春花の実

春花の実

2006年04月03日
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「真理学園」の教室の中。

部屋の狭さ、いや「広さ」は…あれ、何畳間ぐらいだったか?具体的な大きさこそ、さすがにもうだいぶ昔のことだし、あまりきちんと説明も出来ないけれど。
でも、
「何平方メートル」
ではなく
「何畳間」
と書いている時点で――あのきゅうくつそうな教室を見た時の、私の“げんなり”とした気持ち…少しはわかってもらえるのでは、と思うのだが。

…ところで。

「椅子に腰掛けて机に向かう」
という形ではなく、
「床に正座して机に向かう」
スタイルで勉強していたことである。

隣の人と共用の、細長い机(座卓)が数台。そしてその机に向かって正座している、十名前後の子供達。その顔や表情の動きこそ、全員後ろ向きで映っているために(プライバシーに配慮した、のか?)、あまりよくはわからないけれど。年齢は…大体、小学校低学年ぐらいだろうか。
教室は教室でも…“学校の”というよりは、まるで昔の「習字教室」や「そろばん教室」などの
“(古風な)おけいこ教室”
のようなスタイルの部屋で。子供達は――多分自分達の学校「真理学園」に初めて訪れたであろう(オウム信者ではない)外部の人間達、そして自分達に向けられているテレビカメラや照明機材等の動向にも全く興味など持っていないかのように、ただ黙々と授業(何の科目かは知らないが)を行う“先生”役らしき大人の方に集中していた。

さて。私が
「廊下もそうだったけど…この教室も、ずいぶん狭いなあ。何というか…『部屋全体が、古い』のか――。」
…そんなことに気を取られている間にも。


だが…。
「…それでは、この教室で…どんな授業が行われて…。」
「…と、このようにですね…子供達はみんなちゃんと…。」
どうしてだろう――その会話は、頭にさっぱり残らない。聞こえているのに。
耳に入ってくるのだが、全て素通りしていく…まさに「通りいっぺん」な内容。



「微妙な立場の子供達…確かに、本人の意思ではないだろう、が。
でも、彼らは(一応)保護者である親の同意のもとで、“合法的に”ここ(オウム)に居るのだから。」

「確かに『真理学園』は無認可の“学校”。
だけど、だからといってそれを頭ごなしに『不可』と決め付けるのは…いかがなものか。」

「取材はあくまで、オウム側の理屈に寄り添う形で行わないと。
…でないと、せっかく取材に応じてくれた彼らの『ご機嫌』を損ねてしまうから。」

“気づかい”は、先ほどと一緒。
番組の、形の上では“生直撃”――でも、中身は…何のことはない、予定調和。

…と。
「…あれ?」
彼ら――リポーターと信者、男二人の会話の中身がどうしても頭に入らずにいた私は、ふとあることに気づいた。
…それは。
「え、カメラ…何で?どうしてこんな…。」
生放送でずっと映っているテレビの画面。その映像が――段々と、“ある不自然な方向”に寄っていったからだ。

“ある不自然な方向”、それは…教室の中にいる子供達の中の、ある一人の男の子。
画面に背中を向けたまま、じっと正座して「真理学園」の“教師”の授業を受けている一人の子供。
中継の「音声」は相変わらず、リポーターと男性信者の“なあなあ”な会話のままなのに。でも、何故か「映像」は――テレビカメラは、その顔も見えない子供の方に、どんどんと寄っていった。

最初、私はどうしてカメラが、わざわざその子の「後ろ姿」だけをアップにしようとしているのかが、わからなかった…が。
しかし…間もなく、理解出来た。
それは――カメラが映す「映像」が、明らかにどんどん…正座しているその子の
“下へ、下へ”
と寄っていったからだ。

そう。その時カメラマンが撮りたかったのは。
その子の「後ろ姿」ではなく――。

朝の生放送のワイドショー。全国に放送されている番組の画面全体に、その時大きくアップになったのは…。
オウム真理教「真理学園」の教室で学ぶ子供の、正座している足…の、靴下の裏。

「うわっ…何だ、これ?――真っ黒じゃないか。」

朝なのだ、まだ。学校は――そしてもちろん、「一日」はまだ始まったばかり。
なのに…もう既に、真っ黒に汚れた…汚れている、靴下。

その「真っ黒」、決して
「今朝、たまたま雨が降っていて…。」
「で、その雨で出来た水たまりに足を入れて。」
「その泥水で、うっかり汚してしまって――。」
とかの…そんな、昨日今日の“新しい汚れ”ではなく。

あれは、もっと…。
――というか。そもそも靴下を、どうしたらあそこまで真っ黒に
「汚すことが出来る」
だろう?
例えば――もし一度履いたきり全く洗わず…そして、脱いだりもせずに。そのまま毎日、ずっと履き続けたら…あるいはあの時の靴下と同じように、汚すことも可能、だろうか。

正座した足もとがアップになったからこそ見えた、靴下の裏。
――当然“靴下の周囲”も、それまでとは違ってよく見える。

「床…ゴミだらけじゃないか…これ、最後に掃除したの、一体いつだろう。」

ゴミ…というか、要するにホコリ。
“ちりも積もれば”――白っぽいホコリのせいで、教室の床全体がくすんで見えた。
最初見た時、私が
「古い」
と思った部屋の印象も…何のことはない。それも全て、結局は
「白いホコリでくすんでいただけ」
だったのだ。

テレビカメラはその後も、しばらくの間「靴下の裏」を大きく映し続けた。
そこに何か、特に動きとかがある訳でもない。“ただ、正座しているだけ”、それだけの子供の「靴下の裏」を。

「だから…それは…。」
「…なのでして…。」

テレビから流れてくる「音声」は、相変わらず男二人の“予定通り”の会話を流していたけど。
もはや、私はそちらを聞こうとは思わなかった。

オウムがどんな団体で。
「真理学園」がどんな学校で。
…そして、その中であの子供達が、一体どんな扱いを受けているのか。

あの子の靴下の裏を見ただけで、もう充分だったから。





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最終更新日  2006年04月04日 05時03分57秒
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