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忘備 欧州や日本、インドなどを巻き込む米バイデン政権の対中国「包囲網」のもくろみは、トランプ前政権の単独行動主義とは対照的だ。「国際協調」が大好きな日本の外務省やメディアが高く評価するが、肝心の中国・習近平政権への痛撃からはほど遠い。バイデン政権は習政権が恐れる金融制裁に踏み込もうとしないからだ。 今年1月、トランプ政権が退場し、バイデン政権に代わると、習政権は香港の選挙制度を改めさせ、民主主義と自治を完全に消滅させた。バイデン政権はこれに対し、口先で非難しただけである。習政権はバイデン政権が実効ある行動はしないオバマ政権時代の再来だと見ているに違いない。 3月12日、バイデン氏の呼びかけによる日米、オーストラリアとインドの4カ国の枠組み「クアッド」のオンライン会合が開かれ、「インド太平洋での自由な航行」をうたったが、中国や南シナ海の名指しは避けた。すると北京外交部は「クアッドは無意味な話し合いの組織」だと半ば嘲笑した。毛沢東はかつて「革命とはお茶を飲んでおしゃべりすることではない」と言い放ったと伝えられるが、もとより名よりも実を重視する中国人にズシンと響くはずはない。 新疆ウイグル自治区の凄まじい人権侵害については欧州連合(EU)、英国なども対中制裁に同調したが、自治区の公安トップへの資産凍結が主である。同自治区での強制労働による製品が流通しないよう監視を強めているのは、トランプ前政権による綿製品の輸入禁止措置に基づいているだけだ。 3月18日には、アラスカで米中外交当局トップの初会合が開かれ、ブリンケン米国務長官が「中国の行動は、世界の安定を維持するためのルールに基づく秩序を脅かしている」と非難すると、楊潔チ(よう・けつち)共産党政治局員が「軍事力や金融覇権を利用して、国家安全保障の範囲を過剰に拡大している」と反撃したが、中国側は図らずも弱点をさらけ出したと筆者は見る。しかし、バイデン政権側は無頓着だ。 中国では中国人民銀行が流入するドルに応じて、経済成長の原資の人民元資金を発行する。人民元は国際金融センター香港で香港ドルに換えられる。香港ドルはドルと固定レートで自由に売買できるハードカレンシーなので、香港ドルを介せば存分にドルを調達できる。香港は習政権の生命線なのだ。 トランプ前政権から貿易戦争を仕掛けられた習政権は香港の完全支配へと舵を切った。2019年夏に香港の民主勢力の弾圧、一掃に乗り出し、20年7月には香港に国家安全維持法(国安法)を強制し、今年3月には香港立法会から民主派勢力を締め出した。その間に香港株式市場の中国化を同時並行的に進めてきた。 グラフは香港株式市場での中国企業の上場数、上場中国企業の時価総額シェアと売買シェアの急増ぶりを示している。特に国安法が施行された昨年7月には香港市場の「乗っ取り」がほぼ完了したことを示す。 (産経新聞特別記者・田村秀男)
2021年04月18日
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