全て | カテゴリ未分類 | | | |
2007.08.14
XML
カテゴリ:




地球の呼吸は温かみを持ったものだった。しかしそれは優しく僕を蝕む。いつでも世界は人間の生命力を吸いながら発達していく。僕は抵抗しないことにした。削るなら削ってくれ。僕は息を思いっきり吸って肺の中で溜め、それから呼吸を止めた。目を瞑る。何もかもを受け入れると自然と楽な気分になった。








随分と時間が過ぎた。僕は今もここの裏側でせっせと働いているひとたちのことを考えて、ゴミをあさっているカラスのことを考えて、今までそこにいた僕のことを考えた。でも今、僕はここにいる。それは実に不思議な気分だった。現実とかすかにずれた空間に漂っている。そして現実は僕のもとには戻らない。僕は現実のもとには戻れない。

僕の体はさらさらと音を立て始めていた。指先が崩れるのと呼応して、僕の意識も崩れてゆく。何も僕の崩壊を妨げるものはないはずだった。僕は完全に孤立した世界にあるその一部なのだから。しかし僕は形を取り戻す必要があった。地響きを感じた。威圧感を含んだ低く細かい地響きが地面に跳ね返り、空に跳ね返る。僕は目を開けた。







大樹が起き上がっている。



僕の20mほど前に、おそらく直径10mはある幹と、その5倍ほどの幅の枝と葉で構成された樹木は、ゆっくりと立ち上がった。地面を割り、横たわっていた木は地中から姿を現した。割れた地面は木が起き上がるにつれて元のように繋がり、そしてまた次の地面が割れた。根を完全に地面に固定するまでに30分ほどかかった。しかしそこに時間という概念は存在しなかった。今、そこに大樹は起き上がり、そして僕を見下ろしていた。


僕は自分が震えていることに気がついた。原因は恐怖でも寒さでもないはずだった。大樹は圧倒的な存在感で、ずれた空間を濃くした。空気は重くなり、僕は呼吸しているという実感を得た。





大樹から、羊が落ちてきた。羊が下りてきた。ふわふわと浮きながら、さまざまな角の形をした様々な大きさの羊が、地面に舞い降りて歌を歌った。彼らの一部は木を見上げ、ほかの羊は僕を見ていた。僕は立ち上がり、木に向かって歩いた。手はその形を取り戻し、僕の本物の心臓も崩れてはいなかった。


僕が羊の中に歩いて行くと、彼ら歌を歌いながらは僕のために道を作ってくれた。やがて大樹が目の前に迫ってきた。こんなにも大きかったのか、と僕は思った。偉大なる大樹はその幹をまっすぐ天に伸ばし、そして雨のように葉を揺らしていた。間からは微かに青空が見えた。僕は微笑んだ。そして、幹に触れた。そして僕は再び生まれた。







テレビのスイッチを切ったような音と一緒に、僕はまた、風によって別のところに連れて行かれる。どんなスピードで、どんな方角へ向かっているのか、僕には分からない。ただひとつ言えるのは僕が今いるここは現実的な世界ではないということだった。何かが超越していて、僕はあるきっかけでこの世界に転がり落ちてしまったのだ。遠く下に見える現実の街並みを、窓越しに見下ろしながら、僕はまた、ありえない空間をさまよう。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.08.15 00:29:17
コメント(1) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: