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スズムロ家の人々 5

でんわ

東京 スズムロ家

■電話

年が明け、未亡人となったチヨコが上京してきた。
姑の上京を、キカは「上陸」と言う。
今回も、どんな立場のチヨコであっても、やはり「上陸」と言ってしまう。

チヨコは元気だった。
だが、やはり、泣いたり、笑ったり、機関銃のように喋り通したかと思うと
「疲れたから寝るわね」と寝てみたり、とりあえず孫可愛さに、にこにこしてたり
チヨコは、マイペースだった。
子供も得ていて「今日はどこ行く?」「今日は何食べる?」と大喜びだ。
何しろ4人もいるので、全員のリクエストに応えるべく
今日は焼肉、今日はお寿司・・・と、毎日宴会状態で
それだけは助かるキカだった。

今回は、急死した夫のことで躁鬱状態でもあったが
やはりメインは、長男タケシ一家のことだった。

チヨコの当初の企みは、タケシを離婚させて、子供も引き取り、
関西方面の実家へ戻る、というものだった。
正直、チヨコが1人になった今、その計画を聞かされたキカは、内心「よっしゃ!」と思ったものだ。
義兄にさぐりを入れると、関西支社に転勤すればいいのだし
父子家庭、しかも父の急死で母が1人となれば、会社は許可するだろうし。
実家に戻ることは、ノープロブレム。とのことだった。

タケシとチヨコは、究極の親子だし、めでたしめでたしじゃん・・・
誰もが、そう思いながらも、
さて、離婚に対して、親権を譲る気のない夫婦を、誰がどう説得するのか。
対立する両家のババ達を誰がおさめるのか。
外野の苦労は計り知れなかった。

チヨコのターゲットは、もちろんキカだ。
「あなたなら、誰が幸せになればいいかわかるわよね。
あんな嫁にタケシは任せられない。ゴンタにだって、いい親じゃないんだもの!
あんな嫁は家庭を持つ資格がないのよっ」
チヨコは、荒れる。
「お義母さん、ちょっと言わせてもらうけど
夫婦のことは夫婦の責任だから、お義母さんが前に出て色々言うのは」
言いかけたところで、チヨコはキカの声など聴いていないかのごとく、
延々と芝居くさい台詞は続き、怒りから涙に移行しているところだった。
最後には、カーテンの陰で
「タケシが不憫でー・・・」と、おいおい泣き崩れてしまった。
キカもさすがに呆気に取られたが、何しろ夫をなくしたばかりの未亡人だ。(しかも老人)(しかも姑)

ありゃー・・・と思っていると
同居している、キカの母に、チヨコのターゲットは移っていった。
「ね、おかあさんもそう思うわよね?」
「あら、おかあさん、それは違うんじゃない?」
キカの母は、けろっと返してしまった。この人も、見事に天然だ。
しかし、チヨコも人の話は聴いていない。
まったく噛み合わない会話の中、キカは、だんだん疲れてきた。
が、疲れていたのは、喋り通した義母であり
「ああ、疲れちゃった。寝るわね」と、本当に寝てしまった。
まるで、お笑いである。
なんだ、そりゃ!
キカは誰にも発信できない怒りを、自分で始末するはめになった。

チヨコに振り回される毎日で、キカの就寝も早くなった。
そんな、ある日の真夜中、携帯が鳴った。
半分、寝ぼけながらも、携帯鳴ったよね?・・・と思いながら、再び眠りに入ると
再び、携帯が鳴っている。
なんだよ、こんな時間に・・・怒り半分で出ると
それは、義姉のキミドリだった。

「もしもし、キカちゃん?キミドリよ。
もう皆、寝た?気づかれないように、こんな時間に掛けたのよ」
「どどどど、どうしたの?!」慌てるキカに、キミドリは
「お義母さん、いるでしょ?どうしてるの?
お宅に行く前に、うちに泊まってたでしょ。もうサイテーよ」

キミドリの話で、キカもいっぺんに覚醒した。
チヨコは、まず横浜方面のタケシ一家の家へ数泊してきたのだが
その間、キミドリは、そこにいるのにいない人として、完璧無視されたこと。タケシも右へならえだったこと。
ひょえー!とキカも驚いた。
タケシ一家は戸建に住んでいて、すでに家庭内別居で、
キミドリとタケシは違う寝室にしているが
チヨコが居る間、タケシは、はしゃいで客間にチヨコと布団を並べて寝ていたそうだ。
「気持ち悪くない?!だいたい私がいるのに、その調子で徹底的に無視するのよ」
キミドリの怒りも解らなくないキカだった。

しかし、そこでキカは更に驚かされる。
「それでね、キカちゃん。悪いんだけど、なんとかお義母さんをごまかして
週末にゴンタをあずかってくれない?
私、どうしても用事があって泊まりなの。ね、お願い。
ダンナも出張でいないし、私の親は、風邪ひいててダメだって言うのよ」

はああ?!
ダンナが出張で、どうしても泊まらなきゃいけない用事?!

キカは、すっかり目が覚めた。
どいつもこいつも、ふざけるなぁっ!!
私をなんだと思ってるんだぁっっ!!

なのに朝がくれば、結局、姑に振り回され、義姉の電話に悩むキカであった。




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