みずいろSS(未完成)


「夏休みだぁ~~~~~っ!」
終業式が終わり教室に戻ってきた俺は、明日から夏休みだと考えると思わず叫んでいた。
「わぁっ!ど、どうしたの、けんちゃん?いきなり大きな声出して……」
前の席の日和がびっくりしたといわんばかりの顔で言ってくる。
「どうしたの?暑さで頭でもおかしくなった?」
さらに前の席の巨大パラボラアンテナこと清香がうんざりとした表情で言ってくる。
「いや、明日から夏休みだから嬉しくて、つい」
「そうだね~、明日から夏休みだもんね~。わくわくしちゃうよぉ~」
「そうね、明日から夏休みだもんね。でも、だからって学校全域に響き渡るような声出すんじゃないわよ。ったく、小学生じゃあるまいし……」
「小学生なら、ここにいるじゃん」
「え?どこどこ~?」
日和がきょろきょろと周りを見回す。
「そうよ、小学生なんてどこにも――」
と、言葉を止める。
そして少し引きつった顔で言う。
「もしかして、その小学生って……」
「もちろん、体が未発達な清香に決まってるだろ?」
「ア、アンタねぇ……!」
清香が拳を握り、(無い)胸の高さまで上げる。
額にはしっかり怒りマーク。
……少し、ヤバイ。
「あ、あの……清香ちゃん?暴力はよくないよ……」
おずおずと日和が清香を止めようとするが……
「ふふふふふふ……。あんたぁ~、覚悟は出来てるんでしょうねぇ~……」
清香はまったく聞いちゃいない。
「はうっ。全然聞いてくれないよぉ~。しくしく……」
どんどん清香の拳が殺意に満ちていく。
(……多分俺はここで死ぬな。ごめんなまい妹。お兄ちゃん先に逝くよ……)
「こんのぉ……、変態野ろ――!」
ガラッ。
「コラーッ!鐘はもうとっくに鳴ってるんだから早く席に着けーっ!!」
と、清香が俺の顔面を(全力に殺すつもりで)殴る寸前に担任が教室に入ってきた。
清香の(ちっちゃな)体がピタッと止まる。
(あ、ありがとう先生……グッドタイミング!ユーアー・ザ・ヒーロー!!おかげで助かりました!ってなワケで先生に敬礼っ!)>ビシィッ!
「なんだ~?片瀬、何か意見でもあるのか~?」
俺の動きに反応したらしく、先生が訊いてくる。
「あ、いえ。何でもありません」
「そうか」
と、言って先生が教壇に立つ。
先程まで立っていたクラスメートがそれぞれ自分の席に戻っていく。
清香は俺に一度睨んで、何やらぶつくさ言いながら席に戻る。
一方、日和は『ほっ』と胸を撫で下ろしていた。


HRが終わり、クラス全員での大掃除が始まった。
俺の班は机拭きのみ。
楽なものだ。
ちなみに俺・日和・清香は同じ班。
床掃き・床拭きが終わり、廊下に出してあった机が全部教室に入れられた。
「さ、日和っ!さっさと終わらせるわよ!!」
「うん、がんばろ~っ」
「アンタも、サボらないでしっかり掃除しなさいよ」
「わかってるよ」
そして俺達は作業に取りかかった。


「しっかし、テキトーに並べてくれたもんだな。俺の机が南山のになってるし……」
俺の席の場所に南山が使っていた机が置いてあった。
日和や清香の席も、違う人の机になっている。
「で、俺がもと使ってた机は……あったあった。ここは……南山か?」
俺の机は南山の席にあった。
「……複雑」
これ以上、考えないことにした。


「ねぇ、けんちゃん?」
掃除が終わって帰る用意をしている時に日和と清香が尋ねてきた。
「夏休みに、みんなでどこかへ遊びに行こうよぉ!」
日和が笑顔で言ってくる。
「皆って、このメンバーか?」
「違うわよ。私や日和、そして雪希ちゃんとかよ」
「あ、なるほど」
そういえば、先程の怒りは何処へやら。
清香は普通に言ってきた。
「ねぇ~、けんちゃん行こうよぉ~」
日和が懇願してくる。
「……よし、わかったよ。俺も行くよ。雪希は俺から誘っておくから」
俺は特に用事が無いので誘いに乗ることにした。
「わぁ~い、やったぁ~!」
日和が子どもっぽく喜ぶ。
「じゃ、雪希ちゃんは頼んだわよ」
「おう、任せとけ。で、いつ何処で何して遊ぶんだ?」
「海ぃ~っ!」
日和が即答する。
『海ぃ?』
俺と清香の声がハモる。
「みんなで一緒に海に行こうよぉ!ねぇ?」
日和の懇願はまだ続く。
「海、ねぇ…。俺は別に構わないけど、清香は?」
「私も別に構わないわよ」
俺と清香が同意したのを聞いて日和のポンコツゲージがMAXになる。
「じゃあ決定だねぇ~っ!るんらら~~っ♪」
ポンコツゲージ(MAX)発動。
『……………』
俺と清香は発動された『ポンコツダンス』を見てフリーズする。
「わ~いわ~~い!海う~みぃ~って……あわわわわわ!!」
日和がバランスを崩した次の瞬間……
べしゃっ。
「……………」
「……………」
「……………」
沈黙。
「コケたな……」
「コケたわね……。しかも顔面から……」



数秒後、日和のポンコツな泣き声が教室に響き渡った。


清香・日和と別れた後、俺は商店街に行くことにした。
「せっかく海に行くんだからな、花火を持っていくのは当然だよな」
夜の浜辺で花火は常識(?)である。
「しっかし、海も花火も久しぶりだな……」
ここ数年、海に行ったり花火をした記憶が無い。
「……楽しみだな」
期待に胸を膨らませに、商店街へ歩き出す。
道の途中、俺以外の誰かが花火を持ってくるのではないか?という疑問があったが、とりあえず無視することにした。


店に着いたのはいいが、どんなものを買おうか悩む。
「う~ん……行くメンバーは俺・清香・日和、そして雪希(予定)だろ……」
だいたい4人で行くだろうと予想する。
「それならこの『家族用』を買ったほうがいいかな?」
しかし、あのメンバーのことを考えると少し足りない気がしてくる。
「でもなぁ、多分俺以外にも花火を持ってくるだろうからな。……よし、これにしよう」
結局、俺は打ち上げ花火の『お徳用』を買うことにした。


「ただいま~」
「あ、お兄ちゃんっ!おかえりなさ~い」
家に帰ると――夕食の準備をしていたのだろう――エプロン姿の雪希が居間にいた。
「あれ……お兄ちゃん、それ、何?」
と、俺が手に持っている袋に注目してくる。
「これか?」
「うん。何買ってきたの?」
「夏休みに海へ遊びに行くことになったからな、それ用の花火を買ってきたんだ」
「花火!?へぇ~、海で花火かぁ~。いいなぁ~……」
雪希が羨ましそうに言う。
「メンバーは俺・日和・清香、そして雪希だ」
「えっ……?」
自分がそのメンバーの中に入っているとは思わなかったのだろう、鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている。
「当然、雪希も行くだろ?」
「う、うん!行く行くっ!!うわぁ~い、楽しみだよぉ~♪」
雪希の顔がパッと明るくなる。
そんな表情をしている雪希の顔を見ると、なんだかこっちも余計楽しみになってくる。
「じゃ、決定だな。雪希、部活の休みの日はいつだ?」
「ん~とね、今週の土・日だよ」
「なら土曜でいいか?それなら多分あいつらも大丈夫だと思うし」
「うん!わかった。土曜日だね?あ、そうだ。ねぇ、お兄ちゃん?お願いがあるんだけど……」
雪希が遠慮がちに言ってくる。
「進藤さんも誘ってもいいかな……?」
「奴か……」
『奴』=進藤と雪希がなんで仲が良いのか?といつも思う。
おとなしい雪希と比べ、やかましいくらい元気すぎる進藤。
うるさくはあるが、悪い奴ではない。
「ねぇ……駄目、かな?」
「いや、駄目じゃないぞ」
「と、いうことは…」
「あぁ。誘っても構わないぞ」
「いやったぁ!ありがとう、お兄ちゃん!!」
少し大げさに喜ぶ雪希。
「……ん?」
ふと、何かが焦げてるような臭いがした。
「雪希、なんか焦げ臭くないか?」
「え?……あっ!大変っ!!」
悲鳴に近い声をあげ、バタバタと台所の方へと消えていく。
「まさか……」



「あ~ん!お魚さんが大変なことになってるよぉ~っ!」
「……やっぱり」
嘆息混じりに言う。
多分、魚が焦げたのだろう。
「え~ん、真っ黒だよぅ……」
まだしばらく夕飯まで時間がありそうなので、俺は部屋で少し寝ることにした。


「お兄ちゃ~ん、ご飯できたよぉ~!」
下から雪希の声がしてくる。
「わかった、今行く」
階段を下りる途中、あの焦げた魚が出るのではないか?という不安があったがさすがにそれはなかった。
「はい、お兄ちゃん」
「おう、サンキュー」
雪希から炊きたてご飯を受け取る。
いつ見ても雪希の料理はうまそうに見える。
……実際うまいが。
ある料理になにやら赤く、いかにも辛そうな細長い何かが目に入った。
「……雪希、ひとつ聞いてもいいか?」
非常に気になって仕方が無い。
「ん?なぁに、お兄ちゃん」
「この赤くて辛そうな物体は……何?」
「あ、それ?それはね、『タカノツメ』って言うんだよ~」
雪希がいかにも『待ってました~っ!』と言わんばかりの表情で答える。
確かに鳥の爪に似ているような気がする。
だからタカノツメというのだろう。
そして、コレは色からして辛い物に違いない。
雪希はあまり辛い物が得意ではない。
俺も辛い物には強いって訳ではない。
だから辛い料理を作ることは今まで滅多に無かった。
俺は何か『裏』があると確信した。
別に雪希を疑っている訳ではないが、俺の第六感がそう言っている。
これぞシックス・センス、まさに超能力。
「……お兄ちゃん?」
ビバ・ニュータイプ!!
「お兄ぃ~ちゃ~ん!?」
俺はア●ロ・レイだ!!
「はうっ。反応してくれないよぉ~」
●ムロ、ガン●ム行きまぁーすっ!!
「お兄ちゃんっ!えい!!」 (指で突こうとする)
すかっ。
「うわ、かわされたよ…」
そんな迂闊な攻撃に当たるかっ!!
「こーなったら……」 (タカノツメを箸で持つ)
むっ!?あの赤い機体は……奴か!! (赤い機体=タカノツメ)
「これを食べさせれば……!」 (健二の口に近づける)
来たな!墜ちろっ!!
ぱくっ。
「あ……自分から食べたよ……」
な……っ!?
「あれぇ~?また動かなくなっちゃったよぉ~!困ったよぅ……」
「ラ、ラ●ァ―――ッ!!!」 (辛――ッ!!!)
がたーん!!
「きゃあっ!お、お兄ちゃん!?大丈夫!?」
俺は……
「とり返しのつかない事をしてしまった……」
何故か舌が非常にヒリヒリする。
「自分から食べておいて何言ってるのよぉ~っ」
困り果てた雪希の顔が何故か横にある。
「あれ……雪希?なんで俺は上を向いて寝てるんだ?」
俺は椅子に座りながら仰向けに寝ていた。
「それはお兄ちゃんが突然変な言葉叫んで倒れたからだよ……」
半ばあきれた表情で言ってくる。
「そうか……。で、なんで俺は倒れたんだ?」
「ぎくっ」
一瞬雪希が凍りつく。
「え、え~っと、多分悪い夢でも見たんじゃないかな?そ、そうだよ!そうに決まってるよっ!」
雪希の目が泳いでいる。
「ほ、ほら、早くご飯食べようよ!そんなトコで寝てたら風邪引いちゃうよっ」
雪希は俺の目を見ようとしない。
明らかに動揺している証拠だ。
「ほらぁ、早く起き上がってよお兄ちゃん。お料理が冷めちゃうよっ」
料理を見ると、俺側にあった『赤い奴』がのってた料理の皿がが雪希側にある。
『赤い奴』=辛い。
そしてヒリヒリする舌…。
俺は多分雪希に『赤い奴』を食べさせられたのだろう……
とりあえず、俺は立つことにした。
「さ、お兄ちゃん。ご飯食べよっ」
「待て」
雪希が自分の席に戻ろうとしたが、俺はそれを引き止める。
「……はい、なんでしょう……?」
「とりあえず、アレを見ろ」
暗い表情をする雪希の後ろを指差す。
「え?」
俺は雪希が後ろを見ている間に気づかれないよう『赤い奴』を箸で取る。
「何も無いよ?お兄――はむっ!?」
疑問を浮かべた表情で前に向き直った雪希の口の中に箸を入れる。
そして口の中で『赤い奴』を放し、箸を引き抜く。
さらに空いてる手で雪希の額を一突きする。
「んぐっ!」
雪希が『赤い奴』を飲み込む。
「―――っ!?」
徐々に涙目になっていき……
ぱたり。
雪希が気を失った。


ジャーッ……カチャンッ……
なんだろう、台所から物を洗う音、食器と食器が重なるような、そういう音が聞こえる……
「ん……あれ?」
私は居間のソファーの上で毛布をかけられ寝ていた。
「確かお兄ちゃんと一緒に晩ご飯を……」
食べていたはずだった。
「なのにどうして私はここで寝て――けほっ」
少し喉が痛む。
辛い物を食べた時によくある痛み。
(そうだ、私はお兄ちゃんにタカノツメを食べさせられたんだっけ……)
ふと蘇る、タカノツメが喉に詰まって、辛くて苦しかった記憶。
(食べさせられた後の記憶が無いということは……気絶、してたのかな?)
多分、そうなのだろう。
兄と食事していたはずなのに気づいたらソファーの上で寝ているのだから。
と、いうことは、倒れた私をここまで運び、さらには毛布までかけてくれたのは兄しかいない。
(……ありがとう、お兄ちゃん)
一応心の中で礼を言う。
「ふあぁ……、なんか眠いよ……」
先程まで寝ていた所為か、眠気が襲ってきた。
すると台所から……
「あれ?この長い皿どこにしまうんだ?わかんね~っ!」
と、兄の困った声がしてくる。
(あはは……。長い皿は、食器棚の下から三段目…だよ……)
私は再び眠りに着いた。


「雪希は毎日こんな事をしてるのか……」
雪希の代わりに後片付けをした俺は、湯船の中でつくづくそう思った。
慣れてない理由もあるが、後片付けだけでも約一時間はかかった。
さらには米とぎや洗濯もするはずだ。
そして寝る前に予習・復習……
「俺には到底出来んな……」
普段は朝早く起きて二人分の弁当・朝食作り、部活から帰ってくれば風呂洗い・夕食の準備、夕食を済ましたら後片付け、米とぎ、風呂、勉強……
「雪希、お兄ちゃんはスバラシイ妹を持てて嬉しいぞ……」
心の底からそう思う。
しかし、いくら慣れているとはいえそんな事を毎日していれば疲れるはず。
「よし、今度からは毎回風呂洗いをしてやるからな!……多分」
そして俺は風呂を上がり、未だに寝ている雪希を起こして先に寝ることにした。


チュンチュン……
鳥のさえずりが聞こえる。
「ふわぁ……朝か……」
昨日まで学校だった所為か、昼まで寝るつもりが朝に目覚めてしまった。
「今……何時だ?」
上半身を起こし、枕元にある目覚し時計を手にする。
「八時十五分。……遅刻だな」
普段なら遅刻する時間だが、今日からは夏休み。
起きる時間など気にする必要はない。
「寝よ……」
再び寝ようと布団に潜り込んだ時、ドア越しから雪希の声がした。
「ねぇ、お兄ちゃん、起きてる……?」
寝てたら絶対に聞こえることはない声の大きさ。
とりあえず黙ってみる。
「昨日は色々とありがとう」
(色々……?まぁ、そうだな)
「ご飯食べるならテーブルの上にメモがあるからそれを見てね?じゃあ私は部活に行ってくるね。寝すぎは駄目だよっ!」
と言ってぱたぱたと階段を下りていく音が聞こえる。
そして少し間をおいてから……
「いってきまぁ~す!」
と、雪希の明るく元気な声がした。
「…………」
そして訪れる静寂。
カーテンの隙間から外をみると、ちょうど雪希が黄色いリボンを揺らして走っていったのが見えた。
「……静かだ」
物音ひとつしない。
「ふぁ~あ……おやすみ………」
大きな欠伸をし、俺は再び眠りについた。


プルルルルルル……プルルルルルル……
「ん……誰だ、俺の眠りを妨げる奴は………」
電話の音で目が覚める。
だが、いちいち出るのがめんどくさいので無視することにする。
「無視無視…」
プルルルルルル……プルルルルルル……
「無視無視無視……」
プルルルルルル……プルルルルルル……
「無視無視無視無視………」
プルルルルルル……プルルルルルル……



プルルルルルル……プルルルルルル……
留守設定にされていないのだろう、約五分は鳴り続けている。
「わかったよ…出りゃあいいんだろ……。ったく」
取らなければ永遠に鳴り続けると思い、仕方なく電話に出ることにした。


電話機のある居間に入り、受話器を取る。
「はい、片――」
「ちょっとあんた!いるならなんで出な――」
がちゃん。
「あとは留守設定……これでよし」
俺は速攻で留守設定にする。
設定ボタンを押した瞬間、再び電話が鳴った。
『ただ今留守にしております。ご用件のある方は、発信音の後に――』
留守番電話サービス発動。
これで一安心。
いくらサテライトシステムを搭載しているといえど留守番電話サービスに勝てるはずがない。
ちなみにまだ月も出ていないし。
……そんな事はどーでもいい。
発信音を待つことにした。
ピーッ。
(とりあえず、用件だけでも聞いてやるか……)
俺は清香のアングリーな声を予想していた。
しかし、そんな予想とは裏腹に明るい声がしてきた。
『あのね~雪希ちゃん、よぉ~く聞いてね。健二がね、この前ウチのクラスの男子生徒から―(省略)―を貰ってね、内容は―(中略)―で、しかも―(以下略)―なんだって~!』
(な、何いぃぃぃっ!?なんで清香がそのことを!?)
清香が楽しそうに留守番電話に俺の『秘密』をバラしていく。
(何故そこまで詳しいんだ!?…はっ!まさか南山のヤロー、俺を売りやがったな!ちくしょう、南山許さん!!)
『――で、そこにいる変態お兄さん?』
「なんだこのムネ無しチビッコリボン軍!!」
聞こえないだろうから思いっきり叫んでやる。
『あんたの秘密って、日替わり定食より安いのね。あははははははっ!!』
(…南山。貴様を……殺す)
『じゃあ健二?聞こえてるなら、二時までに駅に来なさい。もし来なかったら……ブツッ』
そこで通信が途絶える。
(来なかったら雪希にこの事を言う…ってか?)
十分すぎる脅しだった。
「行くしか……ないか」
メッセージを消去して、敗北感を味わいながら俺は出かける支度を始めた。
南山をどう断罪してやろうかを考えながら。


「……ふぅ」
受話器を置き一息つく。
「さて、どうしようかしら?」
健二の奴に回避不能の脅迫メッセージを送った後、予定の二時までの中途半端に余った時間をどう埋めようか考える。
「ん~……そうだっ!日和を誘ってみよっと!!電話番号は……」
プルルルルルル……ブツッ
『は~い、早坂でぇ~す。えぇ~っと、ただいま電話にでることができませ~ん。ごよーけんのある方はぁ、ぴい~っと鳴りましたらお名前とごよーけんを言ってくださ~い。ふぁっくすを送られる方はぁ、すたぁとぼたんをおしてくださ~い』
……ガチャン。
「……………」
言葉が出ないとはこの事を云うのだろう、文字通り言葉が出てこない。
「なんか、聞いてはいけない事を聞いちゃったって感じだわ……」
そんな事を思いながら、出かける準備を始めた。


「くそ、清香の奴め……」
さんざん歩かされた所為で、足が棒のようになっている。
なんで呼ばれたのかと言うとただの荷物持ちをするため。
そして荷物持ちした報酬が『雪希への』お土産。
「強制労働もいいところだ。ったく……」
文句を漏らしながら家のドアを開ける。
「あ、おかえりなさ~い♪」
ぱたぱたと居間から現れる雪希。
「ただいま……」
「どうしたの?なんかすっごく疲れた顔してるよ?」
「ああ……ちょっと強制労働してきた」
「きょ、強制労働?」
「まぁ気にするな。ほら、土産だ」
「え、お土産!?うわぁ~い、うれしいなぁ~♪お兄ちゃん、ありがとう!」
「あ、ああ……」
『俺からの土産』ではなく『清香からの土産』のため複雑ではあるが、悪い気分ではない。
「中身は何かな~?お兄ちゃん、開けてもいい??」


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