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2006.08.14
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ある演奏会(第二次大戦中の話です)

もう、25年くらい昔の事になりますが
日曜日になると近所の公園でバイオリンを
奏でていた老夫婦がいました。


この夫婦、普段は、ジュースや缶詰の缶を造る工場で
働いているのですが、お休みの日曜日だけ
夫婦仲良くプチ・コンサートを催すのです。


どの曲も、今も昔も耳にする名曲ばかりでした。





本日は、この二人から聞いた話なんですよ・・・

大学生の昭夫と泰子は朝のカフェにいた。


市内に焼け残った数少ないカフェで
夕方に公会堂で開かれる演奏会の打ち合わせをしていた。

泰子は今で言うマネージャー。


昭夫は、バイオリン奏者だ。


戦争中のことで、クラッシックの演奏会には
憲兵が監視役で付くことになっていた。


「曲目は、当局の了承を得てありますので
安心して演奏してください」





一年先輩でカーキ色の国民服姿の昭夫は


「こいつといっしょなら、爆弾が落ちても死なないぞ」


愛用のバイオリンを抱え上げた。


「ほんとに」


「でも、憲兵だけは勘弁して欲しいなあ。



「そうですね。わたしなんか、取り調べだって
もんぺ脱がされて調べられました」


「俺なんか、スッポンポンだぞ・・・
どうして、ベートベンやシューベルトが
非国民なんだろう」


「そんなこと言うと、また非国民ですよ」


「そうだな」


ククク・・・


二人は周りを見回しながら声を殺して笑った。


その時だ。


ウーウー・・・空襲警報が鳴り響いた。


ウーウーウー・・・


雨のように火の玉(焼夷弾)が降る中、
逃げまどう二人は離ればなれになった。


1時間か2時間か時間の感覚が失われた緊張の時を、
泰子は防空壕の中で過ごした。


空襲が治まったようなので外に出ると
一面の焼け野原だった。


ついさっきまで昭夫と過ごしたカフェは
何処にあったのか、きっと、燃えてしまったのだろう。


泰子は、自分の感覚だけを頼りに公会堂に向かった。


「公会堂に行けば先輩に会える。
でも、公会堂が焼けてたら・・・」


トボトボ焼け野原を泰子は歩いた。


何時間歩いたのだろう。


目の前に公会堂が見えた


「あった」


泰子が公会堂に着いたのは開演1時間前だった。


空襲から数時間なのに、
数少ない心の安らぎ娯楽を求めて
どこからともなく人々が集まってきた。


憲兵隊もジープに乗ってやってきた。


楽団の仲間たちも無事やってきた。


しかし、開演時間になっても
昭夫だけはやってこなかった。


他の楽団の仲間は何も言わなかった。


「来ないって事は・・・」


その後の言葉は禁句だった。


昭夫の抜けたまま演奏会が憲兵隊監視の元、開演した。


「本日の演奏会は当局が監視の元に行われる
開演閉会とも時間厳守である・・・」


憲兵隊長のピーという笛が高らかに鳴り響き
極度の緊張の中、演奏は始まった。

時が刻まれ・・・

最後の曲が終わった。


憲兵隊長は懐から笛を取り出し、
閉会の笛を吹こうとしていた。


楽屋裏から憲兵隊長の背中越しに
演奏を見守っていた泰子は天を仰いだ


「先輩・・・爆弾なんかで死なないって言ってたのに」


涙が頬を伝って流れた。


ガタッ・・・


後ろで物音がして泰子が振り返った。


殺気だった顔で憲兵隊長も振り返り、銃剣を握り直した


「貴様は・・・」


二人の視線の向こうには
顔中真っ黒で炭のようになった昭夫が
バイオリンを抱えて立っていた。


泰子は泣きながら昭夫に駆け寄った


「遅いです。遅いです。もう終わったんです」


昭夫も涙を流しながら


「ゴメン・・・あっちもこっちも火の海で・・・」


涙に暮れる二人を見ながら憲兵隊長は


「次の曲は貴様の番だな・・・泣いてる場合か」


そう言うと顔色を変えずに笛を懐にしまった。








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Last updated  2015.08.17 11:26:18
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