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「これこれ、何をそんなに泣いておる、倫ノ介」 『ち、父上...私が去年から飼っていたクワガタ虫の ガッちゃんが死んでしまったんです...』 「ふむ...そうかそうか...。それは悲しかろうな。 ...じゃがな、倫。 正確に言えば、ガッちゃんは死んだわけではないぞ」 『死んだ...わけではない...? それは...どういうことですか?』 「それはだな。。ただ、 ガッちゃんの【魂の箱】の期限が切れてしまったんじゃよ」 『魂の...箱、でございますか?』 「左様。【魂の箱】じゃ。 俗には、肉体、なんぞとも言うようじゃな。 使い物にならなくなり、動かなくなったのは、 魂の箱の部分だけなのじゃ、わかるか、倫。」 『...はあ...』 「素人には少しわかりにくいかの、ふぉふぉ。 では、倫よ。 これからワシのいうことを想像してみなさい。」 『は、はい。』 「お前は今から、【自分自身が死んだ】と思ってみなさい」 『...はい。』 「できたかの?」 『や、やってみました』 「自分の体が動かない。それが死じゃな。 ここまでは想像出来るじゃろう。 じゃが...このとき... お前の【意志】はどうじゃ?」 『...はい?』 「【意志】じゃよ。 今のお前を動かしている【意志】さえも、 死んだものとして、消せるかの? つまり、お前は 【自分という存在が全てこの世から消え去ってしまうこと】を 想像できるかの??」 『...存在が...消え去る。。。 ...。 ....。 .....? ち...父上...出来ません!』 「(深く頷き)左様。左様。」 『自分の意志が死んだことを考えようとする。 自分の意志が死んだことを考えようとする。 自分の意志が死んだことを考えようとする... こうやって... 考えよう考えようとしているのですが... どうやっても... それを考えようとする【自分自身】が、除外できません!』 「(にっこり)そうじゃな。 倫。ワシはこう思うのじゃ。 その、消せない自分自身こそが【魂】なのじゃ。 魂はな、いつまで~も消えないものなのじゃ。 その魂の入っていた【箱】がなくなろうとも、な。 その一人一人の本質である【魂】は、 きっとどこにもいかないのじゃよ。 ガッちゃんはな、ただ、ガッちゃんの魂を支える 箱が使えなくなってしまっただけなのじゃ」 『父上...。』 「寂しさはあろう。 じゃがな、これだけは忘れてはならぬぞ、倫。 【魂は消えない】のじゃよ。 ガッちゃんはいつもお前を見ておろう。 姿こそ、もうないかもしれん。 しかしな、耳を澄まし、心を傾ければ、 魂は見守ってくれているはずなのじゃ」 『...。 父上...私は...何か救われた気がします...』 「そうじゃな。 そして...生きる魂には、等しき重さがある。 人と言えども、虫と言えども、 その魂の重さには変わりはないのじゃよ。 【一寸の虫にも五分の魂】 なんて言葉もあるくらいじゃが ほんとの重さは、人も虫も変わらないのじゃと思うぞ」 『...イッスーノムシ・ニモンゴブ...、 父上、ひょっとしてこれ、英語ですか?』 「...どっからどう聞いても日本語じゃ。 お前さんは、今~のところはクワガタより 国語を勉強するのもよいかもの。ふぉふぉ。」 ※僕は「魂」をこんな風に考えております。 ちょっと思い立って小さな物語にしてみました。 最近、身内に不幸がありましたので、 魂の行く先がこうだったならいいなと思い、書き記した次第でございます。
Dec 22, 2006
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昨夜未明、hironoviewの自室から、 2年くらい前、授業中に書いていたと思われる とある小説が出土しました。 発表させてください。 これは、大学の友人の半生を少しだけの脚色を入れて書いてみようという テーマの文章だったようです。 その日、隣に座って授業を受けていたので お互いのを冗談半分に書いた覚えがあります。 「ヒトシの半生」 1984年6月、ナイル川のほとりに私の人生は幕を開けた。 生後2秒だったにも関わらず、 父と医者から胴上げをされたことを覚えている。 あまりにショックだったのだろう。 私の「もっとも古い記憶」はこの日のことだ。 私の父親は、かつてこの集落を統轄していた豪族18代パブロだった。 ・・・といっても、 父は、私が正確な物心がつく前に、 「まだ見ぬ世界を見るため」と、 海の彼方へと消えていったそうで、彼に対する明確な記憶はない。 私の「ヒトシ」という名は、 母ジョセフィーヌが語るところでは、父がつけたものだそうだ。 ご存知の方もいらっしゃるだろうが、 「ヒトシ」とはナイルの言葉で「雨雲」を意味する。 ...1984年初夏。 ナイルは雨季にも関わらず、 全く雨が降らない日が続いたという。 当時の副総長だったケン・ジャクソン3世は、パブロに 「このままではナイルの民は死に絶えてしまいます」 と嘆いた。 パヴロは「それならば」と、 生まれ来るわが子に、 雨を呼ぶ赤子として「ヒトシ」の名を与えた。 私が生まれてすぐ、ナイルにはおだやかな雨が降り注ぎ、 平穏は甦ったという。 雨を降らし、村を救った私は、ナイルの民から 「神の子」と呼ばれるようになった。 「ヒトシ」が、その年の流行語大賞に選ばれたことも、 加熱した私への思いを如実に物語っている。 私は、皆からもてはやされるような存在だった。 あの頃の私は、少なからず テングになってしまっていたのかもしれない。 「バモス」と呼ばれる、集落の市場へと行けば 商人達はいつもミカンやブドウをくれた。 それも、1ペダラも払わせずに、だ。 若かりし頃の私は、 世界は、自分にとっていいように回っていくものだ と強く信じていた。 ...それから、10年の時が流れた。 15歳になった私は、 ナイル川から程近いピエッタ村の片田舎に 事務所「チャ・オズ」をかまえていた。 ピエッタ村の産業は、 擦り下ろしたラクダのこぶから出るエキスを 美容商品として売ることで成り立っている。 私は、この産業をサポートする仕事を買って出たのだ。 全てが順調であり、仕事は、軌道に乗っていた。 そんなある夏の日のことだ。 私がお気に入りのホットカーフィーをすすっていると、 ポストがコトンと音を立てた。 目をやると、そこには手紙が1通入っていた。 差出人の住所は、日本だった。 「よしてくれよ、ちっぽけな島国がなんの用だ?」 私は独り事を呟きながら、手紙の封を手荒に開けた。 「日本こそ、本当のあなたの力を活かせる場所です」 簡潔に言うと、そこにはそういう風なことが書いてあった。 「神崎 良」という差出人は、 私が日本で成功を収めることが出来る理由をまとめ、 つらつらと列挙していた。 「また...このテの話か」 だが私は...何故か、この手紙を破り捨てはしなかった。 今にして思えば、 私は「運命」と呼ぶにふさわしい強い力に 引き寄せられていたのかもしれない。 私は、四ヵ月後、日本へと、飛んだ。 ...小説はここまでなんですけどね。 おそらく終業ベルが鳴ったんでしょう。 でもまあ、よくこんなでまかせが言えるなと思いました。おまえ、むしろ脚色しか、ないだろ、っていう(笑) なんだよ「ペダラ」って。実際、ヒトシロビンちゃんはこんな人じゃないのでご安心を。 (生まれは余裕で日本です。)大学1年のころから、こんな風に彼を扱ってたんですね☆ なんだかごめんよ、そしてありがとう(笑)
Nov 29, 2006
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15時15分。 携帯電話が鳴った。 見に覚えの無い番号に私の身は硬直した。 通話ボタンを押そうか否かと迷う私の指を すり抜けるように着信は切れた。 15時52分。 また、携帯電話が鳴った。 さきほどの番号だ。 親しみのある番号ではない。 数えると12桁もある画面いっぱいの数字列が、 無機質に並べられていた。 私は、何故かこう思った。 『取ったら、開口一番で怒鳴られる』 何故かはわからないが、こういう変な予感があった。 ごるああ!!(コラア!!の興奮版) このくらい怒鳴られる気がしていた。 私は、やはり電話を取れなかった。 「19時03分」三たび、携帯電話は鳴り響いた。 やはり、あの電話番号から、である。 私は、見つめるのみだった。 早く切れてくれ。 私は、何もしていないんだ...。 『何もしていないなら取れるはずだ』と語りかける、 もう一人の自分の存在を振り払うように、 私はただ目を背けた。 次の瞬間だ。 これまでとは違う何かに気づく。 電話が伝言モードに切り替わったのだ。 少し長く、電話の主が話をしている。 待つこと1分ほどか。 携帯はもとの状態へ戻った。 さっそく、伝言を聞いてみる。 「ごるあああ!!」から始まってもいいように、 心では「ご...ご...ご...」 と「罵声の『ご』」を耳に入れてもいい 心の準備をする私。 しかし、予想は裏切られた。 「ああ、わしだが。 あの...オマエ、あれだ。 結婚式の花は、どうするかな? わしのほうから...いや、そちらから、 電話を返してくれないようだが、 怒ってるのか? もういい加減に機嫌を直したらどうだ。 また電話かけなおすから」 ワチョーイ!!☆☆ 豪快な間違い電話キター!!☆☆ っていう。笑 (しかも俺、機嫌はさほどわるくない。っていう。) 私は思った。 人生は、思うほど、こわくない。 そして、愛に溢れているんだね。 携帯電話という冷たい機械が、 人の心をつなごうとする瞬間の 「ぬくもり」を垣間見た。 明日もし、 ここから電話がかかってきたら、 僕は出ようと思う。 「番号お間違えではないですか?? お気をつけくださいね。 ....。 娘さん、おめでとうございます。 では☆」 他人てば、時にとっても、粋な存在。 hironoview「宛てなきテレフォンコール」(珍獣文庫) ※バクダガワ賞受賞作 これは数日前の話なんですが、結局、以後、電話はかかってきませんでした。
Nov 4, 2006
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当てるつもりは、なかった。 当てるつもりは、なかった。 当てるつもりは、なかった。 いまだかつて、私はこれほど短い時間に、 同じ言葉をここまで連呼した経験がなかった。 故意ではなかった。 うらみ、つらみもなかった。 しかし、それは現実に起こった。 小さな水滴がひとつ。 そのひとしずくが、水面に落ち、 波紋を広げるように、 その「乾いた悲劇」は、 私の世界をゆがめ、揺らし、 そして震わせた。 夜6時ごろ。 私は、電車にて帰路についていた。 会社帰りの人。 学校帰りの人。 この時間は全ての家路を目指す人がおり重なり、 電車内はごった返す。 そんな満員電車の中、私は、 右肩にかけたバッグのチャックが 完全に開いてしまっていることに気が付いた。 そして、その口の中からは財布が顔を出している。 「無防備なお金=盗まれて当然」 こんな、昨今の日本に蔓延する、 犯罪を「あって当然」とするような空気の中で、 このバッグの無防備さは、危険すぎる。 そう思った私は、即座にチャックを閉めようとした。 しかし、うまくいかない。 混雑する電車内で、 右肩にかけたバッグのチャックを、左手で閉めるのは 思いのほか、困難だ。 悪戦苦闘をしたすえ、 私はバッグを一度肩から外すことを選択した。 降ろされたバッグのチャックをすんなりと閉めた私は、 再度それを肩にかけ、その流れのまま、 すぐに吊り革を右手で掴みにいった。 悲劇はそのとき、起こった。 吊り革を掴むため、伸ばした僕の、右肘の側面。 それが、 前に立っていたおばちゃんのうしろあたまに、 これ以上ないほどクリーンにヒットした。 ぱこっ。悲しいほど、狂おしいほど乾いた音が、 静寂の電車内に響き渡った。 大いなる空洞に快い衝撃を与えた音。 私の語彙では、その音の表現するのは ここまでが限界である。 しかし、 その「悲しすぎる真実」を具現化するには、 それでもあまりに遠すぎる。 おばちゃんのうしろあたまから発生したその音は、 私の心臓を激震させるには、十分すぎる威力を持っていた。 しかし、それ以上の衝撃はそのあとやってきた。 その、おばちゃんが、何故か、振り向かないのだ。 私の指は震えた。 いや... ちょ、、ちょ、、ちょ、、、 キムタクになりそうな気持ちを必死で押さえた。 乾いた口内が、やけにざらついていた。 すると。。 おばちゃんが振り向き始めた。。 しかし、嫌味なくらい、ゆっっっくりと。 それは、 お茶酌み人形が、曲がり角で方向転換する速度と似ていた。 しかし、そこにお茶はなかった。 ただ、深い怒りがその顔面に乗っかっていた。 「すいません」 即座に口からこの言葉が出た。しかし...謝りながらも、何故か、私は負けたくはなかった。 プライドがそうさせたのか。「男」がそうさせたのか。理由なき反抗が、私の心に渦巻いた。 それは、ある種の開き直りだった。 やってしまったものとして。 肘をクリーンヒッツさせたものとして。 全てのプライドを盾に、私は何故か堂々と、 「すいません」と、もう一度「主張」した。 強い瞳だった。 それは、強い瞳だった。諦めから生まれる勇気が、あったのだ。 おばちゃんは、小さく両方の口角をあげると、 もと来た早さと同じ速度で、顔の方向を直していった。 ゆっくりと、ゆっくりと。それはさながら、 前半50メートルと、 後半50メートルを同じ速さで泳ぐ競泳選手のようだった。 【hironoview著作「乾いた悲劇」(珍獣文庫)抜粋】※「バクタガワ症」受賞予定
Nov 3, 2006
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