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2006.04.03
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「ここに100万円ある、持っていけ。」
先生はそう話して、やってきた夫婦に100万円を渡した。

「え、いいんですか。でも、今までにもお借りしていますし・・・」
「いいんだよ、100万あれば借金を返しても10万のこるだろう。


それでうまい飯でも食って気持ちを落ち着けて家に帰ったらいい。」

100万円である。そう簡単に人に貸すことはできない。
すでに先生から1300万円借りている人間に対してなら
なおさらそうだ。
返ってこないかも知れない。


それ以上は患者さんが決める。
だから、収入は患者さん次第。

治療院の家賃は29万。たいていは赤字だ。
それが続いてきたのは、毎月起こるシンクロニシティ。

必ず、家賃の振込み期限になると、直前に収入が入る。
今までに治療を受けた患者さんが、突然
「今までの治療代、30万円振り込みました。」
そんな話がゴロゴロしている。

医者にさじを投げられた人間が、数回の治療で治ることもある。
しかし、その費用の払い方は様々。

お金もあって、余裕のある人でも

先生は言う。
「払うお金は患者さんがつけた自分の命の値段。それが安いってことは
自分の命を安くみているということ。治りもよくないし、
治ってもおなじ病気か違う病気になる。心構えが金額に出るね。」

そんなのんびりしたことを言っているが、家賃の支払いは毎月

「俺が必要なくなれば、きっと家賃が払えなくなるだろう。
失うものは何も無いから、それまで精一杯やるよ。」

そんな時である。
東洋医学を使って、動物を治療する獣医さんと知り合いになった。

動物を愛し、なるべく薬を使ったり、手術することなく
東洋医学をできる限り使って治療を行う先生だ。

雑誌で信頼できる獣医80人にも選ばれたこともある。

お互いに話すうち、すぐに心が通じ十年来の友人のようになった。
そして、獣医の先生がエネルギーを使いすぎて疲れたときは
先生が治療を行うようになった。

獣医の先生は、先生と心が通じ合えたうれしさや治療をしてもらった
お礼を表現したくなった。
でも、言葉ではうまく表せなかった。

そこで、どれくらいうれしかったかを知ってほしくて
先生に手紙を書いた。

それを封筒に入れて、先生に渡した。
封筒の厚さは、5cm以上もあった。

その封筒を受け取った先生は
「たくさん手紙を書いてくれたんだな。
ちょっと読むのは大変だけど、ありがたく読ませてもらおう。」
そう思って、封筒を開けた。

すると、そこに入っていたのは一枚の手紙。
「先生、ありがとう。先生に会えたうれしさをどう表現していいのかわかりません。
言葉でうまく表せないのです。そこで、失礼とは思いながら
こんな形で表現させていただきました。どうぞお使いください。」
手紙以外に入っていたのは、100万円の現金だった。

獣医の先生も決してお金に余裕があるわけではない。
でも、何とかして先生に気持ちを伝えたかったのである。
先生が家賃で苦労していることは、少ししてすぐにわかった。

だから、それに役立ててほしくて現金を渡した。

是非に、といわれ先生はその100万円を受け取った。
これで、何ヶ月か家賃が払える。先生は、そう思った。

その次の日である。
憔悴しきった顔をしてその夫婦がやってきたのは。

わざわざ先生の実家近くから、1時間以上かけて東京まで出てきたその夫婦は
「先生、ご挨拶に参りました。」
と正月でもないのに、改まって変なことをいう。

夫婦の憔悴しきって思いつめた顔を見て
先生は何事かと問いただした。

最初は話すことを拒んだ二人だったが、何度も先生に聞かれ
実は・・・と話し始めた。
「実は、会社の借金を返済するために友人、知人を回って
きました。かき集めた金額は2410万。でも、これでは足りないんです。
もう、集められるところはありません。もう限界です。
今まで何度もこういったことがありましたが、
今回ばかりはお手上げです。
それで、夫婦これから死のうと思って。
でも、今までお世話になった先生に最期に挨拶してからと思い参りました。」

その夫婦は、すでに先生から1300万円ほど借り入れしており、
数ヶ月前には、家賃の支払いに困って先生がいくらか返してもらえないかと
話に言ったところだった。

そんな先生にお金を貸してくれなどとは思わないし、考えてもいない。
その夫婦は、本当に最期の挨拶をしようと先生の下にやってきたのである。

おそらく、その夫婦はここ数日まともに睡眠も取っていないのだろう。
目の下には黒いクマくっきりと2重にできている。うつむき加減に
ポツリポツリと話をする体からは、元気さのかけらも
見られない。思いつめた顔をしており、時折視線が遠くを見ている。

「足りないのはいくら?」
先生は聞いた。
「90万円です。これだけ集めましたが、90万円なければ何にもなりません。」

・・・
しばしの沈黙が続き、先生が口を開いた。
「あるよ、90万。ここに。」
先生は、おもむろに獣医の先生からもらった100万円を出した。

「え?」
夫婦は呆然としている。

「ここに100万あるから、持っていけ。」
「そ、そんな、先生、だって・・・」
夫婦はまさか先生がお金を持っているとは思っていない。

「いいか、この100万円はとても大事な人からもらったお金だ。
俺もお金では苦労している。でもね、この100万円よりも
あんたたちの命の方が大事だ。突然昨日俺のところにやってきたお金だ。

そして、今日あんた達夫婦がやってきて、90万円ないという。
これは、きっとあんた達のために神様が俺に渡したんだろう。
だから、持っていけ。」

「せ、せんせい。ほんとうに、ほんとうに・・・
いいんですか?」
先生は、そう話した夫婦の顔を決して忘れないだろう。

完全に諦めていた現実に、突然光が差し込むような出来事。
そんな出来事に直面すると、人はうれしいとか、かなしいとか
そんなことすら考えられず呆然とする。

「ありがとうございまず、ほんとうに、ありがとうございます。」
嗚咽にのどを詰まらせながら、夫婦は何度も何度も先生に
頭を下げた。

「それでな、借金以外に10万あまるから、うまいもんでも食って帰れ。」
そういって先生は夫婦を帰した。

「というわけなんだよ。」
いつもの居酒屋で先生は、酒を飲みながら僕に話のいきさつを話してくれた。

「でもなあ、90万円だけ渡したら良かったなあ。10万円あったら
もっと楽だったんだよなあ。」
先生は、少し恥ずかしさを隠すようにそんな話を僕にした。

世の中、まだまだ捨てたもんじゃない。
そんなシンクロニシティでした。






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最終更新日  2006.04.04 00:18:16
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