2003.11.2日記


10月下旬のある日、
友人を誘い、長年の夢であった、
『笠やん』に会いに出かけた。



『笠やん』とは、
昭和の終わりに近づくある年、
何処からともなくふらりと現れ、
笠置寺の修行場巡りにやってきた登山客の
道先案内として、数年に亘り、
活躍をしてきた猫である。

秋晴れのさわやかな日、
笠置駅から笠置山登山口に向かう。
標高約300メートル弱。
歩くには、丁度良い高さかと、思っていた。
しかしながら、山道ルートを選択したのが大変だった。
急な坂道に、段の高い幅の狭い石段を、
息を弾ませながら、
(体力のなさを思い知らされたか・・・)
笠置寺 を目指す。

山の中腹に住む年配の男性と途中で出会う。
彼は両手に重そうな荷物を持ち、
物ともせず石段を上がり、家の前まで。
こちらと言えば、汗をかきながら、
息を弾ませ、1歩1歩踏みしめて。

やっとの事で、食堂、旅館等のある舗装された道に出る。
そこからは、笠置寺まであとわずか。
寺の入り口前で、一休み。
紅葉の進む中、澄んだ空気を楽しむ。

山門を入り、入館料を払う。
ここからが、道案内猫『笠やん』の出番らしい。
今は亡き『笠やん』が案内した道を辿りながら、
点在する巨大な石の屹立した前に、
自らの無力を思い知らされる。
触れれば冷たいはずの巨石は、
何故か暖かささえ感じさせ、
心を豊かにし、安らぎを与え、
念願叶ったことを、さらに良きものへと、
置き換えてくれた。

山頂近くの広く開けた所に腰を下ろし、
おにぎりを頬張りながら、
澄んだ空気をおかずに、
来れた実感をかみしめ、
景色を眺めながらの昼食。

1匹の猫に曳かれ、山登り出来た人々を、羨ましく思う。
存命中に来たいと思っていたからだ。
しかしながら、彼は、あの世からの遣いを全うし、
この世を去った。
せめて、彼の歩いた道を辿る事で、
同じ思いを感じる事が出来るかと・・・

途中弘法大師の石像の横、
『笠やん』の追悼の碑を見つける。



笠やん 追悼

 平成2年夏、どこから来たのか笠置山に住みついて5年。
 多くの人々に愛され可愛がられた野良猫、笠やん。
 笠置山を訪れた多くの観光客と共に日に何回となく笠置寺修行場を歩いていた。
 人は案内猫、笠やんと呼んだが、君は君自身修行をしていたのではなかったのか。
 君の姿を見ていると、ほんとうに猫だろうか、ほんとうは人間ではないかと。
 愛され可愛がられた笠やん。
 しかし平成6年2月2日、冬にしては風のない暖かい日だった。
 君は君の好きな駐車場脇で、冷たくなってしまっていた。
 朝は元気だったのに、静かに笠置山を去ってしまった笠やん。
 多くの人々に愛と夢と希望を与えてくれた笠やん、有難う。
   笠やんを愛した全国の多くの人々と共にここに君の名を
   永久に止めたいと思う。
  平成7年春    笠置寺住職  慶範

   愛し猫よ ひと声なりと 雪笠置
                森 義久 

これほどに、多くの登山客から愛された猫はいただろうか。
読むほどに、頬をつたう涙。
長年の夢は、ここに叶う。


追記

笠置公民館前で会った野良猫さん。



笠やんの面影があるのでは、
と思うのは、guechanだけだろうか。


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