第一話


   第一話『お騒がせトリーシャ』


【スクール三階・2年魔術科A組教室】

「ふぁああああぁぁぁ~~~………ぁぅぁ」

やっっっとあのかったるい始業式が終わり、スクールの三階にある自分の教室に戻ってこれた。
机と椅子は床に固定されていて、席は自由。好きな場所に座れる。
後ろの席はいつもの競争率が激しいため俺は無難に真ん中の席を取っている。

「う~、疲れたー………」

俺の隣にトリーシャがふらふらと座り、溶けるかのように机に突っ伏した。

「最初から最後までずっと寝てたのにか?」

「『式』がつく行事は、なんでも疲れるもんなの。身体動かすほうが全然マシだよぅ……」

そう言って、トリーシャご自慢のツインテールごとさらに溶ける。
まさに『垂れトリーシャ』といったところか。

「まぁ、確かにな。でもトリーシャ、お前は身体動かすより前にちゃんと魔術制御出来るようになれ。
こういう風にさ」

ふぅ、と一息着き目を閉じて右手に精神を集中させる。

『生ける物総てに明るき光与えるそなたの力、我が手にその力を……』

詠唱を唱え、自分が使いたい魔術の効果・構成を完成させると同時に日の光のような暖かみが
右手を包み込んだ。
そして目を開けると構成通り、右手が七色の光を発していた。

「で、半円を描くように腕を振ると──ほれ、虹の出来上がり」

光が伸びる、というのがこの魔術の効果。そして光がすぐ消えるのではなく、しばらく光続けさせる
というのがこの魔術の制御。
一般的にはこれがイヤに難しいのだが、俺は親の遺伝からかこういった制御は他の人よりも得意なのだ。
しかしトリーシャはその真逆で、制御をかなり苦手としている。

「う……そ、それくらい私にだってできるわよっ。見てなさいよ~……」

トリーシャは目をつぶり、両手を前き突きだして詠唱を始めた。

『この世照らす暖かき光よっ!』

トリーシャが詠唱を始めた途端、ふと嫌な予感──もとい身の危険を感じた。
『詠唱魔術』は『簡易魔術』と違い構成に失敗すると何が起こるかわからないため、
慣れてない者が詠唱魔術を使うにはそれなりの危険を伴う。
その詠唱魔術をトリーシャは集中せずに構成している……明らかに危険な状況。

「ちょっ、止めろトリーシャ!ロクに簡易魔術すら使えない奴がンなテキトーに詠唱魔術なんて
やったら──」

『我が頭上を、照らしたまえっ!!』

トリーシャは俺の制止を無視して構成を完成させ、魔術を発動さした次の瞬間──


がぁん!


「うにゃっ?!」

金属性らしき物体がトリーシャの頭を直撃した。
その音に反応したのか、今までざわついていた教室内が一瞬にして静まり返る。


ぐわんっ………ぐわんっ……ぐわんぐわわわわわわわわわわわわわわんっ


金属性の何かは特有の甲高い音を鳴らして床に落ち、コインを回したかのような動きで床を転がり回り、
その動きが止まった時にはみんなの視線がこちらに向けられていた。

『………………』

「……あー……」

『…………………』

「お、おい、起きろトリーシャ。……トリーシャ?」

「きゅ~………」

先ほどの衝撃のせいか、トリーシャは目を回して気絶していた。

『……………………』

「……えーと………あ、俺じゃないよ?」

『………………………』

「う………あー、どこだ?──いたいた。エルミナ、ちょっとお願いが」

「え?あ、はい……なんでしょう?」

ちょっと離れた場所に座っていたエルミナが黒縁牛乳瓶底丸メガネの位置を直し(てる途中一度躓き)
ながらこっちまで歩いてくる間に俺は席を立ち、トリーシャを背負った。

「こいつを部屋に連れてくから、鍵開けてくれっ」

気を失ってるから重い………

「あの……こういった場合は保健室に連れていくべきなのでは?」

と、エルミナが『もっとも』な質問を投げかけてくる。

「それが、こいつは『超』が付くほど病院が大っ嫌いなんだ。もちろん保健室もね。だからさ」

「あ、そうなんですか……では、そうしましょう」

「したらビビリオ、あとはよろしく」

「おう、日替わりセット三日分で手を打とう」

「……二日分だ」

「まいど~♪あとは任せたまえ」

高い頼み事したなぁ。と後悔しながら、エルミナと一緒に教室をあとにした。


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