やっと抱っこができる



        『頑張ったぞ!やっと抱っこできるぞ!』

わが子を抱く時。

それは、10ヶ月もの長い時間。

家族の誰もが待ち望んだ瞬間だった。



産まれてきた赤ちゃんは頑張って生きようとした。

小さいからだと小さい心臓で。

必死に生きようとした。

お腹の中で聞いていた声に励まされてた。

その胸に抱かれるために。

必死に生きようとした。



小さな心臓は一生懸命に拍動した。

ただただ。
生きるために。

小さな肺は一生懸命に呼吸した。

ただただ。
生きるために。

ちいさなココロは大きなココロで祈った。

ただただ。
生きるために。



ちいさな体はママに抱かれることを望んでいた。

そしてママも。



ちいさな体は頑張った。

ママも、頑張っておっぱいを搾ってできる限りのことをした。



でも、そのおっぱいは使われることはなかった。



ちいさな体は待つことに決めた。

遠くて近い世界で、待つことに決めた。

そして、ちいさなイノチは呼吸をやめた。



ママも家族もたくさん泣いた。

人目を憚らずに思いの限り泣いた。



頑張った94時間は決して無駄ではなかった。

みんなそう感じてる。

そう感じているに違いない。

みんなそう感じてる。

無駄だった時間なんて1秒もない。



『頑張ったぞ!やっと抱っこできるぞ!』


それは、パパの思いを託したコトバだったのかもしれない。










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