凰牙作SS


            タイトル・『ZERO』


これは2022年サイバーフォーミュラ・ワールドグランプリのアフターストーリー。

サイバーを知る人間には忘れることができない事件「アルザード事件」。
その事件から見事AOIフォーミュラをサイバー界へ復帰させた男「ブリード加賀」、彼が引退して数ヶ月。
人々は「アルザード事件」を昔の事のように忘れ、新たな風を巻き起こすであろうAOIフォーミュラに熱い眼差しを向けていた。

2023年 AOIに新たなドライバーが加わった。加賀がいなくなって後の後任は「フリッツ」に任せられていた。
彼こそ「アルザード事件」の被害者である。
当初彼のマシンには加賀の残したマシンが託されたが、彼自身またⅠからドライバーとして上り詰めて行く事を決意。
一昨年前のマシン「エクスペリオン」での出場となった。だが、それだと今のライバルたちのマシンには到底かなわない。
そこでフリッツはブースト等に改良を加え、ハヤトのアスラーダなどのライバル車にひけを取らない走りを展開した。
AOIが息を完全に吹き返した瞬間だった。
そしてAOI二人目のドライバー、フリッツに続くAOIレーサーその名は「新堂正輝」。
なんでも彼のAOI導入にはあの「ブリード加賀」が関っているらしい。
これがあの忌まわしい事件の再来を予感させるなど…誰も知る由もなかったのである…


タイトル「封印されし力」

サイバーフォーミュラ・ワールドグランプリ最終戦 日本
今期ポイント総合ランキング
第一位 風見ハヤト
第二位 カール・リヒター・フォン・ランドル
第三位 新堂正輝



なかなかの上位にランクインしている新堂だが、この状態が彼とサイバーマシンの限界を意味していた。
今期初出場となるAOIの新星「新堂正輝」。
彼は後一歩というところでのエンジントラブル、サイバーシステム「ネメシス」とのシンクロ不足による現状に
苦しめられながら最終戦を迎えていた…

――最終戦二日前――
AOI本社では今の新堂に波長を合わせるかの如くアクシデントが起こっていた……
広い一階ロビーの奥、エレベーターで上ること数分、地上59階にある上層部の人間にしか開けることのできない扉「第二会議室」。
そこでひとり怒鳴る女性の声が…
「どういうこと!?あのマシンが消えたって!!」
彼女の名は葵今日子、現AOI ZIPフォーミュラのオーナーである。
「申し訳ありませんオーナー、何者かが我々の作ったセキュリティを解除し、あのマシンを持ち去ったという情報が
今朝方入りまして…」
今この会議室にはチームスタッフ全員が集められていた。
「わかっているでしょう!?あのマシンが普通のサイバーマシンではないことを!!」
「それは我々にもわかっています!あのマシンは今はもうこの世界を離れた「加賀」さんにも扱うのがやっとだったバイオマシン…
しかし、今このトップシークレットとなっている倉庫からマシンそのものが無くなっているのです…我々にはどうすることも
できなかったんです!」
「…監視カメラには何も映ってなかったの?」
「はい…残念ながら」
メカニックの一人がうなだれるように首を下げた。
「…あのマシンが他チームに渡っていないことを願うわ」
今回の最終戦日本グランプリ決勝、この大会では各チーム唯一マシンチェンジが可能とされていた。
その中でのこのアクシデント、中でも今この状況でのマシン紛失…通常のサイバーマシンならまだこれほどの騒ぎには
発展していないだろう。
これほど今日子が激論するのには訳があった、今回強奪?紛失?消えた?マシンは通常のサイバーマシンとは多少異なった
マシンなのである。
そのマシンとは、あの風見ハヤトの駆るアスラーダと同時期に開発された、いわば兄弟機である。
マシン性能もアスラーダと同様――もしくはそれを上回るマシンなのだ。
だが、このマシンにはアスラーダには無い、大いなる不可視領域が存在するのである。
その中心的システムが「バイオエンジン」である。
このエンジンは説明がつかないことが数多くある。
唯一言える事、それは『マシンがドライバーを選び、問答無用で勝利に導く』ということである。
…それはまるで、かの「アルザード事件」を思い出させるマシンなのである。
もっと明確に言えば「マシンが意思を持っている」ということである。
あの「アルザード」は「αニューロ」と呼ばれるドリンクを媒介にマシンがドライバーを操っていたが、今回消えたマシン…
それには何の外部媒介は必要ない。いうなれば、それはドライバーの生命だけが必要なのである…。
実際、このマシンはテスト試乗で二人のドライバーを死に追いやっている経歴がある。
そのマシンを唯一操ることのできた男「ブリード加賀」、彼がゼロの領域を全開にして操ることのできた事が前年の最終戦での
出来事である。
明確に言おう。そう、そのマシンは「アルザード」のオリジナル、言わば「アルザード」の原型なのである。
そのマシンが消えたというのだ。
最終戦二日前…波乱の予感がAOIチーム全体を襲った…

――同時刻 某カフェテリアにて――
「はぁ~~、…なんでこれ以上成績が上がらないのかなぁ…」
コーヒーを一口飲んで愚痴をこぼす男新堂正輝。
「しょうがないじゃない、今のAOIにはあのエクスペリオンが唯一残されたマシンなんだから」
相槌を打つ女性「御影みゆき」は 新堂正輝の幼馴染にしてAOIZIPフォーミュラのキャンペーンガールである。
新堂がサイバー界に参入することを知った彼女は「正輝一人じゃ心もとないから私もいくわ」と言って同じチームのキャンギャルに
参加した、新堂にとって唯一安らぎを与えてくれる女性であった。
「だけどさぁ、スパイラルブーストを駆使してもあのランドルさんや新城さん、そしてあの風見さんにすら追いつくのがやっとなんだよ?
この状態で最終戦まで来たっていうのに、いまだ新型のマシンの投入の話すら出てこないっておかしすぎるだろぉ(汗)」
「確かに…あのアルザードですらフリッツさんの乗った呪われたアルザードじゃない方のマシン…加賀さんの乗っていたマシンでさえ
正輝に使わせないなんて変よねぇ…」
あごに手を当てて一緒に考えるみゆき。
「昨年加賀さんが乗っていたとされる極秘裏に処分されたっていうマシンのことをメカニックの人たちに話すと、なぁぁぁんにも
話してくれないんだよねぇ~、なんでだろ?
そのマシンがあの風見さんを打ち破ったっていう話なのに…なんで処分したんだろう?もったいないよな~」
「きっと、正輝じゃそのマシンの足元にも及ばないからみんな影で笑ってるんじゃないの?あははっ」
「笑うなよ~、現にこのAOIは僕を第一指名で取ってくれたんだぜ?」
「でも、もし加賀さんの後押しが無ければきっと門前払いだったかもよ?」
「……確かに。で、でも、加賀さんはヨーロッパのサーキットで腕を磨くためにコーチだってしてくれた、あの人のお墨付きとなるまで
腕を上げたんだ。そしてまだ未完成だけど…ゼロの領域をなんとか使える状態にもなった…」
正輝の両肩がガタガタと振るえだした。
「ごめん!…変なこと思い出させちゃったね。まだ…怖い?」
「今は大丈夫。ただ、いつどの状態でゼロが出てくるのかがまだつかめないんだ」
ゼロの領域…それはドライバーの視覚聴覚全ての感覚をフル動員した瞬間に起こるといわれる超感覚。
ただこの力は全てのドライバーが経験して扱うことができなかった力…ドライバーですら拒否する力なのである。
その力を使いこなした男は風見ハヤト、そして、ブリード加賀。
「いきなり来るんだっけ?」
「ああ、自分の周りのマシンの動き、ドライバーの考え、マシンの挙動、全てが一気に頭に入ってくるんだ。
まるで自分自身がサイバーシステムになったかのような感覚だよ…」
………二人の間に静寂が訪れた………そのとき。
「君が新堂君か?」
「?」
新堂の瞳に知らない顔の男が映りこんだ
「そうですけど……あなたは?」
「!!!」
刹那、みゆきの顔色が変わった――いや、むしろ怒りに近い表情になった
「正輝になんの用ですか?!」
「お、おい(汗))
慌てる正輝。
「おやおや、怖いお嬢さんだ。今日、僕が新堂君に接触を図ったのは『これ』を渡したかったんだけどね」
バシっ!
正輝より早く手に取るみゆき。
「用が済んだのなら帰ってください!!」
怒鳴り声が店内に響く。
「おい…みゆき、どうしたんだよ?」
「怖いお嬢さんだ…。では、これで僕は失礼するよ」
丈の長いオーバーコートを羽織った男は正輝たちの前から姿を消した。

店での出来事からいづらいと考えた正輝はみゆきとホテルに向かった。
レースでの工程上開催地を巡るドライバーたちはそれぞれホテルに宿泊していることが常識である。
――そのホテル室内にて――
「どうしたんだよみゆき?いきなり怒鳴り声なんか出しちゃってさ」
ベッドに腰かけるみゆきの顔色はさえない。
「それ結局なんだったんだよ?なんかのディスクかい?」
「あっ、これ?…なんだろうね。あ、正輝に渡すとすぐなくしちゃうから、私が持ってるね」
正輝にはわかっていた。
あのみゆきがいきなり怒鳴るなんてただ事ではないという事くらい。
…みゆきはあの人を知っている?
確かに僕たちドライバーは本社に行くなんてめったにないからサーキット以外の出来事なんて全て把握することは不可能だ。
でも、キャンギャルであるみゆきにとって本社に行くなんて造作もないこと…

深夜、寝静まるみゆきのバックから例のディスクを取り出す正輝がいた……


ED曲 SPEED LOVER
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