キャンバスSS


「しまった……」

三年生になった俺は、天音の要望で一緒に模試を受けることになっていた。
そして今日がその模試の日なのだが……

「まさかなぁ……寝坊、さらには道を間違えるとは……ゴメンな、天音」

謝りながら横を見ると、単なる幼なじみから恋人になった天音が表情を曇らせ、少し俯いていた。

「ううん、いいよ大輔ちゃん。私が朝ちゃんと起きれればこんなことにはならなかっただろうし……
むしろ謝るのは私のほうだよ。大輔ちゃんが謝ることじゃない。だから……ごめんね、大輔ちゃん……」

天音が申し訳なさそうに言う。

「いや、天音だけの責任じゃないよ。俺が寝坊さえしなければ、こういうことにはならなかったんだからな。
まぁ、天音がちゃんと起きていてくれればよかったんだけど……」

「うぅ……」

さらに表情を曇らせる天音。

「寝坊した俺も悪いんだ。だから、お互い様だ。な?道を間違えたのは俺のせいだけど……」

「大輔ちゃん……」

そのままの表情で天音が顔をあげる。

「……うん、そうだね。お互い様だねっ」

天音の表情が少し明るくなる。

「でも、大輔ちゃんが私の言ったことをちゃんと聞いていてくれれば、道を間違えなかったのにねぇ~♪」

少しイジワルっぽく言う天音。

「だから、悪かったて言ってるだろっ」<ツン。

「にゃあっ!」

おでこを指でつっつくと、天音が可愛らしい悲鳴をあげる。

「う゛~っ。何もつっつくことはないじゃ──」<ツン。

「ふにゃああぁんっ!」

わき腹を人差し指で軽くつっつくと、天音はさらに可愛らしい声で悲鳴をあげる。
……もっといぢめたくなる。

「や、やめてよぉ~!大輔ちゃんひどいよっ!」

頬を膨らませ、非難の声をあげる。

「いや、天音の声可愛いかったから……つい」

「え、あ……うん」

天音の顔が赤くなる。
これがまた可愛い。

「でも、大輔ちゃ──」<ツン。

「みゃああああっ!」

まるで猫のような声をあげる。
何度聞いても、聞き飽きない。

「大輔ちゃんっ!いくらなんでも今のはひど──」

俺は人目がないことを確認し……

「んむっ!」

天音の唇を奪う。

「ん……、はぁっ……」

重ねていた唇を離す。

「大輔……ちゃん?」

天音は耳まで真っ赤に染まっていた。

「天音、好きだよ」

「えぇ!?……あっ!ちょ、ちょっと待ってよぉ~っ!!」

先に歩き始めた俺の後ろを、ぱたぱたと追いかけてくる。

「ねぇ、大輔ちゃん?」

天音はいつも通りの声色に戻っていた。

そして俺の横まで来ると……

「…………」

俯き、黙り込んでしまった。

「……天音?」

少し気になって天音の顔を見ようと俺の顔を近づけた──その時。

「んっ!?」

今度は俺が唇を奪われた。
短いキス。

「私も、大輔ちゃんことが大好きだよ」

天音が優しい声で言う。

「さぁ、早く行こう♪次の時間が始まっちゃうよ!」

子どもっぽい笑みを浮かべ、俺の前に出る天音。
……いろんな顔をするやつだな。

「そんなに急がなくても間に合うよ。俺はゆっくり行くから」

「ふ~ん……じゃあ、私は先に行くねっ。また道を間違えて遅刻したくないからね~♪」

「──っ!?あ~ま~ねぇ~……」

「えへへ♪逃げろぉ~っ!」

「あ!コラッ、待てぇっ!!」

「や~だよ~っ♪」

そんな鬼ごっこ(?)が、試験会場に着くまで続いた。







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