあげる、って行事なんだから、悠人だって誰かから貰ってないとも言い切れない。あんなに可愛いんだし・・・でも、聞くのがちょっと怖くて、その質問は、今の所保留にしてある。いつか聞けるかどうかは・・・神のみぞ知る。


完

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